乳幼児突然死症候群(SIDS)という病気を知っていますか?

それまで元気だった乳幼児が前触れもなく突然死亡する「乳幼児突然死症候群」という病気があることをご存じだろうか。主に1歳未満の乳児に起こるといわれる病気だが、いまだに原因は解明されていない。

今回は、乳幼児突然死症候群の発症リスクと予防法について、まえだこどもクリニックの院長・伊庭大介医師に伺った。

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事故ではなく"原因不明の病気"

乳幼児突然死症候群(SIDS: Sudden Infant Death Syndrome)とは、乳幼児が主に睡眠中に突然死亡する病気のことを指します。これには、健康状態や既往歴(これまでにかかった病歴)からは死亡の予測ができず、死後の調査や解剖検査などによっても死因が断定できないものが含まれます。

SIDSは1歳未満の乳児が発症する病気で、特に生後2~6カ月に多いとされていますが、まれに1歳以上の幼児でも発症することはあります。

厚生労働省の調査によると、平成9年にはSIDSによる乳幼児の死亡者数は538名にのぼりました。その後、平成11年に厚生労働省が対策強化月間を開始してからは減少傾向にありますが、それでも平成25年には125名の赤ちゃんがSIDSで亡くなっています。

国内外で提唱されている予防法は?

日本だけでなく全世界で問題視されているSIDSですが、原因は明らかになっていません。現在、欧米諸国や日本の厚生労働省などを中心に次のような予防法が提唱されています。

■うつぶせ寝を避ける

厚生労働省では、うつぶせに寝かせたときの方があおむけ寝に比べてSIDSの発症率が高いとの報告があることから、あおむけ寝を推奨しています。その背景として、日本では今から数十年ほど前に、うつぶせ寝が推奨されていた時期がありました。うつぶせ寝にすると、よく眠れる、ゲップをしやすい、頭の形がよくなる、成長を促すなどといわれていたためです。そこから、うつぶせ寝を危険視する声が広がり、実際にSIDSによる死亡者数が下がったことから、現在の対応強化につながっているのではないでしょうか。

医師からうつぶせ寝が指示されている場合は除きますが、寝返りができるようになるまでは、うつぶせ寝は避けたほうがよいでしょう。また、ふかふかの布団やベッドも、赤ちゃんの顔が埋まりやすいので注意が必要です。

■たばこをやめる

妊娠中の母親の喫煙は、胎児の成長に影響を与えるといわれています。出産後も、受動喫煙によって子供が気管支炎や気管支喘息(ぜんそく)、肺炎などの病気にかかるリスクが高まるという報告もあり、その影響は深刻です。SIDSの場合も例外ではなく、厚生労働省の平成9年度研究では、両親が喫煙する子供は、両親が喫煙しない場合の約4.7倍もSIDSの発症率が高いという報告がされています。

恐らく、「母親の喫煙が胎児に影響する」「受動喫煙が子供の体に悪い」ということは、多くの人が認識しているはずです。妊娠がわかると、どんなご夫婦でも、さまざまな変化を受け入れ、対応していくことになります。わが子のために生活を改善することができるか――。子供にとって適切な環境を整えるということは、SIDSの予防に限らず、育児する上で大きな課題となるでしょう。

厚生労働省が唱える「母乳育児」、でも母乳で育てられない人もいる

厚生労働省では、SIDSの予防法として「できるだけ母乳で育てること」も提唱しています。母乳で育てられている赤ちゃんは、人工乳(粉ミルク)で育てられている赤ちゃんと比べてSIDSの発症率が低いという報告があるためです。ただし、人工乳自体がSIDSを引き起こすわけではありません。赤ちゃんの体重が増えていないときなどは、必要以上に母乳にこだわらず、人工乳を上手に利用しましょう。

SIDSの発症リスク以外でも、母乳育児がよいことは、妊娠中の母親・父親学級などで多くの人が教わっていると思います。母乳は栄養満点で、母乳を通じて抗体が赤ちゃんに移行するからです。特に初乳(産後数日間に分泌される、黄みが強く粘性のある母乳)には栄養が豊富に含まれているため、与えたほうがよいとされています。

しかし、世の中には母乳育児ができないお母さんもいます。例えば、母体が感染症を患っている場合や、ある種の薬の内服を必要とする場合で、母親の病気や薬が母乳を介して子供に悪影響を及ぼす可能性があるときには、母乳育児は勧められません。また、何らかの原因により、いざ母乳を出そうとしても出ないことで苦しむ人もいるのです。

人工乳育児の場合、お子さんの健康状態が悪いと、自分の責任だと思い詰めるお母さんもいるかもしれません。しかし前述したとおり、人工乳は育児に取り入れてもよいものです。母乳育児ではなくても健康に育っているお子さんはいることを、心に留めておいていただければと思います。

ただ、栄養面を除いて考えたときに、母乳育児では肌と肌が触れ合うので、より赤ちゃんの様子をこまめに見守りやすいということは言えるかもしれません。つまり、母乳育児でも人工乳育児でも赤ちゃんに何か変わった様子がないかを注意深く見てあげること、それが乳幼児期には特に大切です。

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SIDSは、赤ちゃんなら誰でもかかる可能性がある病気だ。現状では原因がわからないため、不安要素をあげたらきりがなく、容易に心構えができるという問題でもないだろう。ただ、リスクを減らす方法として、うつぶせ寝を避けることと、たばこをやめることが世界的に提唱されていることは認識しておきたいものだ。

そしてSIDS以外にも、誤飲や窒息、ケガなど、少し目を離した隙に思わぬ事態に及ぶことはある。親をはじめとする周りの大人は、乳幼児にとっての危険を想定し、できる限りの対策を講じながら見守る必要があるのではないだろうか。

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記事監修: 伊庭大介(いば・だいすけ)

まえだこどもクリニック院長。1999年に杏林大学医学部を卒業後、同大学医学部小児科医局に勤務し、2002年には同大学医学部小児科教室助手を務める。その後、賛育会病院新生児小児科勤務を経て、2012年より医療法人社団育真会 まえだこどもクリニック院長として、一般診療のほか、予防接種、乳児検診・育児検診、アレルギー診療など小児科全般の診療に携わる。