「老後破産」、「下流老人」…。経済的に悲惨な老後をおくる高齢者を取り上げたテレビ番組や書籍が話題となっている。これらを観たり読んだりした中年以下の世代の人々も、景気の先行き不透明感や年金制度への不信感もあって、人ごととは思えないと衝撃を受けている人も多いのではないだろうか。

一方、この不安に対する処方箋として、雑誌などでは、「老後を生き抜くには1億円必要」などという特集が組まれるなどしているが、その多くは大企業で定年退職し、退職金を満額支給されたサラリーマンを前提にしていることも多い。だが実際には、こうしたサラリーマンは少数で、多くは経営がうまくいっていない中小企業で退職金が満額出なかったり、定年間近にリストラに遭って、一からやり直さなければならない人も多いのが現実だ。

今回は50代でオーナーから解任され、一からやり直さなければならなかった元出版社社長の実話に基づいたマンガ書籍『まんがで知る老後の不安解消シリーズ 貯蓄ゼロでも老後に困らない7つの法則~老後破産はこれで解決』(リイド社、1,200円+税)の原作者である赤塚敬氏こと比嘉健二氏にインタビューした内容を紹介したい。

『まんがで知る老後の不安解消シリーズ 貯蓄ゼロでも老後に困らない7つの法則~老後破産はこれで解決』

主人公がいきなりリストラ、原作者の実話に基づくストーリー

――このマンガの原作を書こうと思われたきっかけは何でしょう?

老後の問題はよく書籍にもなっていますし、週刊誌でも特集を組んでいますね。でも自分で読んでみても、わかったような、わからないような印象を受けます。それで、実際、40代、50代、もうすぐ定年を迎えるという方に対して、マンガでわかりやすく処方箋を提案しようと思ったのがきっかけです。

というのも、老後破産の本や特集は、基本的には恵まれた人が定年を迎えて、家のローンもほぼ終わりかけて、資産もあって、という方が対象の場合が多いんです。だけどそんな人は、日本の1億人超の人口の中でどれだけいるのか、ということになると、僕の周りでもそうですが、完全に貯蓄はない、財産はない、突然リストラされた、といった人も多いんです。

一部上場の有名な企業のサラリーマンでも突然リストラされたりということもあるわけで、そうすると、35年ローンを組んで30代にやっと家を買って、そこから定年まで頑張るといっても、定年まで順調にいける人は10人のうち何人ですか、という疑問です。

普通の人たちで貯蓄もないという人が圧倒的に多い中で、その人たちは老後をどうするのかということが、今までの本や雑誌にはほとんど書かれていないのです。貯蓄ゼロ、才能なし、財産もなし、何もない、そうした人の老後の問題をマンガにしようと思ったのです。決してこの本が情報的にすごいものかというと、そんなことはないと思いますが、マンガのわかりやすさで勝負して、自分でも知らなかった知識も盛り込んだという形です。

――確かに、このマンガでは、主人公の笠井が52歳で突然リストラされるシーンで始まりますね。この本は比嘉さんの実話に基づくお話だということをお聞きしたのですが、本当なのでしょうか?

半分以上私の話です。年齢などは違うのですが、2012年に、それまで30年間勤めてた出版社の社長を解任されたんです。社長になったのは2009年からですが、社長になりたかったわけではなくて、単純に社歴が長かったのと、それなりにヒット作もあったので、やれと言われたんです。

原作者である赤塚敬氏こと比嘉健二氏

その出版社はオーナーが別にいて、社長の私がいてという体制でした。私はずっと編集の現場でやっていたので、自分に経営的な感覚なんてあるのか、という疑問はありましたが、出版業界もだんだん落ち込んでいたし、それまでお世話になったので何とか立て直そうということで、2009年に決意して社長になりました。

ただ、残念ながら2011年の東日本大震災の影響が相当ありまして、2012年にオーナーに呼ばれて、解任されたんです。何となく、予感はあったんです。業績もそんなに上がらなかったし、オーナーとも考え方が違ったので軋轢もあったんです。現場しか知らない私が、みんなをまとめなければならない。今までは自分が打席に立って打てばいいだろうと思っていたのが、監督としてまとめる立場になり、そういう役目が辛かったということもあり、また業績もよくなかったのも事実なので、これはいつかはそういうことになるだろうと覚悟はしていましたが、まさか自分がという気持ちもありました。その出版社のヒット雑誌はほとんど私が手掛けていたので、プライドみたいなのもありました、自負というんですかね。自分は切られないだろうなと思っていたのが、2012年に解任されたのです。ただ、自分が解任されたところで、現オーナーとの軋轢がありましたが、今も良い付き合いはさせてもらっているので、オーナーに対してはなんのわだかまりもありません。むしろ感謝しています。

