唐突ですが、質問です。10年位前にこの世の中になくて今ごく普通にあるものを、できるだけ多く挙げてみて下さい。商品・サービス、建物、企業・団体・組織、国家、概念・イデオロギー、アイドル等々、なんでも構いません。10分ほど集中して考えると、実に数多くのモノやコトが出てくると思います。スマホ、東京スカイツリー、水素自動車、ももいろクローバーZ、iPad、クマモン、北陸新幹線……。これらはイノベーションの一例です。

イノベーションは特別なことではない

では、イノベーションとはいったい何でしょうか? 我々はイノベーションを、【経済成果をもたらす革新】と定義しています。社会の役に立つ新しいことであり、かつ経済成果を伴うものがイノベーションです。非連続なものや連続的・カイゼン的なものもあります。天才的な発明からおきるコトもあれば、日常の小さな工夫も経済成果をもたらします。

前述したイノベーションは、インパクトが大きい。一方、普段の営業でお客様と行っている課題設定の方法を少しだけ変えることや、新しいマネジメント手法を取り入れることなども、経済成果をもたらすのであればイノベーションです。

そう、イノベーションは一部の限られた人のものではありません。変化の激しい現代だからこそ、ごく普通のビジネスパースンがイノベーションをおこします。イノベーティブな働き方が求められているのです。

イノベーションをおこせる人とおこせない人の違いとは?

では、イノベーションをおこす人、つまりイノベーターとはどんな人たちなのかについて、考えてみましょう。【ヨソ者】【バカ者】【ワカ者】、これらはイノベーターを表わす分かりやすいイメージです。【ヨソ者】とは、組織にとっての部外者で、中途採用者や組織に異動して間もない人などが分かりやすい例でしょうか。【バカ者】とは、何かに強い拘りを持っているハグレ者のような人のことです。【ワカ者】とは、物理的・精神的に若い人のことを示します。

【ヨソ者】【バカ者】【ワカ者】は、組織の作法や常識に抗う人ということもできます。創業時から育まれる組織の常識に、今までとは異なる光をあてる人たちがイノベーターなのかもしれません。

イノベーションをおこすためには?

イノベーターの思考の特徴は、ものの見方や考え方の柔軟性にあります。彼らは、固有の考え方(フレーミング)にとらわれません。鳥の眼で俯瞰して物事を捉え、虫の眼で事象に近づいて考える。青臭い志を持ちながらも、ビジネスを成立させる腹黒さも有する。そんなフレキシブルな発想をします。

行動の特徴はどうでしょう? イノベーションをおこすとき、それがほんの小さな変化を促すことであっても、様々な局面で有形無形の抵抗や圧力に遭遇します。そんなとき、誰に何を言われようとやる、徹底して前に進める、という行動力をイノベーターは持っています。行動しながら考える。考えてまた行動する。その繰り返しです。向き不向きより、"前向き#という感じでしょうか。

最後は志です。イノベーターには、革新を絶対に成し遂げるという執念があります。利己ではなく利他。いい社会をつくろうという未来感。そして、自分に対する責任感。誰から頼まれた訳でもないはずですが、「自分がやらねば誰がやる」という志を持っています。それは執念を通り越して、情念とでもいうべき凄味です。

日常の仕事にこそイノベーションを!

では、具体的に何をしたら、ごく普通のビジネスパーソンがイノベーションをおこせるのでしょうか? 日常の中で、下記の3つのポイントが大切だと考えています。

まず大切なのは、イノベーションの目的を見定めることです。多くの人は目的と目標を混在して考えています。「売上1億円を達成しよう」、これは目標です。目的は例えば、「完全にバリアフリーな社会を実現する」といったものです。大事なのは目的です。

次に内省をすることです。「自分はいったいなぜこの仕事をしているのか?」「社会にどんな価値を提供できているのか?」「今の自分の一番の困りごと(不便・不安・不満など)はいったい何か?」「それはどうすれば解消できるのか?」などを考え抜くことが必要です。入社動機をいま一度振り返ってみるのもいいでしょう。

非日常の場や機会を活かすことも求められます。同窓会や地域のコミュニティへの参加も非日常といえるでしょう。そこでは、普段の仕事や生活では表出しない「なるほど!」や「そうか!」がおこります。イノベーションやイノベーティブな仕事のきっかけは、このような行動なのです。

営業、企画、研究開発、総務、経理、経営企画、事業開発……どんな仕事であっても、日常業務は変化の繰り返しです。変化に対応し、変化を先取りし、行動することが大切です。

小さなイノベーションが、積み重なって大きなイノベーションに繋がるかもしれません。日常の仕事に少しずつ、イノベーティブな働き方を加えてみてはいかがでしょうか。イノベーションを起こしたい誰もが、イノベーターに成り得るのです。

※画像はイメージであり、本文とは関係ありません

著者紹介
井上功(いのうえこう)
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブプランナー。1986年リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループの立ち上げを実施。以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。2012年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材の可視化、人材開発、組織開発、経営指標づくり、組織文化の可視化等に取り組む。著書に『リクルートの現場力』『なぜエリート社員がリーダーになると、イノベーションは失敗するのか』(ダイヤモンド社)