デカくて体格がいい。これは店長ではなく、店を訪れる客たちの特徴だ。茨城大学の目の前に店を構える中華料理店「大興飯店」は、同大学のサッカー部の要望で生み出されたボリューム満点の「スタミナ丼セット」(830円)が名物とのこと。どれほどのスタミナ料理なのか、早速挑戦だ!

これが噂の「スタミナ丼セット」。価格は大盛りでも据え置きの830円

茨大生の"ソウルフードの店"

大興飯店へはJR水戸駅から茨城交通バスで約20分。店の周辺は茨城大学のほか、中学・高校などが多数点在した文教地区になっている。特に店は茨城大学の正門から徒歩30秒という距離にあるため、茨城大学の学生なら知らない人はいないほど。スポーツ系の部活をしている学生などにとっては、ほとんど"ソウルフードの店"として親しまれているようだ。

歴史を感じる「大興飯店」の入口。茨城大学の正門からは徒歩30秒という近さ

昭和51年(1976)創業らしく、2016年には40周年となるわけだ。表には"茨大生御用達"と書かれた看板も出ており、入店すると「いらっしゃいませ」と田山誠三郎店長が笑顔で出迎えてくれた。御年66歳ということなので、独立したのは27歳のころということになる。

噂のスタミナ丼セットについて聞いてみたところ、「うちのメニューに対して人は『サービスし過ぎ』って言うけど、うちでは普通のつもりなんだよね。ごく普通にやってる」と田山店長のジャブ。本気なのか冗談なのか。人なつっこい笑顔からはちゃかしているようには見えない。ならばこの目で判断させていただこう。

特盛りでも1,000円を切る

「セットメニューのスタミナ丼、特盛りもあるけど、大盛りにしましょうか」ということで、スタミナセット大盛りを作ってもらうことに。ちなみに、大盛りにしても普通盛りと同じ830円だが、特盛りになると980円になる。そんな大盛りの調理行程を見させてもらったところ、丼に盛られたご飯は確実に1合以上はあった。ひょっとして1.5合かも。

「学生は食べちゃうんだよ」と田山店長に言われて周囲を見てみると、確かに店内には実に体格がいい客で満席になっていた。そして中には、「今日はこれからプールで体力作り」という女子大生4人組の姿も。「これから動くので少なめ」と言いつつも、ボリューム満点のセットメニューを食べているのだからあっぱれである。

「なんといっても大盛りは夜だね。運動を終えた後に来て、みんな大盛りを食べる」と田山店長。話の合間に見事な手つきで料理を次々と作っていき、筆者のスタミナ丼セットの大盛りも注文からわずか7分ほどという早さで目の前に運ばれてきた。

田山誠三郎店長。店では"マスター"と呼ばれている

麻婆豆腐で広がる味わい

噂のスタミナ丼はニラタマと豚肉のニンニク炒めが相乗りした丼で、セットメニューにはキャベツやニンジン、モヤシなどがトッピングされた醤油ラーメン、そして、マーボー豆腐と添え物のたくわんが加わる。スタミナ丼だけでもかなりの重量感なのに、単品として提供されてもおかしくないボリュームのラーメンも一緒なのだ。見ているだけでもすでにスタミナが補充された気になってくる。

ニラタマは甘めの味付け。ニラは主張し過ぎず、卵がやさしく受け止めてくれている。その意味では「本当にこれはスタミナなのか」とも感じてしまったが、スタミナたるゆえんは豚肉のニンニク炒めにあった。一口目からいきなり口の中で爆発! 程よいニンニクの辛みで、夏バテで疲労がたまった身体もこれ一気に元気になれそう。

そしてラーメンはというと、モヤシとシャリっとした食感を残したキャベツは細麺とも相性抜群。醤油スープはこの道40年という歴史をも感じさせてくれそうな、どこか懐かしささえ感じられる。

もう一品の麻婆豆腐は「お好みで召し上がれ」(田山店長)とのことなので、丼とラーメンの両方に加えて"麻婆ラーメン"と"三色丼"にしてみた。麻婆豆腐そのものはややマイルドな辛みだが、ラーメンに入れればトウバンジャンのピリ辛でパンチが生まれる。

麻婆豆腐+ラーメンで"麻婆ラーメン"に。辛みのパンチが効いている

一方、丼に入れればニンニクのパワフルな刺激がやや中和されるので、味に変化をつけたい時にぴったりだ。そもそもニラタマが甘めなのは豚肉との味のバランスのためらしく、そこに麻婆豆腐を加えながら食べ合わせを楽しんでみるのもいいだろう。

麻婆豆腐+スタミナ丼で"三色丼"に。見た目も豪華!

ポイントは「ニンニクは火を通しすぎないで一瞬で炒める。香りが飛ばないようにね」と田山店長。そしてまた、「普通だよ」と言葉を添える。普通の手さばきで普通に作って、普通においしいということなのだろう。ただし、量は普通ではないことは認めていただきたい。

店長はサッカー部員の育ての親!?

そもそもこのスタミナ丼は、20年以上前に茨城大学のサッカー部の希望で誕生したメニューだという。確かに、体力強化には食事が重要だ。20年前というとちょうどJリーグ発足の頃である。茨城県は鹿島アントラーズや水戸ホーリーホックを擁し、茨城大学のサッカー部からもJリーガーや日本フットボールリーグの監督などを輩出している。

「サッカー部はずーっと面倒見てるんだよ」と田山店長が言うように、取材で訪れた時も店内ではサッカー部員がランチを楽しんでいた。歴代のサッカー選手たちも、このスタミナ丼で育っていったと思うとなんだか感慨深い。

●information
大興飯店
茨城県水戸市袴塚3-9-16

※記事中の情報・価格は2015年8月取材時のもの。価格は税込

筆者プロフィール:ベル・エキップ

取材、執筆、撮影、翻訳(仏語、英語)、プログラム企画開発を行うライティング・チーム。ニュースリリースやグルメ記事を中心に、月約300本以上の記事を手がける。拠点は東京、大阪、神戸、横浜、茨城、大分にあり拡大中。メンバーによる書籍、ムック、雑誌記事も多数。