Microsoftが11月2日(米国時間)に発表したOneDriveの容量削減は、ユーザーに多くの混乱を招く結果となった。筆者も今回の方策には疑問が残り、ユーザーの一人として不安を覚えている。今回は改めてOneDriveの容量削減問題について整理したい。

ことの起こりはOneDrive Blogの記事からだ。OneDriveチームは突然、Office 365ユーザーに提供していた「OneDriveの容量無制限」を撤回し、無償使用可能な容量も15GBから5GBに縮小することを発表した。その詳細はYamashita氏の記事を参照していただきたいが、ユーザーにとっては寝耳に水の話である。エンドユーザーが参加するコミュニティーでは、「オンラインストレージを信用するのは間違いだ」など多くの意見や感想が並んでいた。

MicrosoftがOneDriveの容量無制限を発表したのは2014年10月。個人向けのOffice 365購入者に対してOneDriveの容量を1TBから無制限に拡大した。そこから約1年で元の1TBに戻したのである。変更理由としてMicrosoftは「一部のユーザーが過大に容量を消費している」ことを挙げた。中には、75TBもの容量(平均的なユーザーの14,000倍!)を使用しているユーザーもいるという。

筆者はOffice 365ユーザーのため、1TBの容量を使うライセンスを保持しているが、実際に使用しているのは20GB前後だ。これは日本のISPが月々のアップロード容量を制限しているため、いくらオンラインストレージ側が無制限をうたっても現実的に使えないからである。そのため今回の変更は日本のユーザーにとっては迷惑千万な話なのだ。

筆者のOneDriveディスク容量。Office 365の容量無制限キャンペーンは申し込んでいないため、全体容量は1TBに留まっている

また、「一部の迷惑なユーザーを制限すれば済むのでは」という疑問も持ち上がってくる。日本の大手携帯通信キャリアがトラフィック量を制限するため、通信速度を低下させる措置を行ってきたようにだ。そもそも「容量無制限」をうたったオンラインストレージは、どこも成功していない。先頃もEvernoteがプレミアユーザーの容量無制限ルールを変更した。

他方で「なぜ、Microsoftが容量拡大や無制限という花火を打ち上げたのか?」という疑問も浮かぶことだろう。こちらはGoogle DriveやiCloudなどライバル企業とのシェア争いに勝つための施策だった、の一言に尽きる。穿った見方をすれば、一定のシェアを確保したMicrosoftは、OneDriveおよび周辺事業をマネタイズするため、容量無制限を取りやめると同時に15GBの無償使用可能容量も5GBに削減したとも考えられる。

営利企業である以上、収益を優先するのは致し方ないが、Microsoft CEOであるSatya Nadella氏の方針「empower every person and every organization on the planet to achieve more」と相反する施策と述べると言い過ぎだろうか。

「地球上のすべての人、すべての組織に関わる人たちが、より多くのことを達成する力になる~」というミッションを掲げたNadella氏。オンラインストレージの利便性が低下したことで我々の達成力に影響をおよぼすのは確実だ

開発コード名「SkyDrive」から始まり、「Windows Live Folders」「Windows Live SkyDrive」「Microsoft SkyDrive」と名前を変えつつ、Windowsのスタンダードオンラインストレージとして進化してきた経緯を振り返ると、今回の容量削減施策に場当たり的な印象は拭えない。また、Windows 8で実現したプレースホルダー機能を「ユーザーがわかりにくかった」との理由でWindows 10では撤回するなど、機能的な迷いも垣間見える。

だが、今回の一件でもっとも重要なのは「オンラインストレージは信用できない」という不安をユーザーに与えたことだ。

筆者はOffice 2016リリースと同じタイミングでOffice 365に切り替え、NASやローカルストレージに分散していた数々のドキュメントや家族の写真をOneDriveに保存している。だが、この原稿を書き終えて時間ができたら、以前のようにNASへ戻すつもりだ。

MicrosoftはOneDriveを介したPCスタイルを「生活のあらゆるものをまとめて保存」とうたっているが、自らその提言を否定する今回の変更には、「残念」以外の言葉を見付けることができない。

阿久津良和(Cactus)

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