UIに影響しない部分におけるiOS 9最大の進化点といえば、「バッテリー管理」をおいて他にない。システムのアップデートというソフトウェアによる改良であるだけに、バッテリー周辺に物理的な変更をくわえず運用面の工夫のみということになるが、誰にでもわかりやすいが明確というAppleらしさ漂うアプローチを見せてくれる。

バッテリー関連で目に留まる新機能は「低電力モード」だ。「設定」に新設された「バッテリー」項目にあるスイッチをオンにするだけで、バッテリーのもちを優先させたシステム管理方式に切り替わる。ステータスバーに表示されたバッテリー残量が黒から黄色に変化するため、通常モードか低電力モードかは一目瞭然だ。

アプリの操作レスポンスも変化する。まったく同じ通信環境(Wi-Fi/モバイル)を利用しているにもかかわらず、低電力モードに切り替えるとSafariのページの読み込みに要する時間が明らかに延びる。通常モード時が"サクサク"だとすると、低電力モード時はワンテンポ遅れるような、いってしまえば"モッサリ"に変化するのだ。

低電力モード時は、バックグラウンド処理も大幅に省略されているようだ。モードを切り替えてから「設定」→「一般」→「Appのバックグラウンド更新」を表示すればわかるが、スイッチは無効化され、「"低節電"モードでは、Appのバックグラウンド更新は無効になります」(原文ママ)というメッセージが目に入る。この画面で管理できるアプリ(≒サードパーティー製アプリ)については、低電力モード時にはバックグラウンド動作しないものと考えていいだろう。

「設定」アプリに新設された「バッテリー」画面。低電力モードスイッチをオンにすると、メニューバーのバッテリー残量が黄色に変化する

低電力モードに切り替えると、「Appのバックグラウンド更新」画面に表示されているすべてのアプリはバックラウンド動作が禁止される

「Appのバックグラウンド更新」の管轄外とされている純正アプリはどうかというと、やはり機能の制約を受けているようだ。通常モード時の「メール」は、プッシュ型のサービスはただちに(バックグラウンドで)読み込み処理を行うが、低電力モード時には省略されているようで、着信したメッセージを開くとき「読み込み中」の回転する歯車をよく目にするようになる。通常モード時、プッシュ型のiCloudメールで見かけることはほとんどないだけに、バックグラウンド処理の不在を実感できる。

通常モード時はほとんど見かけないメールの「読み込み中」メッセージだが、低電力モードに切り替えると頻出するようになる

"モッサリ"の原因だが、CPUをクロックダウンしているものと推測される。SafariでWEBブラウジングしているときなど、通信と描画を並行して進める処理で顕著だが、体感速度は通常モード時と比べ目に見えて低下する。ページ遷移がワンテンポ遅くなり、スクロールするときに一瞬間が空く印象だ。iPhone 6でこの状態なのだから、CPU性能で劣る旧モデルは推して知るべしだろう。

体感速度の低下は数字の裏付けがある。ベンチマークアプリ「Geekbench 3」を使い測定したところ、通常モード時のスコアは2767/1597、低電力モード時は1752/1031(いずれもマルチコア/シングルコアの順)。単純計算すると、クロック値ベースで35%前後パフォーマンスが低下していることがわかる。

ベンチマークアプリ「Geekbench 3」で検証したところ、通常モード(左)と低電力モード(右)で35%前後のパフォーマンス差を確認できた