広島県で数店舗を営む菓子店・虎屋本舗は、なんと創業1620年という老舗中の老舗だ。しかも、福山藩の御用菓子司としての歴史も長く、匠の腕をいかした名作を多数生んでいる。ブランデーの香り漂うR20指定のどら焼き「虎焼」から、福山の地酒を使った「まるごと地酒けーき」まで、原料にも製法にもこだわった品ぞろい! しかし近年では、老舗のイメージとは一味違う斬新なシリーズ商品で注目を集めているのだ。

これはいったいなんでしょう? …答えはたこ焼きではありません!

一体どんなシリーズかというと、その名も「本物そっくりスイーツ・シリーズ」。ネーミングの通り、"ある食べ物にしか見えないのにそうでない食べ物"が様々にラインナップしたシリーズなのだ。

見間違いが開発のきっかけに!?

例えば、「たこ焼きにしか見えないシュークリーム」(ノーマル/680円、スペシャル/788円)、「うな重そっくりなミルフィーユ」(1,728円)といった具合。虎屋本舗の自社サイトには「味覚と視覚が大混乱!? 」とのコピーが踊るが、想像しただけでも、間違いなくそうであろうと頷ける。だって、たこ焼きだと思って口にしたものからマイルドなクリームが染み出てくるなんて、普通に生きていたらありえないことだもの。

そもそも、なんでそんな商品を作ろうと思ったのだろう? その疑問をストレートにぶつけた先は、もちろん虎屋本舗。すると、なんと取締役の高田海道さん自ら答えてくださることに。

「広島風お好み焼きそっくりなマロンケーキ」(1,728円)

「シリーズの初作は12年前の深夜でした。現16代当主がある晩、商品開発に関して思いを巡らせていたところ、偶然夜食にたこ焼きが出てきて、疲れていたのかそれがシュークリームに見えたそうなんです」。

なななんと、それがきっかけとなって開発に着手し、今やトータル25種類もそろう人気シリーズに成長したのだ。

ちなみに、25種類の中でどれが人気か尋ねたところ、1位の「たこ焼きにしか見えないシュークリーム」に続き、2位の「広島風お好み焼きそっくりなマロンケーキ」(1,728円)、3位の「もしかしてカレーライス?」(1,296円)と立て続けに抜群のネーミングセンスに胸を揺さぶられる。

「もしかしてカレーライス?」(1,296円)

原料選びに妥協ナシ

もちろん、言葉選びだけではなく、原料や味も追及している。

「見た目と味にギャップが生じる分、いかにおいしく作るかということにはこだわっていますね。例えば、『もしかしてカレーライス?』は、ニンジンは黄桃、タマネギは白桃、福神漬けはドレンチェリー、肉はジャンドゥーヤ、ごはんは牛乳プリン、ルーはマンゴーソースで作っているんです。全て地元青果店から仕入れた果物を使い、一つひとつ手作りしているんですよ」。

高田さんいわく、このシリーズはどれも見た目が重要なため、とにかく手間がかかって仕方ないのだとか。でも、手作りだからこそのおいしさを堪能してもらうため、絶妙な素材の組み合わせでこしらえることに注力しているのだ。

「創作おせち和菓子」(1段8,640円※季節限定商品)

「ルーをチョコレート、ごはんをポン菓子にするなどもっと簡単な方法はいくらでもありますが、食べておいしいことを第一に考えているので手間がかかるんです」と明かす高田さんが何より大切にしているのは、「精巧に丁寧に」というものづくりの精神。

「商品開発の際には、『伝統やのれんに傷がつくのでは? 』という想いが胸をよぎらなくはなかったです。しかし、伝統とは革新の連続。伝統をしっかりと受け継ぐことができているからこそ、このシリーズの制作に挑戦することができたのだと自負しています」。

「うな重そっくりなミルフィーユ」(1,728円)

父親へのドッキリにも活躍

高田さんの信念が決して揺らぐことがない大きな理由が、購入者の笑顔だ。

「小さなお子さんが、仕事帰りのお父さまを驚かすべく購入して、夕飯にこっそり紛らせることもあるようです。私たちの狙いは食卓に笑顔を届けることなので、こうしたエピソードを聞くと本当にうれしいです」。

熱い想いを胸に、400年近くものあいだ菓子作りにまい進してきた虎屋ゆえ、これから先もきっと、全国の家庭に笑顔を運び続けてくれるに違いない。

※記事中の価格・情報は2015年9月取材時のもの。価格は税込