【レポート】

ピーチの高稼働率の秘密はA320の整備事情にあり! 利益を生むサイクルの現場

 

航空会社が利益を出すためには、できるだけ機材の稼働率を高くする必要がある。しかし、飛行機を日々安全に運航させるためには定められた整備を行わなければならず、重整備ともなれば1週間から長い時は1カ月程度、整備のために稼働できなくなる。特に機材数が限られているローコストキャリア(LCC)にとっては、整備の間の"空白"は死活問題になるだろう。

そんな中、Peach Aviationのオペレーション本部で整備部を担当している山本朝彦課長は、「あらゆる面でA320はLCCに向いている」と話す。そして、Peachでは重整備の代わりに「パッケージ整備」という新しい手法を取り入れているという。そんなPeachの高稼働率を支える整備現場の実態を取材した。

関空内の格納庫で機材の状態をチェック。飛行機の他、整備に使用する車両もコーポレートカラーであるピンクが用いられている

新造機のA320をリースするメリット

Peachは現在、16号機目のA320を7月に導入し、17号機目を12月末までに受領する予定となっている。この17機は全て新造機をリースで調達しているが、6月に発表した18・19・20号機導入は国内LCCとしては初となる自社購入に踏み切った。21号機以降に関してはどんな機材を導入するかまだ検討中となっている。

Peachが中古機ではなくコストのかかる新造機を使う理由としては、経年劣化した飛行機は構造部分や電線(ワイヤー)の修復に時間がかかり、結果、整備の労働力が大きくなってしまうからだという。そして、大きさ的にもA320は整備士が身動きしやすい大きさで、メンテナビリティーが高い。加えて、経済性や大きさ、価格的にもちょうどいいという要素も相まって、A320は世界的に売られているベストセラーとなっている。

エアバスのA320と競合する機材にボーイングのB737がある。国内LCCを見てみると、Peachのほか、バニラエアとジェットスター・ジャパンはA320であり、春秋航空日本はB737を運用している。

山本氏は前職でエアバス以外にもボーイングの様々な機材の整備を担当しており、その経験から不具合に関してはA320よりもB737の方が少ない印象があるという。とは言え、Peachは現在、8年をめどに新造機をリースバックするという計画をしており、そのスパンでの運用を考えるとA320を用いるメリットは高いとPeachは判断している。

オペレーション本部で整備部を担当している山本朝彦課長は、整備業務の品質保証体制を総括し、整備に関する方針や運用などの実施体制の構築を担っている

稼働率を上げられる新しい整備方法

冒頭で触れた重整備に代わる「パッケージ整備」というのはA320の特長でもある。整備体制はいま、JALやANAでも変わってきており、重整備をなくす方向にある。A320に対してエアバスは、従来通りの運航整備のための整備と機体整備のための重整備を合わせた方法と、運航整備のほかに重整備に当たる整備を一律にならして日々の整備で行う方法、この2つの方法を義務付けている。航空会社はどちらの方法も選ぶことができ、Peachは後者の重整備が必要ない方法を選んでいる。

具体的にいうと、例えば義務とされる整備が1,000アイテムあるとして、それを1まとめにして1週間程度飛行機を休ませて行うのが重整備。しかし、その1,000アイテムを日々の整備の中に分散して盛り込めば、長期間飛行機を休ませることなく飛行機を運用できるようになる。そのためにはきめ細かな整備コントロールが必要で、このコントロールを誤ると整備の手間がかさばるほか、構造部品の劣化にもつながってしまう場合がある。

ただし、整備の内容によっては1回でまとめてやった方が効率がいいものもある。Peachはその際、いつくかの整備項目を重整備よりもコンパクトにまとめる「パッケージ整備」を行い、1,2日程度飛行機を格納庫で休ませる。

Peachは現在、16機のA320を所有しており、20号機まで発注済みになっている

重整備に代わる整備方法は機材の稼働率を保つ以外にも、整備作業を均一化することにより重整備のように人員を1度に割く必要がなくなる。結果、人的コストもマネジメントできるというメリットもある。

新卒採用で一人前になるまで最短5,6年

こうした整備方法をとっているPeachだが、パイロットと同様、整備士でも新卒採用を行っている。会社によってカリキュラムに違いはあるものの、整備士の養成は大手もLCCも変わらない。つまり、「整備の現場ではコストカットはない」と山本氏は言う。

Peachの場合、新卒採用では1年間は訓練生、また、キャリア採用でも国家資格である一等航空整備士の資格がなければ同様に訓練生扱いとなる。訓練生の間は自社整備に携わりながら訓練を積む。社内で定められた法に基づく資格を取得し、1年程度訓練を受けた後に初級整備士の資格を受ける。合格すれば初級整備士へ、不合格ならまた訓練生に戻る。

初級整備士の次は一等航空整備士であり、一等航空整備士までの道のりは入社から3,4年となる。Peachは2011年に設立された会社であり、今ちょうど若年層社員が一等航空整備士の資格を徐々に受け始めているという。その後も勉強を積んで、最終的な法的確認ができる確認主任者になるには入社から最短5,6年、長ければ10年程度かかる。

Peachが使用している関空の格納庫は、空港施設が保有するものの一部を借用している

大手と同じことをしてビジネスを確立する

大手であれば1機種だけでなく、2機種、3機種と整備に携わる機材を増やすことができるが、Peachは現状、A320の単一機種の運用である。整備士としてそうしたPeachで、どんなところにやりがいを感じるのだろうか。率直なところを山本氏にうかがったところ、「多くの機種を整備できることが重要なわけではない」という回答だった。

「LCCとしてビジネスモデルを確立させながら、整備としては大手と同じ質をこなさなければいけない。効率性やコストメリットをどう上げるか、そうしたところはみんなの能力や経験値、やる気、養成によるところが大きいです。

私自身、Peachの立ち上げの時に知り合いから声をかけてもらって入社しました。航空業界は一般的に保守的で、安全性や耐空性、法律と、守らないといけないことが絶対なので革新的であってはいけないという風潮があり、チャレンジできる環境はあまり多くないです。そんな中で新たなビジネスを確立できるのであれば、航空業界で生きてきた意義があるのではないでしょうか」(山本氏)。

コストマネジメントが難しい整備現場で、コストメリットを上げる工夫をする

特に重整備を分散させて整備を行う現在のPeachの方法は、整備のきめ細かなタイムスケジュールが肝となる。部品の融通や管理、設備、保管の仕方など、各行程の一つひとつにおける工夫がPeachの整備環境の効率化、そして飛行機の稼働率の高さにつながり、結果、利益を生むためのサイクルが回り始める。LCCだからできるチャレンジが整備の現場にもあることがうかがえた。

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