生活レベルを下げるところから開始

――なるほど。いきなり生活に困る事態となったわけですね。

マンガの主人公ではないけど「どうすんべ」ですよね。社長だから、そこそこの年収があったわけじゃないですか。家は持ち家ではなかったのですが、家賃20万円以上のところに住んでいて、車もBMWとかに乗っていて、それなりの生活だったんです。

ところが突然のリストラで、マンガの中でも書いたのですが、「どうすんべ」というときに、自分の生活レベルを下げるところから始めなければいけない。家賃を下げなければいけないということは引っ越さなければいけない。月々もらえる給料がもらえないということは、生活を切り詰めなければいけない。蓄えがあったのかというと、イケイケはイケイケだったのですが、結構お金も使っていたんです。

全然、地に足がついていなくて、社長になっているんだから下手すると70ぐらいまでバリバリできるんじゃないの、と思っていたら突然こんなになってしまって。編集しか知らないので、物を書くか、マンガの原作をやるか、フリーの編集しかないので、不動産屋さんに安い物件を紹介しもらって、東京と埼玉の県境に住んでいます。とにかく食費も切り詰めて、遊ぶのもやめなきゃというところから始まったんです。それでマンガでも主人公が生活レベルを下げるところから始まっているんです。

――比嘉さん、2012年のときはおいくつでしたか。

そのとき56歳。

――主人公とそんなに変わらないですね。主人公は退職金が少ないと不満は述べましたが、もめるようなことはしてませんね。

私もそうです。そういう意味ではあっさりしていたかもしれません。

――退職金規定がしっかり明示されているならともかく、退職金自体はそもそも会社の義務ではないということを、このマンガで初めて詳しく知りました。

次の仕事を見つけられる可能性があるんだったらあまり退職金でもめない方がいいんじゃないの、というふうにマンガでは書きました。

男性の方が老後破産する確率が高い!?

――マンガでは主人公にいろいろアドバイスをしてくれる税理士の方がいますね。この方のお話は役に立ちますね。年金は64歳からもらった方がいいとか、保険でなく共済に加入してもいいとか。また、自己破産の話も出てきますね。

男性の方が老後破産する確率が高いようです。女性はしっかりしているので、生活保護を受けても、とあらゆる手段を使うようですが、男性は、たとえば昨日まで大企業にいた人が、生活保護を受けるというとプライドが邪魔して、そういう制度に頼らない。あるいは、意外とそういう制度を知らないということもある。多くの人は、年金をもらっていて、生活保護はもらえないのではないと思っているようですが、そんなことはないですね。

――生活保護費のほうが高い場合、差額をもらえるんですよね。

私もこの原作を書くまではそんなに詳しくは知らなかったんです。

――しかし、この主人公は、結構楽観的ですね。

男性はつい突き詰めてしまうじゃないですか。でもこのマンガの中で一貫しているのは、結局答えはどこにあるのといったら、健康である限り70歳ぐらいまで働けということになってしまうんです。それだけ日本の高齢化社会は非情といえば非情ですよね。65歳に定年になって悠々自適でやっと遊べると思いきや、私たちの世代からして不可能ですよね。ねんきん定期便が来て、自分がもらえる年金がいくらくらいかということがわかる。こんなものなのということです。

自分の両親たちは年金で十分何とかなるけど、私たちの世代はこんなでは、正直、日本人の老人のほとんどが老後破産候補者だと思います。もちろん、すごい資産家やものすごく金儲けしたという方は老後のために3,000万円、1億円用意できるかもしれないけど、そういう方はほとんどいないと思います。

最近よくわかったのは、どこから3,000万円を割り出してきたかというと、たとえばものすごく大金持ちがいるじゃないですか、65歳の資産家、その人たちの資産も含めている平均値なんです。3,000万円というのがサラリーマンの平均値ではなくて、お金持ちの人のも入っているからそんな金額が提示される。

年収400万円、せいぜい600万円ぐらい。年収の平均でいうと300万円、400万円、500万円ぐらい。そこからローンがあるわけじゃいないですか。ローンを返し終わって、65歳まで定年を延長してもらって、退職金も数千万円出て何とかという人は、何とかなるかもしれないけど、そういう人ってほとんどいないと思います。途中で切られる人は圧倒的に多いし。給料はどんどん下がる一方だし、下手したらボーナスも出ないじゃないですか。住宅ローンどうしているんですかという。いろんな業界の人が、同じような目に遭っているはずです。

