トヨタの東京モーターショー出展概要が先日発表され、新世代ライトウェイトスポーツコンセプト「S-FR」の外観と基本スペックが明らかにされた。

トヨタの新世代ライトウェイトスポーツコンセプト「S-FR」

トヨタのスポーツカーに関して、一時は「次期『スープラ』が東京モーターショーに!?」と騒がれもしたが、実際には「スープラ」のような大排気量の本格スポーツカーではなく、ファッショナブルなライトウェイトスポーツカーが出展されることになった。ただし、FRレイアウトを採用しており、トランスミッションは6速MTを搭載する。見た目とは裏腹に、硬派なスポーツカーだ。

若者のハートを射抜くため、トヨタが放つ"第2の矢"

トヨタで「FR」「マニュアルトランスミッション」のスポーツカーといえば、言うまでもなく「86」がある。その大ヒットに気を良くしたトヨタが、"2匹目のドジョウ"を狙ったのが「S-FR」だと、普通に考えればそうなるだろう。しかし、その見方はやや単純すぎるように思う。「86」は最初の1年で約2万6,000台を売った。エコカー一辺倒の日本で、FRスポーツをこれだけ売ったのは快挙中の快挙だが、トヨタが大喜びで第2弾モデルを企画したくなるほどの数字かといわれれば、そこまでではない。

では、なぜいま「S-FR」なのか? 「86」が果たそうとして、いまだ道半ばにある使命を達成するため、と筆者は見る。

「86」の使命とは、ずばり、若者にクルマを買ってもらうこと。大げさに言えば、インターネット文化に傾倒する若者をクルマ文化に引き戻すことだろう。これはトヨタに限らず日本中の、いや、いまや世界中の自動車メーカーにとって共通の課題といえる。

「86」で運転の楽しさに目覚めた若い人もたくさんいるとはいえ、全体として「86」は想定よりかなり上の年齢層に売れた。販売面では成功したが、初期の目的とはややずれた的に当たったのだ。そのずれはどこから生じたのか? 「S-FR」はそれを分析した上で、今度こそ若者のハートを射抜くために作られた、トヨタが放つ"第2の矢"だ。

「S-FR」は「TOYOTAライトウェイトスポーツの系譜を継承」したエントリーモデルとされる

「S-FR」は、「86」より下の1.5リットルクラスとし、全長3,990mm・全幅1,695mmというコンパクトサイズになっている。これは、「86」との比較ではもちろん、1.5リットルクラスの中でもかなりコンパクトな部類だ。そしてデザインは、攻撃的な「86」とは対照的に丸く親しみやすいものとなっている。

「S-FR」のデザインは「トヨタらしくない」

トヨタとしては、「86」のスポーツ性は十分に評価されたが、若者向けとしては価格や大きさ、デザインが購入へのネックになったと分析しているのだろう。クルマはどの年齢層にとっても高価な買い物だが、現代の若者はそれだけでなく、クルマに対して敷居の高さ、ある種の縁遠い雰囲気を持っているきらいがある。そこで、価格を下げるだけでなく、気持ちの上でも受け入れやすいコンパクトでフレンドリーな雰囲気を重視したのではないだろうか?

ところで、巷ではこの「S-FR」を「86」ではなく「ヨタハチ」、つまり1965年に登場したトヨタ「スポーツ800」と比較する向きが多いようだ。たしかに雰囲気は似ているが、しかし筆者は「S-FR」の外観に、あまりレトロ調の印象を持たなかった。それよりも、「トヨタらしくない」ことに非常に驚いた。

トヨタ「S-FR」インテリアイメージ

レクサスの「スピンドルグリル」ほど明確ではないが、トヨタ車にも全モデルに共通するデザインテイストがある。「キーンルック」と呼ばれるつり目のヘッドライトがそうだが、最新モデルではよりハイテクノロジーを感じさせる、ちょっとSFっぽい雰囲気を強調しているのが特徴だ。「S-FR」とともに東京モーターショーに出展される新型「プリウス」や「C-HR Concept」がまさにそうだ。

ところが、「S-FR」はまったく違う。レトロ調を狙っているから方向性が違うのだという人もいるだろうが、前述の通り、筆者はこれをレトロ調と思わない。そうではなくてもっと根本的なところ、クルマの外観を組み立てていくデザインの文法から違うように見える。ここまで違うなら、BMWがMINIを展開するように、別ブランドに分けたほうがいいのでは? と思えるほどだ。

もちろんコンセプトモデルだから、このデザインがそのまま市販車に採用されるとは限らない。とはいえ、写真で見る限り、モックアップレベルのコンセプトカーでもない。この完成度でこのデザインを世に問うことそのものが、なんとしても若者を振り返らせたいというトヨタの本気を示していると感じる。

トヨタは「シャア専用オーリス」といったユニークな試みも行っているし、米国では初音ミクを大々的にCM起用したこともある。さまざまな角度から若者を取り込む戦略を継続的に試みているのだ。ひょっとしたら、「S-FR」でその努力が実を結ぶかもしれない。