日本でも2014年からサービスを開始しているハイヤー配車サービスのUberだが、本拠地のあるサンフランシスコではUberを使って目的地まで行くことを「Ubering」というなど、動詞になりつつある人気の移動手段だ。

そのUberを2009年に創業したTravis Kalanick氏が9月16日、米Salesforceの年次イベント「Dreamforce 2015」に登場し、Salesforceの創業者兼CEOのMark Benioff氏と対談形式でUberのこれまで、技術の活用、自動運転カーの脅威などについて語った。

Salesforceの創業者兼CEOのMark Benioff氏(左)とUber創業者のTravis Kalanick氏(右)

信頼性がUberの真髄

Uberが目指すものは「車を所有するよりもUberを使った方が安くなるようにすること」とKalanick氏は言う。評価額は500億ドル(約6兆円)と言われており、参入都市はすでに70以上を数えた。欧州など一部都市ではタクシー業界の強い反発があるが、Uberはサンフランシスコでは新しい輸送手段となりつつある。

Uber登場前までサンフランシスコでタクシーを捕まえることに労力をついやしていた。待たされた後に乗ったタクシーは車内が汚く、ドライバーは無愛想、そして高額な料金を払う。一方でUberは低価格、しかもアプリを利用してタクシーを追跡でき、待ち時間も少ない。

Kalanick氏がこの日強調したのは、利用者のメリットよりも運転手側のメリットだった。中でも強調するのが「柔軟な働き方が可能になる」という点だ。

Dreamforceが開催された週、サンフランシスコのUberドライバーの40%が週10時間以下しか運転していないという。この人たちは副業としてUber運転手をしたり、子供の送り迎えのついでにするという人たちだ。利用者の増加や天候、イベントなどに応じて増減する配車へのデマンドに応じるためには、このようなパートタイム運転手が重要になる。実際、週に数千人がUber運転手として登録しているという。

「あまりイメージはないかもしれないが」としつつ「Uberがいかにして成功し、われわれが基本としているものは信頼性のある配車・乗車体験だ」とKalanick氏は語る。信頼性のあるトランスポーテーションシステムとなるために、技術面、アルゴリズム面、マーケティング、経営などあらゆる面でやるべきことはすべてやっていくという姿勢のようだ。

その一例として紹介したのが、Uber運転手がアプリからアクセスできるという需要のヒートマップだ。

Uberの運転手はこれをみて乗客を拾えそうな地域にいくことができる。

「今後15分の間にどこに需要がありそうかを把握し、供給が上回ると判断したらその15分が起こる前に需要をマッチさせる必要がある」(Kalanick氏)

ドライバーが需要に気がつかない15分間はシステムでいうところの「ダウンタイム」となり、Uberを待つ乗客にとっては「長すぎる無駄な待ち時間」となる。このようなリアルタイムでの需要予測と長期的な需要予測の2つを平行して行うことで、信頼性のあるシステム作りを目指す。

Kalanick氏はこれを株式を売買する証券取引所にたとえながら、「ある時間、ある場所、ある価格で車が必要な人(乗客)、車を供給できる人(ドライバー)がある」とする。柔軟ながら信頼性のある配車システムは、遅い、待たされる、非効率、なのに高価だったこれまでのタクシー業界の問題を解決するにあたって、Uberが重要視しているポイントといえる。

実際、Uberのドライバーは伝統的なタクシー運転手よりも高所得を得ていることが多いという。たとえばサンフランシスコのタクシー運転手は、1日140ドルでタクシー業務用の車を借りているが、Uberは自家用車で済み、コストを削減できる。UberのWebサイトによると、Uber運転手の時間あたりの報酬は19ドル、これはタクシー運転手の10.97ドルの2倍近くとなっている。

片っぱしからリモ運転手に電話した

Uberの目指すものは、タクシー業界の崩壊というより、新しい移動手段になることといえる。「そもそもスタートした意図はなんだったのか?」というBenioff氏の質問に対し、Kalanick氏は、「タクシーシステムが壊れていたーー乗り側にしても、運転する側にしても」と語る。

Uberはいまでこそシェアリングエコノミーの代表格となったが、創業につきものの苦労話はあった。Kalanick氏は、Googleで「リムジンサービス」「サンフランシスコ」と入力してヒットした結果をExcelシートに書き出し、片っぱしから電話をかけて「Uberの運転手にならないか」と営業電話をかけたことを明かす。

「3分の1がその場で電話をガシャリ、3分の1が1分半したら電話を切り、残りの3分の1がおもしろいねと言ってくれた」と振り返る。なお、ExcelシートはいまではSalesforceに変わっているとのことだ。

自動運転カーについては「将来を受け入れる」

運転手にフォーカスするKalanick氏に対し、Benioff氏はUberの将来についても聞いた。GoogleやTesla、そして既存の自動車メーカーも取り組む自動運転カーだ。

「(自動運転カーは)もちろん、われわれのモデルにとっては崩壊的だ。だが技術企業として、将来の一部として存在するのか、争うのか」とKalanik氏。「われわれは将来を受け入れる」として、変化の中でどのようにUberをナビゲーションしていくのかが大切だとした。

「楽観的なリーダーになり、企業の変革をサポートしていく」とKalanick氏。Uberはアリゾナ大学の自動運転などが関連するプロジェクトに出資しているが、これについては触れなかった。