「Adobe Creative Cloud」を使っていれば、モリサワのフォントが「無料」で使える――さまざまな分野で制作活動を行っているクリエイターたちにとって、聞き逃せないニュースが飛び込んできた。

これは、アドビ システムズが提供するサブスクリプションサービス「Adobe Creative Cloud」(以下、Creative Cloud)に含まれるフォントライブラリ「Adobe Typekit」に、モリサワ(およびグループ会社のタイプバンク)の提供フォント20種が追加されるというもの。多くのクリエイターにとって"高嶺の花"であったモリサワフォントを、Creative Cloudの利用料だけで、追加支払いなしに利用できるとあって、発表直後から話題になっている。

「Typekit」に追加されるモリサワ(タイプバンク)の日本語フォント一覧

これを機に「Creative Cloud」を検討する人も少なくないと予想するが、現在のCreative Cloudの提供プランの一部にはモリサワフォントを利用できないものがあるし、逆に、セール中のプランでもモリサワフォントを使えるものもある。

本稿では、モリサワフォントを収録するサービス「Typekit」について、および2015年10月6日現在におけるの利用プランの料金比較を行っていく。

Typekitはどんなサービス?

「Typekit」のWebページ。Adobe IDでログインすることにより、フォントの同期などが可能になる

「Typekit」は、Creative Cloudのサブスクリプションプランに含まれるフォントライブラリサービス。使い方は、「ローカルでの利用」と「Webフォント」としての利用の二通り。Webフォントはフォントライセンスの購入とは別サービスとして提供されていることがほとんどなので、1サービスで両方をカバーしているのは珍しい。

「ローカルでの利用」を行う場合、使いたいフォントをPCに同期し、デスクトップアプリケーション上で利用する。Photoshop、Illustrator、InDesignといった同社製品だけでなく、Microsoft Office、iWorkなど他者のアプリケーションでも使える。一方、Webサイト上でフォントを表示する「Webフォント」を利用する場合は、Typekit上で適用フォント(および利用先ドメインなど)の設定を行うと、JavaScriptの埋め込みコードが生成される。

提供フォントのライセンスは、大きくまとめてしまえば「商用利用可」。クライアントワークでのロゴ作成や名刺などの印刷物、Tシャツなどのグッズにも利用可能だ。ただし、モバイルアプリの埋め込みは禁止されている。詳細は同サービスのヘルプにて参照してほしい。

モリサワフォントを利用可能なプランは?

10月6日13:00段階で、当日発表されたモリサワのフォントがすでに検索・同期可能になっている

「Typekit」は、単体製品を含む「Creative Cloud」の各種サブスクリプションプランに含まれているサービスなので、多くの場合、単体での利用を意識することは少ない。だが、今回追加されるモリサワフォントが使いたくて新規にプラン利用を開始する場合、注意したい点がある。

それは、「Typekit」の「無料プラン」は同サービスの体験版的な位置づけで、新規追加のモリサワフォントを利用できないということだ。「ポートフォリオプラン」が同ライブラリのフルバージョンで、パフォーマンスプランでは主にWebフォントの利用PVと同期フォント数がさらに多くなっている。

■「Typekit」のプランと単体価格

無料プラン ポートフォリオプラン パフォーマンスプラン
価格:無料 価格:49.99ドル 価格:99.99ドル
限定数のフォントの利用/モリサワフォントは利用不可/体験版的な位置づけ フォントライブラリ全体を使用できる/同ライブラリのフル版 ポートフォリオプランの上位版。Webフォントのページビューとデスクトップの同期フォント数が2倍に

さて、ここで気になるのは「どのプランに申し込めば、モリサワフォントが使えるのか」という点。より正確にいえば、「どのプランに申しこめば、『Typekit』のポートフォリオプランが使えるのか」という点だ。

もちろん、20種類以上のデスクトップアプリケーションの利用権などを含む、Creative Cloudのフルバージョン「コンプリートプラン」(月額4,980円)を申し込めば、「Typekit」ポートフォリオ版も含まれ、つまるところモリサワフォントについても利用可能だ。だが、利用目的が特定のアプリケーションに限定されている、個人利用のため月額料金を抑えたいなど、さまざまなニーズがあることと思う。それに対応すべく、アドビ側もコンプリート版以外の安価なプランも展開し、期間限定のディスカウントキャンペーンも行っている。

前置きはここまでとして、モリサワフォントを使える/使えないという視点で、現在提供中のCreative Cloudサブスクリプションプランを分類してみた。ここでは、個人が導入可能なプランに絞って列挙する。

■モリサワフォントが「使える」プラン

・Creative Cloudコンプリートプラン(月額4,980円)

・Creative Cloud単体プラン(Adobe Acrobatは除外/月額980円~)

・各Typekit単体プラン(49.99ドル~)

※これらのプランには、Typekit「ポートフォリオプラン」が含まれる

■モリサワフォントが「使えない」プラン

・Creative Cloud フォトグラフィプラン(月額980円)

・Adobe Acrobat シングルアプリプラン

・Creative Cloud サブスクリプション試用版

※これらのプランには、Typekit「無料プラン」が含まれる

Creative Cloudの価格表ページ/この中でモリサワのフォントが使えるのは、コンプリートプランと単体製品プランとなる

PhotoshopとLightroomというふたつの写真編集ソフトや周辺モバイルアプリを月々980円で使える「フォトグラフィプラン」は魅力的なサービスだが、Typekitの利用権は「無料プラン」のため、モリサワフォントは使えない。

一方、11月27日までの期間限定でディスカウントされているIllustratorの単体プランも、同じく月額980円(初年度利用料に適用)。こちらにはTypekitの「ポートフォリオプラン」利用権が付属する。そのため、「追加されたモリサワフォントを使ってみたい」という目的にフォーカスするのなら、期間内にIllustrator単体プランを購入するのが、現状では最安値と言える

同じく11月27日までの期間限定となるが、CS6製品のユーザー限定で、コンプリートプランの初年度価格が月額1,980円になるキャンペーンも行われている。すでにCS6製品を所有している人に限られるが、その他のアプリケーションも併せて使いたい人にとっては選択肢のひとつとなるだろう。

また、学生・教職員版のコンプリートプランは常時月額1,980円だが、年間プランを一括払いした場合、さらに2カ月分が無料になるキャンペーンが行われている。こちらは10月30日までと他の2件より期間が短いので注意してほしい。

アドビとモリサワという、クリエイティブ業界で大きな存在感をしめる企業同士が協業し、こうしたユーザー目線のサービスを打ち出したことは大変喜ばしいニュースだと感じている。これを機会に、個人利用レベルでも、同社のフォント利用が波及していくのはないだろうか。

このニュースを機にサブスクリプションサービスの利用を検討する人にとって、本稿が選択の一助となれば幸いである。