2015年9月18日に東京・虎ノ門ヒルズで行われたNVIDIAのGTC Japan 2015に2500人が集まった。「ディープラーニングの最先端の真実とは」というサブタイトルにひき付けられて参加した人も多かったと思われる。

NVIDIAはディープラーニングに力を入れており、同社のディープラーニング関係のカンファレンスには、毎回、募集人員を上回る参加申し込みが殺到しており、その反響を受けて次回は、より大きな会場に移って募集人員を増やす対応が続けられているのであるが、それでも参加申し込みがさらに増えてあぶれる人が出てきているという状況を繰り返している。それだけ、産業界でもディープラーニングに対する関心が高まっているということであろう。

今回のGTC Japanでは、NVIDIA本社のソリューションアーキテクチャ&エンジニアリング担当のVP(Vice President)のMarc Hamilton氏が基調講演を行った。基調講演と言っても学会のように1人でしゃべるのではなく、企業主催のカンファレンスに多い、それぞれの主題ごとにゲストを呼んで短い講演をしてもらうという形式で、東京工業大学(東工大)の青木教授、プリファードネットワークスの西川社長、NVIDIAの自動車関係のシニアディレクタのDanny Shapiro氏、ZMPの谷口社長、日本IBMの朝海氏が登壇した。

GTC Japan 2015で基調講演を行うNVIDIAのMarc Hamilton副社長

NVIDIAはゲーム用のGPU、エンタープライズのビジュアライゼーション、HPCやクラウドのアクセラレータ、自動車の分野でのGPUを使うビジュアルコンピューティングでは世界的なリーダの位置にある。

NVIDIAはビジュアルコンピューティング分野では世界をリードする企業になった

GPUコンピューティングが産声を上げた2008年には、CUDAのダウンロードは15万回、スパコンでのGPUの使用は77TFlopsに過ぎなかったが、2015年にはCUDAは300万ダウンロード、スパコンでのGPUの採用は54,000TFlopsと700倍に増加した。また、CUDAを教える大学は60校から800校と13倍に増えている。

CUDAとGPUの採用の2008年から2015年への増加

GRID Virtual Desktop Infrastructure(仮想デスクトップ環境)

NVIDIAでは「GRID」と呼ぶリモートデスクトップの使用を推進している。GRIDでは、ローカルのPCに強力なグラフィックボードを付けるのではなく、サーバ側に強力なGPUを置いて描画を行い、出力をH.264ビデオに変換してリモート端末に送る。そして、端末側で動画に変換して表示する。これで十分なレスポンスが得られるのかどうか心配になるが、実際のデモを見ると、アクションゲームでもスムーズに操作できており、十分、実用になる。

このGRIDテクノロジを使うVDI(仮想デスクトップインフラストラクチャ)について東工大の青木教授が登壇して、東工大のTSUBAMEシステムでの利用とその利点について説明を行った。

VDIの利点について講演する東工大の青木尊之 教授

スパコンでの計算では、数100GBから数10TBという大量のデータが生成されるのが一般的である。しかし、このデータをリモートのワークステーションなどに転送して可視化処理を行うと、データの転送だけで数時間から数日かかってしまう。また、ワークステーション側に大容量のストレージも必要となる。

スパコンでは大量のデータが生成されるので、計算結果の可視化のためには大量のデータを送る必要がある。しかし、GRID技術を使えば、これが不要になる

このため、東工大のTSUBAME2.5システムに、仮想デスクトップをサポートするNVIDIAのGRID K2を3台直結しているという。これは試験的な運用で、仮想デスクトップの有用性が確認されれば、増やしていくつもりであるという。

GRID K2は、2個のGK104 Kepler GPUを搭載しており、使い方によるが、GPUを仮想化して2人~64人のユーザを同時にサポートすることができる。そして、GRID K2はTSUBAME2.5のLustreファイルシステムに直結されているので、可視化のために大量のデータをワークステーションにコピーしてくる必要は無い。このため、長いデータ転送時間は不要であるし、データを持ち出さないのでセキュリティの点でも望ましい。

また、リモート端末には高性能のGPUを搭載する必要ななく、H.264をデコードして表示するだけの能力があれば良く、安価な普通のPCが使える。

TSUBAME2.5では3台のGRID K2を直結してリモートの仮想デスクトップを試用している

次の図は携帯電話の電波の頭の中の電界強度分布をシミュレーションで計算した結果を、GRID K2を使ってリモート表示した例で、デモでは、インタラクティブに角度を変えて、色々なアングルで頭を見ることができることを示していた。

携帯電話の電波による電界強度の分布データをリモートデスクトップに表示する例

また、次の図は、ゴルフのバンカーショットの様子を粒子法を使ってシミュレーションし、砂粒の動きを表示したもので、デモでは、クラブヘッドの動きに伴い砂が飛び散る様子が滑らかな動画で表示されていた。

バンカーショットでの砂粒の動き。大量のデータであるが、リモートでも滑らかな動画で表示される

檀上はHamilton氏に替わって、GRIDの対象ユーザとして、グラフィック能力を改善した環境を普通のビジネスユーザに使ってもらう、中小規模のファイルを扱うCADやCAEのエンジニアやデザイナー、そして最高性能のグラフィックス性能を必要とするエンジニアやデザイナーを挙げた。Grid K2は、あまりグラフィックスを使わない普通のビジネスユーザなら64人、バリバリにグラフィックス性能を必要とするアニメ映画などのデザイナーやレイトレースを使う工業デザイナーなら2人くらいで使う(1人で1個のGPUを占有)というイメージと思われる。

GRIDは、グラフィック環境を改善したい一般ビジネスユーザからCAD、CAEなどの中小規模のデータを扱うエンジニアやデザイナー、そして、Quadroワークステーションを必要とするハイエンドのエンジニアやデザイナーまで広範囲のユーザを対象としている

なお、NVIDIAは8月末にTesla M6とTesla M60というGRID2.0 GPUを発表している。M6はGM204というMaxwellアーキテクチャのGPUを1個、M60はGM204 GPUを2個搭載するVDI用の製品である。これらは科学技術計算向けの製品であるTesla製品であるが、GM204は倍精度浮動小数点演算器は搭載していないので、シミュレーションなどの科学技術計算に使うというよりもビジュアライゼーション用の製品である。

そして、M60はK1/K2と同じデュアルPCIスロットのモジュールであるが、M6はMXM(Mobile PCI Express Module)で、1Uサーバに搭載できるようになっている点が新しい。