今年も、9月9日にAppleはメディアイベントの開催を予定しています。ちょうど1年前にあたる2014年9月9日、大成功したスマートフォンiPhone 6 / iPhone 6 Plusをリリースしたイベントの壇上で、Tim Cook CEOは非常にうれしそうな顔をしながら「One more thing……」のスライドを披露しました。

このフレーズは、Steve Jobs氏が基調講演の場で、あっと驚かせるような新製品を披露する時のおきまりのフレーズ。Appleの命運を変えた製品を披露した会場でもあったクパティーノ市内のフリントセンターでのこの一言は、感慨も大きかったのではないでしょうか。

こうして発表されたApple Watchは、2015年3月のメディア向けイベントで4月24日に発売されることが伝えられました。Apple Watchは、Appleがリリースした初めてのウェアラブルデバイスで、Appleによると「最もパーソナルな製品」と説明しています。

Apple Watch

アルミニウムと強化ガラスを採用し軽量化を図ったApple Watch Sport、ステンレススチールとサファイヤガラスを採用したApple Watch、18金とサファイヤガラスを採用し、100万円超えるApple Watch Editionの3モデルがあり、それぞれ38mm、42mmの2種類のケースが用意されています。

バンドは、しなやかでカラフルなフルオロエラストマー、シックで高級感のあるレザー、そしてミラネーゼループやリンクなどのメタルが用意されており、アタッチメントの使用も公開されたことから、サードパーティーのバンドも出始めています。

基本的には、まず本体のモデルとサイズ、色を選び、これに組み合わせるバンドを用意する、という方法になります。モデルの選び方については、後の記事で触れていきたいと思います。

Apple Watchの売れ行きは?

Apple Watchについては、この5カ月の間、各種調査で、売れている、失速している、などと一喜一憂する向きもあります。

Appleに対してネガティブな情報はもてはやされるという世界的なメディアの傾向があることを差し引いても、具体的な販売データを示さないことが原因、としか言いようがありません。ただ、当のAppleは、決算発表の場などで、「余計な憶測を生みたくない」として非公開を貫いています。

しかし各種データでは好調さを示し始めているように思います。

まず、Apple Watch発売以降発表されて初めてとなる、Appleの2015年第3四半期決算において、Apple Watchの売上が含まれる「その他の製品」は、前四半期と比較して56%、前年同期と比較して49%上昇しています。Apple Watchの効果と推測することができます。

予測通り、スマートウォッチではトップシェア

2015年7月末に出されたStrategy Analyticsの調査によると、Apple Watchの2015年第2四半期の販売台数は400万台で、スマートウォッチ市場の75%のシェアを獲得したと報告しています。8月にリリースされた調査会社IDCのウェアラブルデバイスに関する統計では、同時期に、Apple Watchは360万台を販売し、ウェアラブルデバイス全体のシェアは2位の約20%を獲得しているとしています。

ちなみにIDCの調査では首位はアクティビティトラッカーで大手のFitBit。Xiaomi以外の、SamsungやMotorola、LGといった他のスマートウォッチは100万台に届かない売上しか確保できていません。この点も、Strategy Analyticsが出したスマートウォッチカテゴリのシェアとほぼ一致すると見ています。

Apple WatchはFitBitのようなヘルスケア機能ももちろん搭載している。「アクティビティ」アプリで消費カロリーなどのチェックが行える

なお、FitBitと比較して、価格レンジはApple Watchの方が大幅に高く、収益性ではトップになっている、と筆者は考えています。この構造は、iPhoneのスマートフォン市場におけるポジションと共通しています。

Appleは、最近こそ、スマートフォンメーカーのシェアで日本、米国、中国などの市場でトップを取るようになりましたが、販売台数でトップメーカー出なかった時期も、収益の大半をAppleが占めるという構造を維持してきました。スマートウォッチ市場でも、同様のビジネスモデルと製品のポジションを確保しようとして、現状は成功しているように思います。

米国では販売網の大幅な拡大を敢行

Tim Cook氏は前述の2015年第3四半期決算発表の場で、「初代iPhone、初代iPadよりも上手くいっている」と答えており、急速な立ち上がりを狙うというよりは、長期的に定着させる製品に育てていくことを目指しているようです。

Apple Watchの生産は、Tim Cook氏も決算発表で認めていた通り、供給が需要に追いついていない状況が続いてきました。そのため、オンラインでの予約・販売からスタートしましたが、順次Apple Storeでの取り扱いを開始しています。

米国では8月から、家電量販チェーン大手のBest BuyでApple Watch販売の取り扱いを始めており、1,000店舗以上の全店舗での販売を拡げていく予定です。日本でも、Apple Storeだけでなく、携帯キャリアのショップ、家電量販店での展示や販売が拡がっていくことになるでしょう。

生産能力を高められなかったという事情もありましたが、思いの外、のんびりと製品を売っていく意向が強いのも特徴的です。Apple Watchはファッション感覚を強く打ち出した製品であることから、他のデバイスのように毎年ちょこちょこ刷新するサイクルとは異なる方法を採っているようです。

ただ、2015年に発売されたばかりの製品で、製品サイクルの想定が立たないため、他の製品のような予測は困難です。ただ、iPhoneのフルモデルチェンジに合わせて、Apple Watchの刷新も行われるのではないか、というありがちな見立てをしておこうと思います。

また、本連載でも詳しく触れますが、間もなくリリースされるとみられるwatchOS 2によって、開発者のアプリの自由度と高速性が向上します。現在のApple Watchを買い換えなくても、メリットを享受できることになります。

その点で、もし興味がある方は、特にタイミングを待たずに購入しても良いのではないか、と思います。

次回は、5カ月のApple Watch生活を振り返って、何が起きたのか、について考えます。

松村太郎(まつむらたろう)
ジャーナリスト・著者。米国カリフォルニア州バークレー在住。インターネット、雑誌等でモバイルを中心に、テクノロジーとワーク・ライフスタイルの関係性を執筆している。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、ビジネス・ブレークスルー大学講師、コードアカデミー高等学校スーパーバイザー・副校長。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura