日本が世界に誇る富士山は2013年、世界遺産登録を経て名実ともに「世界の宝」となった。しかし、同年に世界遺産にとなったものは富士山だけではない。富士山の麓で澄んだ湧水をたたえた世界遺産の池「忍野八海」は、多くの外国人が日本を旅する「ゴールデンルート」にもなっている。そんな忍野村の旅どころを10月10日よりオープンする新スポットとともに紹介しよう。

水鏡になった忍野八海のひとつ「湧池」。底の藻までもくっきり見える

圧倒的な純度を誇る八海の美しさ

現在の山梨県南都留郡忍野村はその昔、「忍野湖」と呼ばれる湖だったという。しかし、幾度とあった富士山の噴火活動で湖は枯れていき、富士山の伏流水に水源を発する湧水池だけがいくつか残った。その代表的な湧水池が現在の忍野八海となっている。八海へは富士急行の「富士山駅」から路線バスで25分、クルマの場合は山中湖ICから5分となる。

八海から歩いて行けるところに、個人所有である「中池」もある。いろんなところで池+富士山の風景が楽しめる

八海は名前の通り、8つの池で構成されている。8つの池の位置関係は、占星術により北極星と北斗七星の形をなしており、また、富士山とその神霊への信仰を行う富士講信者の巡礼地にもなっている。北極星の位置にある「出口池」のみ、ほかの7つの池と1km程度離れているが、全ての池を徒歩で巡っても1時間半~2時間あればじっくり味わえる。

水深7mの「中池」で気持ち良さそうに鯉がゆらゆら

各池には特徴があり、池にまつわる"伝説"もそれぞれ。共通して言えることは、「濁池」と命名された池も含め、どの池も美しい水をたたえていることだろう。「時間的に全部は巡れない」という人は、八海随一の湧水量を誇る「湧池」はぜひとも見ておきたい。昭和58年(1983)にNASAが宇宙で雪を作るのにこの池の水を使用したというほどの抜群の純度を誇っており、ゆらゆらと触れる藻の中で泳ぐ鯉も本当に気持ち良さそうだ。

「濁池」には、みすぼらしい行者が一杯の水を求めたが断られ、池の水が濁ってしまったという伝説がある

池の周辺にしつらえられた水車小屋や古民家風の土産屋の風景もまた味わい深い。土産屋では富士の名水を用いて作る忍野名物の蕎麦や豆腐をはじめ、気軽に食べられる岩魚の塩焼きやヨモギ100%の草餅なども用意している。また、野菜や果物などの新鮮な地のものの販売もしているので、お土産にしてみるのもいいだろう。

ちょっとつまむのに、焼きたての草餅(100円)はちょうどいい

岩魚の塩焼き(700円)の販売や地のものの直売も

見ているだけで心が洗われる。土産屋の中には自由に湧水が飲めるスポットも

忍野グルメを忍者空間で

そんな八海からクルマで5分程度のところに10月10日、忍者をテーマにした「忍野 しのびの里」がオープンする。しのびの里では富士山を一望できる日本庭園や忍者をテーマにしたアトラクション、食事処、茶処、売店、足湯を設けている。しのびの里を運営する富士急行は、訪日外国人に人気の忍者をテーマにすることで点在する富士観光スポットを有機的につなげる、ということを狙っているようだが、もちろん日本人も楽しめる空間となっている。

おもてなしも体得した忍者のみなさん

日本庭園にはしだれ桜やツツジ、アヤメ、イロハモミジなど、四季折々の花木が華やぎを添え、その奥に壮大な富士山が望める。この風景を足湯につかりながら楽しむもよし、茶処「ふじみ茶寮」で甘味とともに味わうもよし。茶処では富士北麓の抹茶を用いた焼きだんご(350円)や、山梨県産を中心に季節のフルーツを使用したソフトクリーム(350円~)なども用意している。

日本庭園には富士山が良く似合う。庭園の"顔"となる花木も季節で変わる

足湯でぽかぽかになりながら富士山も楽しめる

富士山を一望しながらの焼きだんご(350円)やソフトクリーム(350円~)は、また一段とおいしいだろう

食事処「日本料理 雪月風花」からも富士山と日本庭園が楽しめるのだが、この食事処は建物そのものが"忍者屋敷"を思わせる構造になっているのが特徴だ。料理は忍野の名物である蕎麦や豆腐を中心に、富士北麓の野菜や魚、地域でとれる食材を生かした伝統料理を提供し、食事中には忍者パフォーマンスも披露される。そして、建物の中には日本中の忍者に関する情報やゆかりの品が展示されており、くねくねした通路もまた、忍者屋敷をイメージさせる。

「日本料理 雪月風花」で忍野のおいしいものを詰め合わせた「忍野御前」(2,500円、入園料と忍者からくり屋敷1回利用券付き)

「日本料理 雪月風花」の店内。窓からは池と、そして富士山が一望できる

「日本料理 雪月風花」の入り口には売店が設けられており、訪日外国人を意識した忍者や富士山、日本の伝統をモチーフにした品々がずらりとそろう。これらの食事処や茶処、売店は入園料無料で利用できるので、ちょっとした休憩に立ち寄るにもぴったりだ。

お菓子やお酒、文房具から食器類まで、あらゆる"和"なお土産がそろう

なかなか突破できないからくり屋敷

だが、ここまで来たならぜひ体験してもらいたいのが「忍者からくり屋敷」である。築77年の古民家を移築・改装した屋敷は木の質感も味わい深く、戸口に設置された2匹のカラスも雰囲気を盛り上げる。からくり屋敷は有料で、大人(中学生以上)は700円、こども(3歳以上)は400円(ともに庭園入園料とからくり屋敷1回利用券付き)となっている。

築77年の古民家を用いた「忍者からくり屋敷」

からくり屋敷には随所に敵から身を守るための仕掛けが施されており、秘密の抜け道や隠し戸が、そして、思わぬところに武器や財宝が眠っている。迷路のようになった空間で立ち往生することもあるかもしれないが、ここはぜひスマートに突破していただきたい。

秘密の抜け道や隠し戸がいっぱい。この部屋にもいろんな秘密が……

また、からくり屋敷の側には「忍野手裏剣道場」もあり、忍者道具の基本中の基本である手裏剣投げにチャレンジできる(5枚で500円)。手のひらにすっぽり収まる手裏剣は意外と軽く、「これだったらひょいっといけるだろう」などと思ってしまうのだが、実はコツをつかめていないとなかなかまっすぐ飛ばない。神経を集中して挑んでみよう。

「忍野手裏剣道場」で忍者体験!(貸し出しは手裏剣のみ)

しのびの里のオープンは10月10日だが、富士急行はオープン前の現在、すでにしのびの里内に忍者をテーマにした新しい施設も構想しているという。新しい富士観光の拠点として八海だけじゃない忍野の魅力をここで味わってみるのもいいだろう。

※記事中の情報・価格は2015年10月取材時のもの。価格は税込