10月14日が「鉄道の日」だからか、9~10月にかけて鉄道関連のイベントが多い。車両基地をはじめとする現業機関の一般公開も多く含まれているのだが、そうした中でも異色なのが、東北新幹線の鷲宮保守基地の一般公開である。

鷲宮保守基地で公開されたレール削正車の全景。両端に動力車がいて、中間6両がそれぞれ左右に4個ずつ砥石を持っている

保守基地は新幹線の線路や電車線(架線)といった施設の点検・メンテナンスを行うための拠点で、おおむね「1駅ごとに保守基地ひとつ」くらいの割合で設置してある。各種の保守用車を留置・点検・整備するほか、保守作業に使用する資材の保管場所にもなっている。

車両基地と比べると所在が知られていないことが多いが、鷲宮保守基地は宇都宮線(東北本線)東鷲宮駅から近く、車窓からも見える。その他、東京近辺では田端駅の北側に隣接して新幹線の保守基地があり、レールがたくさん積まれている様子を見られる。山陽新幹線の新山口駅や新岩国駅では駅に隣接して保守基地が設けられ、これも外から見える。

「はやぶさ」「こまち」で行われる320km/h運転は、車両の優秀さにも支えられているのだが、もちろんそれだけではない。車両が走るレールの状態を適正に保たなければ、高速・安定走行は覚束ない。動力源となる電力を供給する電車線、とくにパンタグラフが直接接触するトロリ線も、きちんと保守しておかなければならない。そういった施設を支えている「縁の下の力持ち」の拠点、それが保守基地である。

保守用車(1) レール削正車

筆者は3年続けて鷲宮保守基地の一般公開を訪れているが、いつも行われているのがレール削正車のデモンストレーションである。スイスのスペノ・インターナショナルというメーカーの製品が著名なので、レール削正車を「スペノ」と呼ぶことも多い。

削正作業のデモンストレーション。カバーの下から4カ所の火花が見える。砥石が4個あるので、こうなる

削正に使う砥石(2013年の一般公開で撮影)

鉄のレールの上を鉄の車輪が転がっているのだから、当然、摩耗が発生する。場合によっては、レール頭頂部が一様に減らないで波状摩耗を起こすこともあるだろうし、非常事態が生じて急ブレーキをかけた場合も、車輪やレールに影響が出そうだ。そこで、回転式の砥石でレール頭頂部を削って形を整える。それがレール削正車の仕事だ。

面白いのは、頭頂部の形に合わせた砥石を使うわけではなく、円筒形の砥石を使うところ。位置や角度が違う多数の砥石を取り付けることで、「終わってみれば規定通りの断面形状ができている」ということになる。東北新幹線で使っているレール削正車は48頭式、つまり48個の砥石を持つ(レールは2本あるから、片側では24個)。

鉄のレールを砥石で削るのだから、当然ながらやかましい。騒音・振動などの近所迷惑を減らすため、砥石のユニット全体がカバーで覆われていて、上に取り付けた集塵装置が鉄粉を集めるしくみとなっている。

保守用車(2) 道床交換作業車

JR東日本の新幹線では、規格品のコンクリート板にレールを固定するスラブ軌道が多く、昔ながらのバラスト軌道はあまり多くない。しかし、存在しないわけではないし、そこを列車が通ることで、バラストは角が取れたり、砕けて小さくなったりする。そんなバラストは交換しなければ本来の機能を発揮できない。

道床交換作業車の先頭部。その後ろにバラストを積んだトロッコが並んでいて、順送り式にベルトコンベアでバラストを送り出し、線路に投入する

道床掻き出しなどで使われるバックホー(2013年の一般公開で撮影)

そこで登場するのが道床交換作業車。バックホー(要するに小さなパワーショベル)で古いバラストをかき出し、そこに道床交換作業車で運んできた新しいバラストを投入。最後に形を整えたり突き固めを行ったりして作業終了となる。

ちなみに、東海道・山陽新幹線ではバラスト軌道の区間が多いので、もっとすごい道床交換作業車が使われている。

保守用車(3) 架線延線車

最高速度320km/hで走る新幹線のパンタグラフに直接接触するトロリ線は、当然ながら摩耗する。昔と比べると交換頻度は下がったようだが、磨耗したトロリ線を外して巻き取ったり、新しいトロリ線を繰り出して架設したりする作業が必要となり、それを行うのが架線延線車だ。

トロリ線の高さは5mが基準値だから、これに合わせて架線延線車も高いところに作業台があり、そこに巻き取り・繰り出しに使うドラムやその他の機材が設けられている。交換の際、トロリ線を吊っているハンガという金具も外さなければならないので、作業台に何人も上がって、ハンガの脱着を行う。

架線延線車の全景(2013年の一般公開で撮影)。資材積み込み用のクレーンや、昇降式の作業台が載っている

作業台の上に設けられた、トロリ線のドラムを搭載するためのシャフト(公開時にはドラムはない)。奥のローラーに繰り出して、そこで張力をかけるとともに向きを変えて、手前向きに架設していく。巻き取りの場合には逆になる

鷲宮保守基地の一般公開では、架線延線車の作業台まで上がらせてもらえるのだが、実際に上がってみると、すぐ目の前にトロリ線がある。もちろん電気は来ていないから、握ってみることもできる。保守基地に架設してあるのは使い古しのトロリ線だから、下面が磨り減って平らになっている様子がわかる。

ハンガ。これがトロリ線を吊っている。脱着は手作業だそうだ

トロリ線の材質は錫(すず)を添加した銅が主流で、そこを通る列車の本数や速度により、数年で交換することもあれば、十数年ぐらい替えずに使うこともあるという。

ちなみに、レールの状態とともにトロリ線の位置や摩耗状況を調べているのが、923形「ドクターイエロー」やE926形「East i」といった電気・軌道総合試験車である。これらの車両は「お医者さん」と呼ばれることが多いが、実際にやっているのは検査であって、不具合を直すのは保守基地の仕事だ。

保守用車(4) 確認車

新幹線の線路や電車線の保守は営業列車が走らない夜間にだけ行う。ただ、保守基地から現場まで行き来するための時間も必要になるので、深夜0時から早朝6時まで、まるまる使えるわけではない。作業が終わった後に確認車を走らせ、障害物や忘れ物がないかどうか確認する作業も加わるので、保守に使える時間はさらに短い。

確認車は前面下部に障害物検知用のバーを備えるほか、記録用のビデオカメラとサーチライトも備えている。この車両が走った後、線路内への立入りは禁止となり、それによって営業列車の安全を保証する。在来線みたいに営業列車の合間を縫って作業をすることはしない。

東北新幹線で使っている確認車(2013年の一般公開で撮影)

前面下部にある障害物検知用のバー。障害物が当たると倒れるようになっている

他にもさまざまな保守用車がある

新幹線で使われている保守用車はこれで全部ではない。他にもさまざまな車両があるのだが、スペースの関係と、今回の一般公開イベントに登場した車両に話を限定したため、対象が限られてしまった点をお詫びする。

保守用車は車籍のない「機械」扱いだが、管理のために固有の形式や番号は振られている。以下の記号分類例は国鉄時代の資料から引っ張ってきたものだが、現在も使われるケースはあるようだ。もちろん、新種の保守用車が登場すれば新しい記号分類が加わる。

・装柱車 : RW
・保全車(昇降式作業台と電車線検測装置を持つ) : MW
・架線延線車 : SW
・電気作業車(架線作業と碍子洗浄を担当) : BW
・架線金具取替用作業車 : TW