「すごいんですよ」だけでは人は見てくれない

――今の西寺さんは、ミュージシャンとしてだけでなく、執筆活動にも精力的ですよね

そうですね。今年は藤井隆さんのアルバムとか、吉田凜音ちゃんのアルバムの仕事をして、これからはNONA REEVESのアルバムも出るので準備をしていますが、その間に『プリンス論』(新潮新書)を半年かけて書いていたり、『ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い』(NHK出版新書)が出たり。実は『ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い』は『プリンス論』の後に出すと思っていたら、早まってしまって、ほぼ一週間で書きましたね。人生で初めて「流す」仕事をしてしまうかもしれないと思ったら、傑作を書いてしまいました(笑)。

――『ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い』を最後まで読むと、『プリンス論』につながる気がしたので意外でした

僕の執筆のスタイルの悪いところとして、話が長くなるし、なんでも入れ込もうとするところがあったんですけど、新書って短いし、全部思ってることを書けないもんなんですよね。だから、今回の二冊に関しては、わざと書かなかったこともあります。でも、何冊も読むと、立体的になっていくということができたのが、今回の進歩ですね。

――その、あえて全部書かないというところに謎を感じるので、それがサービス精神になっているようにも思えました。

「これは面白いし、いいですよ、天才です、すごいんです」って言ってるだけでは、みんな読まないんですよね。『ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い』も、「すごい事件だったんですよ」ということを書いたのでは読まない。呪いがあって変なことがあったというから読みたくなるんだと思うんです。そのアイキャッチが必要だなって。あえて書かないところを作って、物足りないところでやめて、次につなげる。それができるようになったのが、最近の成長ですね。以前の僕だったら、「あれ言わないと、知らないと思われるんじゃないか」と思ってたんですけどね。

そぎ落とす美学

――そういえば『プリンス論』でも、プリンスの『ビートに抱かれて』という曲が、「極端に音をそぎ落としている」ことを書かれていましたね

あったものをなくす美学と言うのは大事ですよね。音楽にしてもそうだし、ミュージカルにしても物語にしてもそうだと思いますね。

――それを意識したのは最近ですか?

気をつけてはいたんですけど、本を書いたことで気づいたというのは大きいかもしれないですね。マイケルの本を書いたころは、マイケルが亡くなったことで、波に飲み込まれて書けたようなところがあったんですよ。でも、『ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い』は、そういう波があるわけではないから、勢いでは書けない。だから、この4冊目、5冊目を書いて、ようやく「作家」になったと。よく、「ミュージシャンで作家の西寺郷太さんです」って紹介されることがあって、以前は「えっ」ってなってなんですけど、今はそれでもいいかなと思えるようになりました。

40代の夢

――『JAM TOWN The LIVE』では、マイケル・ジャクソン、ジョージ・マイケル、プリンスと来て、今度は少年隊の本を書きたいって言われてましたね

もう、自分の中の構想はできていまして、後は書くだけなんですけど(笑)。1987年の少年隊について書きたいと思っています。錦織さんも書いていいと言ってくれていたので。

――それは楽しみです。西寺さんは、11月で42歳なわけですが、40代における夢ってありますか?

それは小説ですね。小説を書いて、それを代表作にしたいと思うし、映像化も考えて書きたいと思っています。自分の書いた作品が映像になれば、その中で自分たちの音楽も発表できるし。今、ヒット曲がない、CDが売れないって言われてますけど、『アナと雪の女王』の『Let it Go』のように、単体ではなく、映画やDVDを含め、トータルで考えてヒットするっていう可能性も見えますよね。そう考えると、歌ってまだまだ力を持ってるなと思うんです。

今までの僕は、ジャニーズの曲を作りましたとか、アイドルを育てましたっていうのがあったけど、物語を自分で作れば、そこでもいろいろできる。それが実現できれば、40代はすごくいいものになるんじゃないかなと思います。30代までで音楽をやったり、本を書いたり、ミュージカルに携わったりをしてきたことが、40代で小説を書くことで、全部つながってビンゴになるというか。今回の『JAM TOWN』では、脚本がブラッシュアップされる過程も見ているので、勉強になりますよね。実際、錦織さんにも、「脚本書けよ」って言われてるんです。

JAM TOWN
【公演名】KAAT神奈川芸術劇場プロデュース A New Musical 「JAM TOWN」
【公演日】2016年1月13日(水)~1月30日(土)
【会場】KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
【原案・演出】錦織一清
【出演】筧 利夫 松浦雅 水田航生 東風万智子/藤井隆 ほか
【スタッフ】
作詞・作曲・編曲:西寺郷太 振付:YOSHIE 作詞:金房実加
原作:齋藤雅文 脚本:斎藤栄作
主催:KAAT神奈川芸術劇場、FMヨコハマ

西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。