富士通が、2016年春を目標に、PC事業および携帯電話事業を、それぞれ100%子会社として分社化する計画を明らかにした。

2014年度の富士通のPCおよび携帯電話事業の売上高は7,093億円。全社売上高4兆7352億円のうち、約15%にあたる事業を分社化することになる。分社化したPC事業の新会社は数千人規模となり、携帯電話の新会社は数百人規模になる見込みだという。

富士通は、なぜPC事業および携帯電話事業を分社化するのだろうか。

10月29日に、同社本社で行なわれた経営方針説明会において、富士通の田中達也社長は、「PCは、IoT時代において、エッジを担い、データを取り込む製品という点でも重要である」と、富士通におけるPC事業の重要性を指摘しながらも、「富士通の事業体制は垂直統合。この仕組みのなかでは、甘えの構造が生まれやすい。事業の調子が悪くても、全体として儲かっていればいいということになりやすい。これからのIoT時代は水平分業の時代となり、さまざまなチャンスが出てくるだろう。PCは、当社のインテグレーションのなかでも活用できるが、それを切り出して、独立した事業体として、グローバルで戦うことに挑戦してもらいたい」と語った。

田中社長が分社化の理由にあげたのが、「独立した事業とすることでの責任の明確化」と、「持続的な利益成長に向けてのマネジメント強化」。そして、PC事業には「甘えの構造」があったことを指摘。この構造からの脱却を目指すことになる。

富士通の現在の体制と、今後の体制のイメージ

田中社長が指摘する「甘えの構造」とは

富士通の田中達也社長

2014年度におけるPCの出荷実績は、前年の590万台から約2割減の470万台。2014年3月のWindows XPのサポート終了に伴う需要の反動により、販売台数が減少したものの、黒字を確保してみせた。だが、ここでは、米ドルに対するユーロ高が進んだことで、欧州拠点における調達部材のコスト低減効果が影響。実力値として評価するには厳しい内容だったともいえる。

さらに、今年度に入ってからも、販売低迷からは抜けきらず、期初には、2015年度の出荷計画として、前年並みの470万台を見込んでいたものの、今回、上期決算を発表したのに合わせて、50万台減の420万台へと下方修正。そして、2015年度上期は赤字に陥った。

ここ数年、PC事業は赤字と黒字を行ったり来たりしており、それが田中社長が指摘する「甘えの構造」の理由のひとつだといえる。

「PCや携帯電話のような、機動性を求められる事業は、グループ会社として独立させ、単独でも競争に勝ち抜く製品開発と、ビジネス展開を目指す。経営判断を迅速化し、子会社は独立した事業として確実な利益体質と成長を目指す。これにより、これまで以上に競争力のある新商品を、タイムリーに市場に提供していくことになる」と位置づける。

デルやレノボが選んだ「統合」の道

いま、PCメーカーは、世界的にみても、「統合」と「分割」の選択肢を迫られているといえそうだ。

統合の道を選んだ代表格がデルだ。デルは、米国時間の10月12日、ストレージ大手のEMCを、670億ドル(約8兆円)で買収すると発表。PCまでを含むエンド・トゥ・エンドのソリューションプロバイダーへの進化を打ち出してみせた。

10月20日(米国時間)から、米国テキサス州オースティンで開催された米デルのプライベートイベント「Dell World 2015」において、同社のジェフ・クラーク副会長は、「われわれは、PCビジネスにコミットし続けている。PC分野では、引き続き、大きなイノベーションが続くことになる。PCのイノベーションに終わりはない。全世界に、18億台ものPCが存在し、これをアップグレードしたいというユーザーがいる」とコメント。米デルのチーフ・コマーシャル・オフィサーのマリウス・ハース氏は、「デルはPC事業の売却は一切考えていない。PC市場は縮小傾向にあるが、そのなかでデルはシェアを伸ばしている。PC事業を継続することは、CPUやメモリ、HDDの調達といった点でも規模の経済が働き、大きなメリットがあると考えている。PC事業を売却した企業がサーバー事業で成功した試しがない」と指摘してみせた。

米デルのマイケル・デル会長兼CEOも、「スケールこそが成長を牽引する」と強調する。

躍進しているレノボも、統合路線を追求しており、それにより、PC市場における世界トップシェアを獲得してみせた。日本では、NECパーソナルコンピュータを傘下におき、ThinkPadを同社米沢事業場で生産を開始するなど、統合によるメリットを生かしている。

「分割」の道を歩むヒューレット・パッカード

これに対して、「分割」の道を歩んでいるのが、ヒューレット・パッカードだ。

同社は11月1日付で、エンタープライズ事業を中心とするHewlett Packard Enterpriseと、PCとプリンティング事業を展開するHP Incの2社へと分社化。ヒューレット・パッカードのメグ・ホイットマンCEOは、分社化することで身軽になること、意思決定の迅速化が図れること、イノベーションに注力できる体制が整うことなどを理由にあげている。

富士通も、同様に、PC事業を分社化する「分割」の道を歩んだといえる。どちらの選択肢が正しいかは、数年後に結果となって表れることになろう。