2016年3月26日に新函館北斗~新青森間が開業する北海道新幹線について、このほどJR北海道が特急料金の認可申請を行い、JR東日本も東北・北海道新幹線をまたがって利用する場合の特急料金について発表。新函館北斗駅から東京駅まで普通車指定席を利用する場合、運賃・料金の合計を2万2,690円に設定予定であることが明らかにされた。

JR北海道の新幹線車両H5系。JR東日本のE5系とともに新函館北斗駅までの「はやぶさ」「はやて」に使用される予定

この料金設定について、地元・函館の住民はどのように受け止めているのだろうか? 北海道函館市に住む筆者が、函館市民の生の声を聞いた。

北海道新幹線の時短効果は

函館市民が鉄道を利用して東京まで行く場合、現在は特急列車と東北新幹線を乗り継いで5時間半から6時間程度かかる。北海道新幹線新函館北斗~東京間は最速4時間程度となるが、函館~新函館北斗間はアクセス列車で約17分かかる見込みのため、これを合わせた函館駅から東京駅までの所要時間は4時間半程度と推測される。これにより、北海道新幹線開業による函館~東京間の時短効果は1時間から1時間半程度になるとみられる。

「飛行機より割高感がある」との声が多数

2万2,690円という新函館北斗~東京間の料金については、「あまりお得感を感じない」との声が函館市民から多く聞かれた。市民の間では、函館空港が市街地に近いという地理的特性もあり、とくに出張などの場合は空路で東京へ向かうのが一般的。羽田~函館線の割引運賃の中心価格帯は2万円前後で、条件によっては1万円をきる場合もあり、これらの割引運賃と比較すると新幹線が安く感じられないのもうなずける。

とはいえ、北海道新幹線にもお得なきっぷが設定されることは確実で、現時点で新幹線の通常料金と航空券の割引料金を比較してもあまり意味がないのも事実。それを考慮に入れた上でも、「JRは片道での割引がなく、飛行機ほど割安にもならない傾向があるので、飛行機との競争では厳しい面もあるのでは」との指摘もある。

現行料金からみれば妥当との声も

現在、函館駅から在来線特急と東北新幹線を乗り継いで東京駅まで行く場合の片道正規料金(指定席券込み)は2万200円。これに対し、北海道新幹線開業後の函館~新函館北斗~東京間の片道正規料金は2万3,010円(乗車券1万1,880円+特急券1万1,130円)。東京への往復に鉄道を利用することが多い人ほど、「1時間から1時間半程度早くなって3,000円弱の値上げ幅なら、まあまあ許せる範囲では」とする反応が多かった。

「他路線に対して特急料金が高すぎる」との指摘も

新幹線開業後は現行の在来線特急と新幹線との乗継割引が廃止となり、JR東日本の特急料金とJR北海道の特急料金が距離通算されず別々に設定されて単純合算されることに。鉄道事情に詳しい人は、「北陸新幹線金沢開業では約1時間半の短縮で在来線特急から片道1,070円の値上げにとどまった。北海道新幹線は1時間から1時間半程度しか短縮されないのに、片道2,810円の負担増となってしまう」と指摘する。

また、北海道新幹線新函館北斗~新青森間の55%にあたる82kmは在来線との共用走行区間となり、開業後も現在の在来線特急と同じ最高速度140km/hで走行する。新函館北斗~新青森間で設定予定の指定席特急料金は、現行の函館~新青森間の指定席特急料金より2,200円高く、「時短効果が限定されているわりに高すぎるのでは」との声も聞かれる。

現行の在来線特急「スーパー白鳥」「白鳥」の函館~新青森間の指定席特急料金(通常期)は2,250円

北海道新幹線新函館北斗~新青森間の指定席特急料金(148.8km・4,450円)は、運行距離がほぼ倍の東海道新幹線東京~豊橋間(293.6km・3,860円)、上越新幹線東京~燕三条間(293.8km・4,200円)より高く、同じ距離で比較すると全国の新幹線で最も高い。新幹線開業で函館~青森間を通して走る在来線旅客列車がなくなるという特殊事情から、「高くても新幹線を利用せざるをえない地域住民の足元を見られている気がする」との不満がくすぶる。

函館市民は北海道新幹線を利用するのか?

今回のリサーチでは、新幹線開業後も東京に行く場合は飛行機を利用するとの声が大半を占めた。理由としては「早さを重視する」とした人が多く、「4時間の壁」説が裏づけられた格好に。一方で「行先が埼玉もしくは東京23区北部など、羽田から北上する距離が長い場合は新幹線を使うこともありそう」「自分は千葉県が目的地なので、復路は羽田に行くより東京駅に向かう方がアクセスしやすく、陸路を利用する機会も増えるかも」「北関東なら新幹線利用することもありそう」「東京までというより、盛岡・仙台が近くなったという感じ」など、行先によっては新幹線を利用したいとする人も少なくなかった。

新函館北斗駅(写真左)と函館駅(同右)。新函館北斗駅は函館市の隣の北海道北斗市内に設置され、函館駅から20km近く離れている

「急な所用で飛行機の割引が使えない場合は新幹線になりそう」「飛行機より朝早く着くことができるとか、帰りも遅く出発できるとかだったら、利用する可能性が増えるかな」など、状況に応じて新幹線を利用したいとの声も。乳幼児を抱える家庭からは、「小さい子供も連れて家族で移動する場合は新幹線かも。子供が泣いてしまった場合、飛行機には逃げ場がないので新幹線の方が気楽」「赤ちゃん連れで飛行機はしんどそうなので、選択肢が増えるのはありがたい」と新幹線を歓迎する声が上がった。

こうした反応をまとめると、「思ったより料金が高くて驚いたが、料金にかかわらず時間重視で今後も東京へは飛行機を使うことになりそう。でも状況や行先によっては新幹線も使うかも」という、平均的な函館市民像が浮かび上がる。

函館商工会議所新幹線函館開業対策室長の永澤大樹氏は、「北海道を訪れてもらうための大都市圏へのプロモーションは着々と進んでいる。一方で、函館圏の人々が北海道新幹線を身近にとらえ活用できるかどうかは、割引きっぷの設定など今後の商品施策によるところが大きい。東北地域との流動活性化のためにも、地元の人間が買いやすい割引きっぷ販売継続をJR北海道に要請していきたい」と語った。