MathWorks Japanは10月16日、都内でユーザーカンファレンス「MATLAB EXPO 2015」を開催。併せて基調講演にも登壇したMathWorksのMATLAB製品エンジニアリング担当バイスプレジデントであるRoy Lurie氏がプレスブリーフィングにて、MATLABの将来に向けた取り組みと、9月に発表されたばかりの新バージョン「MATLAB 2015b(R2015b)」の機能説明などを行った。

MathWorksにてMATLABの開発を指揮するRoy Lurie氏(MATLAB製品エンジニアリング担当バイスプレジデント)

これまで産業分野では、モデルベース開発(MBD)を中心にMATLABが活用されてきたが、近年、それに加え、「データアナリティクス」「機械学習」「ビッグデータ処理」といった分野が日本でも注目されるようになり、MATLABの活用が進みつつあるという。

こうした動きの根底には「Data Economy Explodes」、「Embedded sensor analytics takes off」、「Internet of Things = embedded + data economy」という3つのトレンドが存在すると同氏は強調する。1つ目の「Data Economy Explodes」は文字通りデータエコノミーの爆発であり、あらゆる業界において、さまざまな機器から多量のデータが生成されるようになってきたが、単にデータを集めるのではなく、そうして生み出されたデータをどうやって活用し、より良い意志決定や設計の改善につなげるのか、といった点が重要になってきているとする。

2つ目の「Embedded sensor analytics takes off」は、組込機器に搭載されているセンサデータの解析が求められるようになってきたということであり、しかもデータセンタなどに集約してから解析を行うのではなく、センサそのものであったり、搭載機器であったりといったセンサの近くで実現することで、これまで考えられなかった自動運転やロボティクス、自律型ドローンといった新たなアプリケーションを実現することが可能となってきた。

そして3つ目の「Internet of Things = embedded + data economy」は、前述2つのトレンドを組み合わせたものであり、その結果、IoTが生み出される、というものである。

こうしたトレンドに対しMATLABはどう対応していくのか。その1つの答えとして同氏は「MATLAB Anywhere」という言葉を掲げる。MATLABを活用しようと思うとPC(たとえそれがクラウドやクラスタ上であっても)を用いる必要があった。しかし、どこでもMATLABを利用したいというニーズの高まりがあり、Android/iOS端末でも利用を可能とする「MATLAB Mobile」、そしてWebブラウザ上で利用を可能とする「MATLAB Online」の提供を開始。これらで扱ったデータをシームレスに活用することを可能とする「MathWorks Cloud」も併せて提供を開始した。また、MathWorks Cloud上に存在するMATLABファイルをセキュアな形で保存しておくためのストレージサービス「MATLAB Drive」も現状、テクニカルプレビュー版ながら提供を開始。これにより、なんらかの端末で操作したMATLABファイルが、更新された状態でほかの端末で確認や操作することが可能となった。

クラウドベースの「MathWorks Cloud」を介することにより、iOSやAndroid端末でも、WebブラウザでもMATLABを利用することが可能となった

実際にLurie氏が所有するiOS端末上で動いているMATLABの様子

クラウドストレージであるMATLAB Driveを活用することで、さまざまな機器とシームレスにMATLABファイルを同期させることが可能となる

こうした取り組みは「我々が重要視していることは、ユーザーが我々のシステムを使う際、専門知識を持っていなくても、とにかく簡単に使えるようにする、ということ」(同)といった理念のもとに進められているものであり、これらのほかにも、MathWorks Cloudをベースに、MATLABでデータ解析を行うためのプラットフォーム「MATLAB Platform for Data Analytics」なども提供しており、専門家でなくてもデータ解析を実現できるような環境整備を進めている。

一方、データを分析する際には、データを整理してやるプリプロセスを実施した後、予測モデルを作る必要がある。この予測モデルは例えば機械学習を用いて立てることができるが、ここでも、とにかく使いやすさを提供しようと、R2015aより提供を開始した『Statics and Machine Learning Toolbox』の機能をR2015bにて強化したとのことで、これにより65以上の機能がGPGPUを使って高速化できるようになったり、Cコードを生成し、組込機器に搭載することなども可能となったという。

なお、R2015bでは、MATLABの根本的な部分である実行エンジンがゼロから新たに設計されたという。とはいえ、過去の資産が使えなくなるわけではなく、「100%の互換性を維持している」(同)としており、まったく記述を変更することなく、過去のバージョンで記述されたMATLABのコードをR2015bで処理させた場合であっても、同社のテストでは76のパフォーマンスに敏感なユーザーアプリケーションで平均40%の実行速度向上が確認されたとする。この取り組みについて同氏は、「今回の実行エンジン刷新により、MathWorksは今後、検討しているさまざまな機能を容易に搭載できるようになった」と説明しており、その背景に、よりデータをグラフィカルに活用していく必要性があることを強調。今後は、バージョンアップごとに、データ解析や機械学習、コンピュータビジョンなどの新分野に向けて、多様な機能を手軽に活用できるようになるよう開発を行っていくとした。