「『働く』ことは私にとって『生きる』こと」

――主人公が知り合いのツテで再雇用されて、「『働く』ことは私にとって『生きる』ことなんです」という格好いいセリフがありますよね。

最初からそういうコンセプトでもっていこうと思って。ものすごく悲惨な話はいっぱい出ているじゃないですか。何とか生活できる健康があって、幸いなことに、70歳で何でもいい、仕事が少しある、年金と足してギリギリ生きていけたら、それで幸せなんですと判断しないと、日本の老後の未来は暗くなってしまう。あとは財産、資産を残す必要がないという考え方です。子供のために何とかといっても、今そういうようなことができるのはごく一部の人たちで、使い切って死に切るしかないというのが現実でしょう。

――最後の7つの法則にもありますね。「何も残さないという覚悟」。その他の法則では、「50代から生活レベルを下げ見栄やプライドを捨てていく」というのもあります。比嘉さんも生活レベルを下げたんですよね。

下げた、下げた。さっき家賃を半分にしたと言ったでしょう。人間は喉元過ぎれば何とかで、最初は毎日500円、1,000円以内でやっていました。こうやって編集プロダクションを立ち上げられて、少しずついろんな仕事が来て、出版社時代の年収からしたら3分の1くらいです。持ち家もないし、資産もないし、両親は90歳ちょっとで元気ですが、両親自体に資産もないし、本当に何もない。だけど、仕事をしたいという意欲と、多少の元気さと、あとはマンガにも書いたのですが、一番つらいのは友達がいなくなることじゃないですか。だけど、1人や2人くらいは友達がいて、彼らがわかってくれれば。また、多少は精神的な潤いも少し、お金はなくても何か一つだけ。マンガの主人公はとんでもないおネエチャン好きで、フィリピン人の彼女が出てくるじゃないですか。

――フィリピンパブで働いている方ですね。

「アジアで年金暮らしだって視野にいれるべし」

これは私の実話で、私はフィリピン人が好きになって。役職も管理職になって、出世はしているけど、本はだんだんつくる機会がなくなっているというストレスがあった。人間関係を調整しなければいけない。結構目に見えないストレスがあった。そこでたまたま連れていってもらったら、フィリピン人は面白いくらいに楽天的なので、仕事の話は一切聞いてこない。何回通っても聞いてこなくて、その場を楽しんでくれればいいという姿勢なんです。

キャバクラだと、何しているんですか、編集ですか、どこのですか、その雑誌好き、とかになってしまうと、結局遊んでいるのか、仕事をしているのかわからなくなってしまう。名刺の肩書きの勝負みたいになってしまう。ところが、フィリピンパブは何カ月通っても聞いてこない。逆に、私が「何やっているかわかる?」と聞くと、「何やっているのあんた?」と聞いてくるから、本をつくっているんだというと、「あなたすごい、頭いいね」で終わってしまう。社長であろうが、課長であろうが、関係ない。ここは、おとっつぁんには楽なんだと思いましたね。

フィリピンの娘にはまったのですが、フィリピンにも何回か行って老後の一つの生き方でアジアという選択ができたということは、私にとってすごくいい選択肢が見つかったなと思っています。

――7つの法則の一つの「人生の選択肢を広げろ! アジアで年金暮らしだって視野にいれるべし」ですね。

でも、上から目線で、日本は先進国で彼らはと見てしまうと、絶対そういうのは感じとられてしまいます。そうした落とし穴はあります。

――富裕層サラリーマン向け雑誌の老後特集とかには絶対書いていないですね。そういう道もあるということですね。

現実に東南アジアで年金で暮らしている人はいっぱいいるし、日本よりは安く暮らしていけますから。

――なるほど。まだほかにも法則はあるのですが、それは実際に本を手にとっていただいて、ということで。本日は本音トーク、誠にありがとうございました。


いかがだっただろうか。出版社の社長まで上り詰めながらいきなりの解任。だが、マンガを読んで感じるのは、その明るさだ。働ける限り働くことが、老後破産を回避する最もいい方法だと実感できるだけでなく、働くことの素晴らしさが伝わってきた。どんな仕事でもいいから働くこと。それ以外、この日本社会で生きていく方法はないというある意味非情な現実を、明るくいきていくしかないことがよく分かった取材だった。皆さんもぜひ手にとって参考にしてほしい。