名古屋メシのひとつ、鉄板スパゲティに突然変異的な一品が登場した。名古屋市西区のイタリアンバール「ARANCIA(アランチャ)」の鉄板ナポリタンがそれ。味噌カツ、手羽先、海老フライなどをお好みでトッピングでき、いわゆる"名古屋メシ全部乗せ"がなぜかウケている。

鉄板スパゲティ880円(ランチタイムは800円)は9月から新メニューとして「アランチャ」に加わった。ランチ客の4人に1人は注文し、早くも人気メニューの仲間入り

"イタスパ"は昭和30年代に喫茶店で誕生

鉄板スパゲティはケチャップ味のスパゲティを鉄板皿に盛り、とき玉子を流し入れた名古屋メシ。具は赤いウインナーに玉ねぎ、ピーマン、マッシュルーム、グリーンピースが基本。昭和30年代に名古屋の喫茶店主が考案し、名古屋市内中に広まった。

盛り方や玉子を入れるのは名古屋独特だが、基本的にはいわゆるナポリタンの一種。古くからの喫茶店メニューのため近年はあまり陽が当たらない存在になっていたが、ここ数年のナポリタンブームに乗じてじわじわと人気が高まりつつある。ただし、名古屋ではナポリタンを"イタリアン"と称するのが一般的で、鉄板スパゲティは"鉄板イタリアン"や"イタスパ"などと呼ぶ人が多い。

鉄板スパに味噌カツや手羽先をトッピング

そんな中、ひと皿で名古屋メシを食べまくることができる何とも欲張りな鉄板スパゲティが「アランチャ」で登場した。早速つくってもらうと、これがもうてんこ盛りすぎて一見ただの揚げ物の盛り合わせのよう。何せ、肝心のスパゲティがまるで見えないのだ。

これが「アランチャ」の鉄板スパゲティフルトッピング、いわゆる"全部のせ"。スパゲティの料金880円(ランチタイムは800円)にプラス900円となる

「遠方から来て"名古屋らしいものを食べたい"という人に喜ばれています。何人かでシェアすればいろいろ食べられてかなりおトクです」と伊藤秀樹オーナーシェフ。

確かに味噌カツ、味噌串カツ、手羽先、海老フライ、から揚げ、カキフライ、たこ焼きが乗ってプラス900円はかなりコスパが高い(一部名古屋メシじゃないものも含まれるが)。鉄板スパゲティ880円(ランチタイムは800円)と合わせて2,000円でおつりが来て、ワイワイ盛り上がれてボリュームも十分なのだからこれはかなり"おいしい"一品だ。なお、トッピングは一品ずつでも注文でき、味噌串カツ100円、手羽先100円などお値打ちである。

『5歳の息子に"鉄板スパゲティ作って! 』とリクエストされたのがメニュー化のきっかけ」とオーナーシェフの伊藤秀樹さん

イタリアンシェフが作る完成度

このてんこ盛りは、一見すると同じく名古屋市にある「喫茶マウンテン」(甘口抹茶小倉スパが有名な名古屋の珍メニューの殿堂)のメニューのようだが、味は文句なしの完成度だ。一般的に、鉄板スパゲティは喫茶店のフードメニューとして広まったものなので、具材や味つけにこだわった店は多くない。ケチャップによる単純な味つけがむしろ基本となっている。

対して「アランチャ」のそれは、ホテルなどでの経験も豊富なシェフが作る一品。トマトソースとケチャップを半々の割合で混ぜ、玉子には生クリームを加えてコクを出す。赤ウインナーではなくベーコンを使い、仕上げには良質なパルメザンチーズをたっぷり。

麺はこのメニューのためだけに仕入れている2.2mmの極太。この太さが素朴な味わいにマッチする。トマトの酸味や甘みが利いていて、玉子はとろとろでまろやか。大人も十分に満足できる味わいだ。

円頓寺商店街は名古屋駅と名古屋城を結ぶルートでもある歴史ある商店街。最近は続々と新しい店がオープンし、インバウンドにとっても人気のエリアに。「アランチャ」(写真右)は2013年春にオープンした新鋭店だ

ネタメニューとしての面白さや見た目のインパクトを楽しめつつ、味の完成度も高い。また「アランチャ」は、最近外国人観光客らに人気急上昇中で名古屋駅と名古屋城のほぼ中央に位置する「円頓寺(えんどうじ)商店街」(地下鉄桜通線「国際センター駅」から徒歩約5分)という立地も魅力的。円頓寺の新たな名物メニューは、名古屋観光をいっそう盛り上げてくれそうだ。

●information
ARANCIA(アランチャ)
愛知県名古屋市西区那古野1-11-10

※記事中の情報・価格は2015年6月取材時のもの。ランチ価格は税込、ディナー価格は税別

筆者プロフィール: 大竹敏之(おおたけとしゆき)

名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信。Webガイドサイト「オールアバウト」では名古屋ガイドを務める。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『続・名古屋の喫茶店』(リベラル社)は自腹リサーチをコンセプトにしてご当地ロングセラーに。7月31日には名古屋人の生活に根づいた「真の名古屋めし」味処60軒を紹介した『名古屋めし』(リベラル社)を発売した。