Cisco SystemsのCEOを20年勤めあげた後、7月にその座を譲り会長に就任したJohn Chambers氏。彼は、長期にわたって成長戦略を軌道に乗せた経営手腕で知られる。

そのChambers氏が米Boxの年次カンファレンス「BoxWorks 2015」に登場し、Boxの共同創業者兼CEOのAaron Levie氏と対談した。テーマはデジタル化――この波に乗り遅れると「Fortune 500企業の40%が10年後に生き残れない」と警告する。

デジタル化の波が全ての業種に襲ってくる

1991年に入社、1995年よりCEOとしてCiscoを率いた。その間、年間の売上高は7000万ドルから492億ドルに

Ciscoに入社後20年以上の間、ハイテク業界のトレンド、企業の浮き沈みを見てきたChambers氏だが、現在のIT界は「大きな転換点にある」という。

「業界を問わず、世界中のあらゆる企業がデジタル化の波にある。大きな変革が必要だ」とChambers氏。その推進役はモバイルとクラウドだ。

CiscoはInternet of Everythingのフレーズの下で2020年に500億台のデバイスがネットに接続しているとの予想を出しているが、これが実現する世界では、自社の主事業が何であろうと「あらゆる企業がテクノロジー企業になる必要がある」とする。

例えば、Uberは交通業界を大きく変えているが、同社は「配車企業ではない」とChambers氏は言う。

シェアリングエコノミーの考え方を、技術を利用してビジネスにしていることから、「Uberは(タクシー企業ではなく)技術企業だ」と言い切る。

さらには、UberやAirbnbのような技術を活用して既存市場を変える企業の登場により、「生き残れない企業が出てくる」と予言、「これは競争であり、市場にとって健康的なことだ」と続けた。

このようにわれわれは大きな変革の時期を迎えており、「デジタルを受け入れなければ、Fortune500企業の40%が10年後には存続できなくなる」とChambers氏は警告した。

Apple、Cisco、Microsoftなどの大型ベンダーの提携は何を意味する?

Boxの共同創業者兼CEOのAaron Levie氏(左)とCisco会長のJohn Chambers氏(右)

Levie氏は技術トレンドに加えて、エンタープライズ分野におけるベンダー間の「協業」という新しい傾向を取り上げた。Cisco自身も8月にAppleとの提携を発表している。

そのAppleはIBMと提携しており、BoxもオンプレミスのECM(エンタープライズコンテンツ管理)を持つIBMと協業関係にある。

これらが意味するものは何か。

Levie氏の問いに対してChambers氏は、「技術ではなく、(提携により)顧客に提供できる成果にフォーカスした結果」と述べる。つまり、1社だけでは顧客のニーズを満たすことができないからだ。

そして、このような大手の技術企業の提携が今後も増えると予想する。「提携は勝者になるか、敗者になるかに大きな影響を与えるだろう」とChambers氏は述べる。

このような変革は企業だけでなく国レベルでも起こる必要がある。各国政府とのやりとりがあるChambers氏はここで、インドなどの途上国やドイツ、イタリア、英国などの先進国には「デジタル戦略」が存在するが、米国には意外にも「ちゃんとしたデジタル戦略がない」と危機感をあらわにしている。

変革を乗り切る――リーダーに大きな責任

Chambers氏が対談で聴衆に送ったメッセージは、「あらゆる企業のトップがデジタル化の戦略を持ち、市場の変革期をうまく乗り越えなければ存続できない」という言葉に集約される。

「デジタルの変革を受け入れ、正しくその変革を管理できる企業が成功する」とChambers氏は話すが、ここでリーダーが大きな役割を果たす。

「うまくいったことを変えることに抵抗があるというリーダーもいるだろうが、市場は容赦ない。変革できなければ取り残される。変革は技術だけではない。経済、ビジネスモデルも考える必要がある」(Chambers氏)

Cisco自身は、ルーターとスイッチからテレフォニー、動画、コラボレーションとトレンドを取り入れ、現在ではクラウドやデータセンター、セキュリティまで事業を遂行している。

買収は同社の拡大戦略の大きな部分を占めたが、これについては「リスクをとる必要がある」とした。

「市場シェアを維持・拡大するためなのか、新しい技術を獲得するためなのか、株主を満足させるためなのかを問う必要がある。もちろん全てが成功だったわけではない」として、買収後に約2年で閉鎖となってしまったFlip Videoを例に挙げた。

「CEO自身が何度も生まれ変わる必要がある」とChambers氏、CiscoのCEOとしての20年の間、「20回自分自身を作り直した」と述べる。

「(リニアに対して)指数関数的に考える必要がある。自分自身を再構築し、組織を再構築し、そして企業を再構築しなければならない」――20年間ネットワーク業界の最大手を維持したCiscoの元CEOの言葉は、重みをもって響いた。