"初主演"は役者に大きな影響を与える。今年7月期に放送されたドラマ『デスノート』(日本テレビ系)で夜神月の妹・粧裕役に抜てきされたことでも注目を集めた女優・藤原令子(21)は、まさにその証人ともいえる。1892年に開館、2014年8月に閉館した広島・福山の映画館「シネフク大黒座」を舞台に、閉館を迎えるまでの日々が描かれる映画『シネマの天使』(11月7日全国公開)。彼女はこの作品で映画初主演を飾った。取り壊される直前の映画館・シネフク大黒座で撮影できることになり、急遽映画化が持ち上がった中での緊急オファーだった。

撮影1週間前に舞い込んだ話に心の準備ができないまま挑み、無我夢中で演じたのが映画館の新入社員・明日香役。将来に漠然とした不安を抱く明日香と同様、藤原もまた将来に悩みを抱える日々を送っていたという。ところが、映画へのさまざまな思いが詰まった本作に出演したことで、彼女の中に「女優として生きていく」という確かな覚悟が芽生える。岡山県倉敷市出身の一人っ子。「今の私があるのは両親のおかげ」と感謝しながら見せた笑顔は、必ず女優人生の糧になるに違いない。本人と対面して、さらに次の作品が楽しみになった。

――完成披露となる10月の舞台あいさつでは、あまり初主演の実感がなかったとおっしゃっていましたね。

女優の藤原令子 撮影:大塚素久(SYASYA)

今回のお話をいただいたのが、撮影に入る1週間前ぐらいでした。マネージャーさんから電話で「今週末に広島に行ってもらうから。しかも主演」と言われて、「えっ! 今週末? 広島? しかも主演!?」とビックリが重なりすぎて(笑)。それをあまりにもサラッと言われたので、うまく反応できませんでした。

――ここまで急なことはなかったんですか。

撮影前日に連絡をいただいたことなどはありましたが……初主演映画のお話をまさか1週間前にいただくことになるなんて(笑)。みっちり台本を読ませていただいて、監督とたくさんお話をさせていただいて……初主演の事前準備はそんなことをなんとなく想像していたんですが、現実は全く違いました(笑)。

――舞台となる映画館「シネフク大黒座」が取り壊される日程も決まっていたので、仕方のない事情でもありますね。時川英之監督とは現場で会われたのですか?

広島に到着して、衣装合わせのタイミングで監督とお話させていただきました。監督とは役のことを中心にお話して、私は役のイメージそのままみたいだったので、「素のままで、登場人物のセリフを聞いて、感じながら演じてみてください」という指示をいただきました。正式な台本を受け取ったのが、撮影がはじまってから3日目。とにかく、セリフを覚えることやいろいろなことに必死でした(笑)。

―― 本音としては、事前の準備は余裕を持ってやりたい?

今回のような場合は、準備をしてしまうと「素の私」を重視してくださった監督の意向とは違ってきてしまう気がします。例えば、自分とは違うタイプだったり、違う職業だったり、変化を求められる役柄であれば事前に考えておきたいかなとは思います。

本郷奏多(右)が演じるのは「いつか自分の映画を作りたい」と夢見るバーテンダー・アキラ (C)2015 シネマの天使製作委員会

――スタッフの方々の話によると、現場での藤原さんは「持ち前の明るさと粘り強さでがんばってくれた」そうです。"粘り強さ"ということは、何か苦労したところがあったということでしょうか。

初主演で不安のままやらせていただいたので、OKをいただいても「本当に大丈夫ですか?」と何度も確かめてしまいました(笑)。それは不安と同時に、監督が思うことがあればどんな些細なことでもやりたいという思いも。監督の「OK」の言い方に「OK!」と「んー……OK」みたいな感じで違いがあると、「大丈夫ですか! がんばりますよ!」となってしまって。

――そのように、撮影時間が限られているハードなスケジュールで撮り終えた本作。試写は特別な思いがあったのでは。

現場ではそうやって一生懸命やらせていただきましたが、試写を観るのが撮影から1年後のことでしたので、「1年前の自分は何をしていたんだろう……」とぼんやりと考えたりしました(笑)。それから、反省点も。自分の中で、工夫できることなどをたくさん見つけることができた作品でした。

――最近ではドラマ『デスノート』(日本テレビ系)などにも出演されましたが、ドラマは撮影を終えてすぐに放送されるので、その点は大きな違いですね。

そうですね。ドラマは足りない部分をすぐに調整できますが、映画の場合は撮影から時間が経ってしまうと、試写で観た時に「この時の私はどういう気持ちだったんだろう」と思ってしまうことが時々あります。(本郷)奏多さんもおっしゃっていましたが、この作品の主役は「大黒座」です。その歴史に助けられたこともありますし、大先輩の俳優の方々が引っ張ってくださったというところも、大きな後押しになりました。

――そういう点でも良作だと個人的には思います。今後主演作や作品に臨む上で、変化はありそうですか。

だいぶ変わってくると思います。これだけ主演としてずっと考えたりすることは初めてだったので、まずは「楽しい」というのが正直な思いです。それから、お芝居以外でも現場を引っ張っていく存在が必要なんだとあらためて感じて……今まで共演させていただいた主演の方々は、知らず知らずのうちに引っ張ってくださっていたんだということにも気づくことができました。きっと「座長」とはそういう存在なんですね。私もそう言ってもらえるようにがんばりますけど、実力が追いついてこないとなんとも言えませんよね(笑)。

――追いついていると思いますよ(笑)。舞台あいさつでは「等身大の21歳の女の子の役。同じような悩みを当時抱えていたので映画を通して私も変わることができた」とおっしゃっていました。話せる範囲で結構なのですが、どのような悩みだったのでしょうか。

19歳ぐらいの頃、このままこの仕事を続けていいんだろうかと悩んでいました。今後違う職業に就くのであれば、本格的に何かを準備しておかないと生きていく上で取り返しのつかないことになります……。私にとっては、「この仕事で生きていく」という覚悟ができていない時期でした。