急成長するサービスを支えるCTO

Retty CTO 樽石将人氏

いまや月間ユニークユーザー数1,000万人超を誇る巨大サービスとなった飲食店の口コミ投稿・検索サービス「Retty」。口コミ投稿数は、累計で170万件(2015年7月2日時点)を超えるなど、その成長はとどまるところを知らない。

Rettyのサービス展開の変遷は、2つのフェーズに分けることができる。2011年6月にサービスを開始してからの2年間は第1のフェーズとして、お店の情報を集めるための投稿サービスという面にフォーカスしていた。しかし、ユーザーが10万人を超えた2013年6月ごろより、溜まった情報を観覧するユーザーを増やすことに注力する第2のフェーズに移行。このころから、急激にユーザーが増加するようになってきたという。

Retty CTOの樽石将人氏は、VA Linux、米RedHatにて組み込みエンジニアやサーバエンジニア、ソリューションアーキテクトとして活躍した後に、GoogleにてGoogleマップナビ、モバイル検索の開発、楽天にてプライベートクラウドの開発・運用を行うなど、幅広く多様な経験の持ち主だ。

そんな樽石氏がRettyに関わるようになったのは、Rettyの“第2フェーズ”に入った4~5ヶ月後。ユーザー数が100万人程度になったころから、同社のオフィスへ通うようになったという。

「Facebookに突然、Rettyの代表(CEO 武田和也氏)からメッセージが届いたんです。そのときは友達でもなんでもなかったので、普通ならスパムだと思ってスルーしていたと思うんですが(笑)、当時のオフィスと自宅が徒歩3分くらいの距離だったので、とりあえず遊びに行ってみたのがきっかけでしたね」(樽石氏)

当時のRettyのシステムについて樽石氏は、「自分の家にあるものとほとんど変わらないような構成で、負荷に耐えられるような状態にはなっていませんでした」と振り返る。2014年6月に正式にCTOとして就任してからは、負荷対策や、障害対応の仕組みづくりを行うなど、急成長するRettyを技術的な面から支えてきた。

「食を通じて世界中の人々をHappyに」という理念を掲げている同社は当然、海外展開も視野に入れており、年内までに第1弾としてアジアへ、2020年までに20カ国での導入を目指していくとしている。しかし開発面では、アクセスが集中する時間帯の国ごとの差やさまざまな言語、マルチリージョンへの対応など、その課題は山積みだ。

こういった課題を乗り越えていくための同社の開発文化として、「なにより現場主導という雰囲気がある」と樽石氏。海外展開に対しても、エンジニアの皆がアイディアを持ち寄って考え、合意が得られれば採用される。樽石氏は、海外で開発していたサービスと比べて今作ろうとしているものはどうなのか、この設計だと将来こういう問題が起きるかもしれない……などというように、その多様な経験を生かした情報提供をしているという。

「CTOに就任して変わったこととして、当事者意識が出てきたというのがあります。エンジニアリングのことを考えるのはもちろん大切ですが、事業を進めるうえでそれだけでは足りないと思うようになりました」(樽石氏)

「食」で「Happy」を実現するには単なるグルメサイトではダメ

Rettyの社員は皆、企業理念を大切にしており、会社のイベントとして新潟・南魚沼で米作りを行ったり、東京・築地で魚をさばいたりなど、スタッフ自らが「食」にこだわる姿勢を持っている。もちろんエンジニアのスタッフたちも例外ではない。

スタッフは、毎日外にランチを食べに行き、お店の口コミを投稿する。「すき焼き担当」「唐揚げ担当」といったように、社員一人ひとりに担当料理があるという。「食」は、生きていくうえで誰しもが関わるもの。自らがユーザーとなり、実際に使いながら開発していくというところがRettyのエンジニアたちの特徴だ。

Rettyの理念は「食を通じて世界中の人々をHappyに」。社員一人ひとりに担当料理があり、樽石氏は「すき焼き担当」

Rettyが目指すところは単なる巨大なグルメサイトではない。樽石氏は「Rettyの理念は、グルメサイトを作るだけでは到底実現できません。実際に食材を用意するなど、いろんなことをやっていかないといけないですよね」と語る。「趣味もRettyのビジョン」という樽石氏は、自作のドローンを使って種まきをし、数十種類の野菜を自宅で栽培するなど食に対する徹底的なこだわりを見せている。

「あと30年くらいは働くと思うのですが、Rettyの理念はそれくらいの年月を掛けてようやくできるかできないかという大きな話。そこに向けて挑戦していきたいんです」と意気込む樽石氏。Rettyに参画しようと決めたいちばんの理由は、そこに長い年月を掛けて実現していくべき壮大なビジョンがあったからだ。

「Rettyの理念を実現するためには、エンジニアリングの視点から言えば、いろんなものを作っていくことが大前提。また、70億人という世界中の膨大な方たちの需要に耐えられる壮大なシステムとなるよう道筋を考えておくことが必要です。日本のエンジニアの皆さんの力を結集して、日本から世界に価値のあるシステムを発信していければと思っています」(樽石氏)