訪日観光は2015年1~8月まで1,287万人と絶好調だが、一言で訪日観光といっても観光ニーズや旅行内容は国や地域によりかなり異なる。欧米豪のFIT(個人の訪日外国人旅行)客の日本での滞在日数は平均して2週間以上、団体旅行やパッケージツアーの利用は少なく、9割近くが個人手配の旅だ。そんな欧米豪のFIT客にターゲットを絞り、成功を収めているのが和歌山県田辺市である。

世界遺産・熊野古道のひとつ、和歌山県田辺市「中辺路」の中でも、発心門王子から熊野本宮大社へ至るコースは初心者でも歩きやすい人気コース

世界遺産の道の周辺には様々な温泉も

田辺市には歴史ある「湯の峰温泉」や「龍神温泉」、川底を掘れば温泉が出る「川湯温泉」、西日本最大級の露天風呂を誇る「渡瀬温泉」など8つの温泉がある。また、2004年世界文化遺産登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産のひとつ、熊野古道の中辺路(紀伊田辺から熊野本宮大社までの約60km)が通っている。

中でも滝尻王子から熊野本宮大社の約38kmは人気が高い。コースは初心者や外国人でもひとりで安心して歩けるよう、整備や地域観光のサポートシステムが確立されている。

「湯の峰温泉」には世界遺産唯一の公衆浴場もある

ターゲットは滞在型の欧米豪個人旅行者

田辺市は世界遺産登録の翌年である2005年、5市町村が合併して観光振興の方針を大きく転換した。熊野観光は団体旅行や通過型観光には馴染まないと判断し、地域に滞在してゆっくり歩いて楽しんでもらう観光を目指した時、ターゲットとなったのが欧米豪のFIT客だった。そのため田辺市は2006年、新たな観光の推進役として田辺市熊野ツーリズムビューロー(以下、ビューロー)を設立、海外へのプロモーションと地域の受入れ体制づくりに取り組んでいった。

そうした努力もあり2011年、熊野古道、熊野本宮大社は「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で三ツ星に選定された。ミシュランで三ツ星を得るには、9つの評価基準のうち複数の項目で高い評価を得なければならない。中でも、「旅行のしやすさと利便性」「旅行者の受け入れ姿勢の質」は外国人旅行を促進をする上で重要な項目となる。

熊野古道・中辺路の朝日・夕日百選「ちょっとより道・展望台」に上ると、熊野本宮大社旧社地の大鳥居が見える(写真提供:田辺市熊野ツーリズムビューロー)

ビューローは2009年、ITを活用し日英2カ国語に対応した独自の「旅行予約管理システム」を開発し、地域観光の推進組織(DMC)となり、地域で企画した旅行商品(着地型旅行)の取り扱いを開始した。システムは宿泊施設、ガイドや体験プログラム、手荷物の搬送にお昼のお弁当、タクシーやレンタカー、レンタサイクル等の手配まで可能だ。その結果、ビューローのDMCの売上高は2014年度には9カ月で1億2,361万円に達した。

着地型旅行を扱うDMC(地方創生ではDMO)は今、国が推進する地方創生の柱の事業のひとつだが、田辺はその先進事例となっている。だが、この成功を支えているのは予約システムやDMCだけではない。熊野古道を歩いてみたいと憧れつつ、ハードルが高いと尻込みしている人もノープロブレム。今回、初心者でも楽しく歩けるコースとその充実したサポートシステムを紹介しよう。

高低差が少なく、初心者でも歩きやすい「発心門王子から熊野本宮大社」の道