2014年9月にデビューした新人ロックバンド・フレデリックのデビュー曲「オドループ」が、公開から1年以上たった今もジワジワと話題を広め、女子高生から芸能人まで中毒者が続出する不思議な"現象"を拡大させている。

3人組ロックバンド・フレデリック

三原健司(ボーカル&ギター)と三原康司(ベース&コーラス)という双子の兄弟を中心に神戸で結成された3人組、フレデリック。無名だったバンドの運命を変えたのは、1本のYouTube動画だった。その動画とは、2014年8月に公開されたデビュー曲「オドループ」のミュージックビデオ。美女2人が無表情で踊り続けるシュールな映像に魅入られる人が続出し、いまや再生回数600万回を突破。今なお注目を拡大し続けている。


歌謡曲から洋楽まで幅広いルーツをもとに、独自のキャッチーなセンスを持った楽曲を得意としていたフレデリック。この「オドループ」に最初に飛びついたのは、ライブハウスに通う若い世代の音楽ファンだった。小気味いいリズム、一度聴いたら頭から離れなくなるメロディが評判を呼び、フェスでも入場規制が相次ぐ。こうして、ロックシーン注目の新人として話題を呼ぶようになっていった。

そして2015年の夏に入って、その状況はさらに加速。アーティストや芸能人の間にも口コミで曲が広まり、より幅広い層がこの曲の持つ魅力に気づいていった。6月にはきゃりーぱみゅぱみゅが、Twitterにて「あの曲よかったなぁ」とツイート(投稿)。夏フェスではバンドメンバーとも初対面を果たし、10月にはカラオケで熱唱してる写真をツイートしたりと、どんどんハマっている状況を明かしている。

7月にはNEWSの加藤シゲアキが、「一回きいたら頭から離れないんですよ」とツイートし、ラジオで紹介。なんでもNEWS・手越祐也がお気に入りの曲として加藤に薦めたのだという。また、AKB48の柏木由紀も「オドループが頭の中でループ」とツイートしている。やはり、メロディとフレーズの持つ中毒性がハマってしまう大きな理由となっているようだ。

アーティストのみならず、「踊ってみた」で一般リスナーにも拡大

一方、「オドループ」のあの独特のダンスを真似したりアレンジした「踊ってみた」のブームも広がっている。カラオケの高校生や大学生集団から、幼稚園児くらいの男の子まで、さまざまな人が同曲に合わせて踊る動画を投稿。動画アプリ「MixChannel」で人気の女子高生2人組・まこみながこの曲を踊った動画も公開され、こちらも話題を呼んでいる。


思わず身体が動き出してしまう曲のリズム、シンプルだけどいくらでも変化のつけられる振り付けの自由度、そして「踊ってない夜を知らない 踊ってない夜が気に入らない」と繰り返す覚えやすい歌詞の言葉が、現象がここまで拡大したことの背景にある。

旧来の音楽流行のプロセスとは異なる「オドループ」現象の"SNS性"

こうして見ていくと、面白いのは、この「オドループ」現象の拡大には、マスメディアでの話題作りやテレビ露出がほとんど関わっていないということ。かつてJ-POPのヒットの方程式は、マスメディア発のものがほとんどだった。CMやドラマ主題歌のタイアップを獲得したり、ラジオでパワープレイとなったり、つまりコンビニやショップやレストランで流れたり、とにかく大量にメディア露出することで曲がヒットし、CDが売れ、アーティストがブレイクするというのが王道のやり方だった。

しかし、この「オドループ」現象は、そういうマスメディア発のトップダウン型のヒットではない。むしろSNSと動画サイト発でボトムアップ的に広がっていったブームと言える。それを生み出したのは、やはり「オドループ」という曲の持つ中毒性だった。

フレデリックは今年5月にミニアルバム『OWARASE NIGHT』をリリースし、11月25日には新作ミニアルバム『OTOTUNE』を発売。YouTubeで公開されている「オワラセナイト」、「トウメイニンゲン」も、やはり一度聴いたら頭から離れなくなるタイプの曲だ。

SNSとYouTube時代だからこその"現象"を生み出したフレデリック。これから先、彼らへの注目がさらに高まっていくのは間違いないだろう。

■柴那典
ライター、編集者、音楽ジャーナリスト。京都大学卒業後、1999年に出版社ロッキング・オンに入社。音楽誌『ROCKIN'ON JAPAN』、『rockin'on』、『BUZZ』の編集を経て、フリーとなる。現在は、雑誌やウェブメディアで編集および執筆をしており、音楽をはじめ、ニコニコ動画論のようなサブカルチャー文化や情報社会文化などを中心にさまざまな記事を手がけている。著書として『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(2014年/太田出版)。