10年間で大きく進化したPCB設計フロー「Xpedition」

メンター・グラフィックス・ジャパンは2015年8月25日、プリント基板(PCB)開発に携わる技術者および管理者を対象に自社の戦略や最新の技術動向、ユーザー事例などを紹介する「Mentor Forum 2015 - PCBシステム開発ソリューション」を開催。基調講演には、米Mentor Graphicsのシステムデザイン部門市場開発マネジャーである石川実氏が登場。「メンター・グラフィックスのPCB戦略」をテーマに講演した。

Mentor Graphics システムデザイン部門 市場開発マネジャーの石川実氏

石川氏は、まず現在の新製品開発を取り巻く課題を指摘。ビジネス面での課題としては、大きく分けて(1)市場競争力のある商品開発、(2)タイムリーな市場への投入、(3)パートナーとの協調、の3つがあり、技術的な課題としては、(1)複雑化する設計、(2)設計期間の短縮、(3)信号周波数の増加、(4)設計・製造会社との協調、の4つがあるとしたほか、「基盤面積は小さくなっていますが、1平方インチあたりのピン数は増えています」(石川氏)といったPCBにおける技術的なトレンドを紹介した。

「1994年の平均的な基盤面積は101平方インチで、1インチあたりのピン数は42でした。2014年の平均的な基盤面積は53平方インチと小さくなっていますが、1インチあたりのピン数は304に増えています。こうした背景のもと、システム設計定義からPCB製造までを統合したPCB設計フローであるXpedition Enterpriseも、この10年間で大きく進化しています」(石川氏)と語る。

Xpeditionのこの10年間の進化としては、まず2005年にリリースされた「Xpedition 2005」で、回路とレイアウトの統合を実現。次に2007年にリリースされた「Xpedition 2007」で、全社規模のIT化に対応し、2009年にリリースされた「Xpedition 7.9.x」で、アーキテクチャを大幅に変更。そして2014年にリリースされた「Xpedition VX」では、最新の設計手法や組織間の協調設計を強化している。

具体的にXpedition VXでは、スケッチ・ルータと呼ばれる新しい概念、ライブラリ・設計仕様管理、設計検証など、30種類以上の新機能を搭載し、6つの新製品を発表。導入してすぐに使える1万1000種類のジャンプスタート・ライブラリを提供している。また顧客からアイディアサイトに寄せられた175件のエンハンス要望、および1291件のバグに対応。トップ100件のエンハンス要望の42%に応えている。

石川氏は、「Xpedition VXの新機能を紹介する265種類以上のビデオコンテンツ、9種類のオンライントライアル環境、59種類のリリースドキュメントを提供しています。またXpedition VXのリリースにあわせて、個人向けPCBソリューションであるPADSも一新しました。Standard、Standard Plus、Professionalの3つのバージョンの展開により、PADSによる個人利用からXpedition VXによる世界展開までの完全なスケーラビリティを実現しています」と話している。

現在の基板では、70~80%の配線が高速配線であることもめずらしくない。プリ・シミュレーションにより制約条件を設定し、ポスト・シミュレーションで動作を保証するのが従来の設計手法である。しかしこの方法では、最後に大きなやり直しが発生する危険があり、設計時間を短縮できない。新しい設計手法では、各フェーズでチェックを行うことで、手戻りを最小限にし、設計時間を短縮できる。ここで重要になるのが「HyperLynx DRC」である。HyperLynx DRCを中心とした設計・検証プロセスを高速に検証することができる。

またシミュレーションモデルの準備や設計ルールの作成には、熟練したエンジニアが必要になる。この解決策として同社では、「HyperLynx Alliance」を設立している。HyperLynx Allianceでは、同社と半導体メーカーのパートナーシップにより、HyperLynx上ですぐに使えるシミュレーションモデルおよびHyperlynx DRCのルールを提供する。HyperLynx Allianceの成果の1つとして、AlteraのWebサイトからHyperlynx DRCのルールがダウンロードできるようになっている。

今後も最先端の技術でPCB設計を支援

最新技術を紹介する前に石川氏は、「これから紹介する新しい技術は、開発中のものであり、リリースを約束するものではないことをご理解ください」と前置きした後、システム設計の強化、部品検索・部品ライブラリ、3次元設計へのさらなる対応、ルータのさらなる進化、簡単にして強力なリユースについて、デモを交えて紹介した。

たとえばシステム設計の強化では、同社の「Xpedition xDX Designer」とPTCの工学技術計算ソフトウェア「Mathcad」を連携することで、ドキュメント作成の容易化を実現する。また部品検索・部品ライブラリでは、DigiKeyと「PartQuest」と呼ばれるサービスを展開。DigiKeyが取り扱う43万点の部品のシンボルおよびフットプリント情報を検索できる。

さらに3次元設計の拡張では、FPC(フレキシブルプリント配線板)やリジットフレキシブル基板に対応したスタックアップの設定が可能になり、ルータではスケッチ・プランナーに対応。リユースには、すでにあるレイアウトをコピー&ペーストする方法と、レイアウトをライブラリに登録して共有する方法の2つがあるが、それぞれ一長一短がある。この課題をダイナミック・リユースで解決。リユースプロセスを自動化する。

石川氏は、「今後のEDAツールは、複雑なシステム設計をシンプルにし、迅速かつ正確に対応できる新しいチャレンジが必要になります。メンターでは、今後も最先端の技術でPCB設計ソリューションを支援していきます」と話し、講演を締めくくった。