キヤノンおよびキヤノンマーケティングジャパンが、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催した「Canon EXPO 2015 Tokyo」の2日目となる11月5日、キヤノンの御手洗冨士夫代表取締役会長兼社長CEOが、「キヤノンがひらくイメージングの未来」をテーマに講演。キヤノンの技術の将来像と、グローバル戦略について話した。

キヤノン 代表取締役会長兼社長 CEO 御手洗冨士夫氏の基調講演

御手洗氏は最初に、「いま、我々が注目すべきなのは、グローバリゼーションとイノベーションである」と切り出し、世界経済の動向などについて説明した。

グローバリゼーションについては、「1989年にベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終結した年に、いまのグローバリゼーションが始まっている。それまでの市場経済に参加していたのは、当時の全世界50億人という人口のうち、西側諸国の10億人にすぎない。その後、中国、インド、東アジア、ロシア、東欧、アフリカなどが参加。70億人が市場経済に身を置くようになった。世界GDPは、この25年で20兆ドルから80兆ドルへと4倍に拡大。市場が飛躍的に拡大する一方で、ライバル企業との競争が厳しくなってきた。こうしたなかでキヤノンは、経済のグローバルに的確に対応し、世界各国で事業を拡大してきたと自負している」と述べた。

しかし、「日本では、1991年からのバブル崩壊後から2010年までの期間、経済規模は500兆円前後でまったく伸びないという状況である。この理由は、戦後の先進国のなかでは、唯一、デフレを招いたことにある。平均物価が下がるなかでは、現金の価値が上がることになり、企業も国民も貯めておくことが合理的であると考える。それでは賃金が上がらず、経済が縮小均衡に陥る。2012年の安倍政権の誕生による大胆な経済政策で、日本経済は変わってきた。人々のマインドも明るくなってきた。そして、2020年を目標にGDPを600兆円にまで引き上げる大胆かつ意欲的な目標に取り組んでいる。日本経済はデフレからの完全脱却を図り、成長経済へと転換していくだろう」とした。

世界のGDP

そうした点に触れながら、「私は、経済のグローバリゼーションは第2のステージに入ったと考えている」と位置づけた。

新たなグローバリゼーション

「これまでのグローバリゼーションにおいては、先進国が、東アジア、中国、インド、東欧などの安価な労働力を活用して、グローバルなサプライチェーンを築き上げた。それによって、新興国も経済発展を遂げた。しかし、グローバリゼーションの第2ステージでは、もはや安価な労働力を獲得することは難しくなる。いま、世界経済の行方が見通しにくいのは、景気の減速懸念というよりも、グローバリゼーションのありようが大きな転換期を迎えているのと無関係ではないだろう」(御手洗氏)。

そして、「まさに、いまこそが日本にとって、チャンスが到来しているといえる」と。

「日本はデフレから脱却し、経済成長への準備態勢が整っていること、これからのグローバル経済における競争では、安価な労働力ではなく、イノベーションをいかに生み出せるかが鍵を握ること。そして、世界経済の成長が、欧米中心から、日本、アジア、オセアニア、インドにかけてのインド・パシフィック地域に移りつつあり、その経済の中心にあるのは日本。絶好のポジションにあるのがその理由である。日本経済は、拡大を続ける経済の活力を取り込むことで、新たな成長を遂げることができる」(御手洗氏)。

貿易が変わる

ここで強力なツールになるのが、多国間の自由貿易協定であるメガFTAだとした。TPP(環太平洋パートナーシップ)が大筋合意に達したことで、日本と米国が実質的なリーダーとなって、ルールづくりを行うとともに、今後の日本における経済成長の柱になることを指摘。さらに、「米国も大西洋国家から、太平洋国家へと変わっていくことになる」と述べ、「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を形成することが重要になる。こうした取り組みを進めることで、巨大で、成長し続ける市場において、ビジネスチャンスを作り出すことができる」とした。

また、2020年の東京オリンピック/パラリンピック大会では、新たな交通システムや自動化された出入国システム、会場管理システムなど、新世代のインフラが整備されることに触れながら、「8Kテレビが広がり、バリアフリー対応が広がる。世界から集まる人たちに対して、日本の先進技術や、安心・安全な社会システムを示す絶好の機会になる。これらの経済効果は30兆円にのぼると見られる。外国人観光客はこれから増加傾向にあり、日本では、うちなるグローバリゼーションが進んでいくことになる。東京オリンピック/パラリンピック大会においては、デフレとともに、東日本大震災の影響を受けた日本が、それらを克服し、輝く経済社会として復活したことを国際社会に示す、またとない機会になる」とした。