会見で握手する日本マイクロソフト 取締役 代表執行役 社長 平野拓也氏(左から2人目)とダイワボウ情報システム 代表取締役専務 安永達哉氏(同3人目)

日本マイクロソフトが8月28日に発表したダイワボウ情報システム(以下、DIS)との協業拡大。協業はWindows Phoneの拡販を目的としているが、Windows Phoneプラットフォームが広がる未来はあるのだろうか?

Windowsタブレット推進センターからの発展

そもそも両社は2011年より「Windowsタブレット推進センター」を共同で運営している。このセンターの狙いは今回と同じ「中堅・中小企業」「教育市場」のICT利活用促進で、今回の協業拡大とは、このセンターを「Windowsモバイルビジネスセンター」に格上げすることを目的としている。

Windowsモバイルビジネスセンターでは、これまでのタブレットに加え、新たにWindows Phoneへの対応を予定している。これまでのタブレット拡販ノウハウを活かしつつ、Windows 10投入のタイミングで国内でも参入メーカーが徐々に拡大しつつあるWindows Phoneも拡販しようという狙いだ。

拡販にあたっては、DIS内に専用相談窓口を設けるほか、全国各地でハンズオンセミナーを設置する。また、Office 365やMDMのMicrosoft IntuneといったWindowsデバイスと親和性の高いマイクロソフト製品のソリューション提案なども行っていく。

アプリが広がる根拠は?

もちろん、こうした動きはマイクロソフトがスマートフォン市場で遅れを取るWindows Phoneの周辺環境を整備することで、企業の導入障壁を下げようという狙いがある。

7月に日本マイクロソフト 取締役 代表執行役 社長に就任した平野 拓也氏は「Windows 10というユニバーサル・プラットフォームが出たことで、スマートフォンに対する関心が高まっている」と、すでに"熱い声"が集まっていることを明かす。

その一方で、スマートフォン市場のほぼ100%がAndroidとiPhoneで占められており、KDDIが2011年に発売した「IS12T」以降、Windows Phone端末が主要キャリアから販売されていない現状を考えると、やや強気な発言にも見える。

ただ、「パートナーメーカーからさまざまな問い合わせをいただいている」(平野氏)としており、1つのアプリが、世界で数億台に及ぶすべてのWindows 10搭載デバイス(PCやタブレット、スマートフォン、Xboxなど)の上で動くプラットフォームは、メーカーにとって、それなりに魅力的に映るようだ。いわゆる「ニワトリと卵」の関係として、プラットフォーム(アプリ)の成熟が先か、利用者の拡大が先かという話になるが、まずはその土台となるデバイスが広がる手ごたえをマイクロソフトはつかんでいる。

実際に、Windows 10のインストールベースはリリース後1カ月足らずで7500万台に上り、Windows 8の拡大ペースの数倍に達する。この勢いを未開拓地にまで広げることができるのか。ここがマイクロソフトの勝負どころと言えよう。

石橋を叩いて渡る日本企業

プラットフォームへのこだわりという意味では、仕事現場でiPadを目にする機会は多い。その一方で、スマートフォンでは過半数を占めるAndroid端末はあまり見かけない。これには企業のセキュリティに対する意識が関係している。

「石橋を叩いて渡る"ジャパンクオリティ"というものがある。日本企業のWindows利用率は、世界で見ても群を抜いて高い。ここがメインである以上、スマートフォンまでシームレスなシステム環境を構築できるメリットを訴求したい。強力なプロダクトになると確信している」

このように語るのは、ダイワボウ情報システムの代表取締役専務である安永 達哉氏。マイクロソフトの平野氏も「年金機構の問題など、昨今起こっている情報漏えいを踏まえ(中堅中小企業の)課題意識が上がっている」と話すように、経営層であってもセキュリティ・インシデントがもはや"他人ごとではない"という認識が広がっているようだ。石橋を叩いて渡る堅実さと、セキュリティ意識の高まりが、同一プラットフォームで管理しやすいというPCとタブレット、スマートフォンを包括できるWindowsには追い風という認識のようだ。

なお、DISは現在Android端末の販売も手がけており、さまざまなノウハウをWindowsベンダーとしてだけでなく、MVNOとしての知見も蓄えている。2014年には18.2万台を販売し、こうした実績もマイクロソフトとの協業拡大につながったと見て良いだろう。

タブレットに加えてWindows Phoneに関する販売施策もすでに開始しており、今後3年間で合計200万台の販売を目指す。法人市場では、2016年から3年間で1700万台のモバイルデバイス需要が見込まれており、市場シェアも現状の15%から20%へと引き上げるという。

現時点で市場に出回っている"技適"を通ったWindows PhoneはマウスコンピュータのMADOSMAのみ。平野氏が「具体的な端末は明かせないが、年度内には新たな端末が出てくると思う」と話すように、企業にとって"魅力的"な端末が出てきた時こそ、Windows 10のメリットを活かしたWindows Phone市場のスタートという号砲が鳴ることだろう。

タブレット市場でも好調なWindows。2011年の両社の「Windowsタブレット推進センター」設立時はWindows 7の時代で、タブレット端末に最適化されていなかった。その頃からの市場シェアの急拡大は取り組みの成果と平野氏も胸を張る