中小企業が入居するビルが並ぶ永代通りの一本裏手、茅場町駅からほど近い場所に、リグナのショールーム「リグナテラス東京」がある。事務所街という言葉の似合う素っ気ない通りに、不似合いなほどスタイリッシュなインテリアショップやカフェ。派手なことは何一つしていないのに、人目を引いている。

EC市場の規模拡大を背景に、オンライン店舗と実店舗の競合が語られた時期もあったが、現在はO2O(Online to Offline)による集客や、実店舗をショールーム代わりにする「逆O2O」といった関係が生まれている。だが、5,700を超えるデザイナーズ家具を取り扱うリグナの施策にはもっと多くの意味があるという。同社代表取締役社長 小澤良介氏にお話をうかがった。

中小企業の入るビルが並ぶ通りに、一棟まるごとリノベーションして誕生した「リグナテラス東京」。同店の前に立つのは、リグナ 代表取締役社長 小澤良介氏だ

顧客の声に応え、オンラインから実店舗へ

リグナは2004年、オンラインのみのインテリアショップとして誕生。学生時代から起業の準備をしていたという小澤氏が、「ネットで家具を買おうと思って探したところ、カッコいい店が見つからなかった」という経験から、ならば自分で作ろうと考えたことがきっかけだった。卒業したばかりなのでもちろん実務の経験はない。だが、逆にそれが既存のやり方に囚われないスタイルを自力で切り開く原動力となった。

「展示する店と倉庫を構え、在庫を持って取引する、という従来の常識が僕にはありませんでした。知らなかったからこそ、どうするかを自分で考え、思い切ったことができた。無知が可能性だったんです」(小澤氏)

家具を卸してくれる取引先もない状態からのスタート。気に入った家具を販売している店舗をしらみつぶしに当たり、取引先を教えて欲しいと懇願した。1件だけ対応してくれた店舗の紹介で、ある商社との取引開始にこぎつけたという。Webサイトの制作は学生時代の友人を頼り、システムは入れずに安価で、しかしデザインにはこだわったショップに仕上げた。

「Rigna」Webサイト イメージ

「初めて携帯にメールフォームからの注文が飛んできた時はびっくりしました。4~5万の一人がけソファが売れて。それで面白くなっちゃって (笑)。最初の1年くらいで安定的に売れるような流れができていきました」(小澤氏)

ネットで商品が売れ始めると、顧客から「見てから買いたい」という声が届くようになった。ならば見せる場所を作るしかないと、顧客の声に応える形でネット専業からリアルの場へ乗り出した。最初は恵比寿にあるアートギャラリーを間借りし、展示スペースの一部に家具を置いてもらった。次いで、品川港南で100平米クラスのマンション最上階の部屋を借りて移転。予約制のショールームにした。

「どこで見られるのかとお問い合わせを頂くということは、そこへ行って見てもらえるということ。その時点で、路面店でなくても、都内の一等地でなくてもいいという認識になったんです」(小澤氏)

この経験がさらに、ビル一棟を独自のコンセプトでリノベーションしたショールーム作りへとつながっていく。

泉岳寺のペンシルビルでは敷地面積の狭さを逆手に取ったワンルーム的な演出を

早稲田の元印刷工場は屋上まで活用し、グリーンのあしらいも豊富に

戦略的出店と、オンラインとの相互効果

2014年末、リグナは現在のショールームがある茅場町へ移転した。ここでもあえて商業エリアではなく、しかも大通りから1本入った通りを選んだ

「偶然立ち寄るお客様が多いことは、宣伝にはなりますが、それがすぐに売り上げに結びつくタイプの商品を扱っているわけではありません。検索やソーシャルがこれだけ広がった時代です。多くの人を呼び込むよりも買いたい人だけが来る場所を選ぶことで、家賃やコストをおさえつつ、来店された方には丁寧に接客をすることができます」(小澤氏)

商業エリアでないとはいえ、ショールームの場所は東京駅からタクシーでワンメーターという好アクセス。似たタイプのインテリアショップが少ない東京の東側であり、人口純増数が都内1位の中央区であることも、この場所を選んだ理由だ。さらに、一般的にインテリアショップは平日は人が少なく休日は混雑するが、ここはオフィス街だけに平日に行き交う人が多く、昼時は併設のカフェにも行列ができる。店舗の稼働状況が偏らないのも、このエリアならではの利点となる。

茅場町移転後のリグナテラス東京 店内の様子

同ショールームにはカフェが併設され、昼時にはサラリーマンやOLで賑わう

また、ショールームの役割はオンラインの顧客のための現物確認だけではない。ショールームで品物を見た来店客が、後からネットで注文するケースも少なくない。ネットと店舗を何度も往復し、さんざん悩んでから買う人もいる。O2O・逆O2Oという流れに限定せず、お互いに送客する循環効果を生んでいると言えるだろう。

「人によってモノの買い方はさまざまですよね。だから、ある程度お客様にとって自由度のある"遊び"の部分が必要だと思っています。リグナテラスはカフェもあるし、グリーンショップもあるし、小物もあるし、ここを離れてもネットの店舗やFacebookがあります。お客様の回遊性を高める自由度の高さが、両方あることの強みかもしれませんね」(小澤氏)

来客効果だけでなく、ネットショップのPVやお気に入りの数などを参考に人気のある商品をある程度絞り込み店舗のディスプレイに反映させたり、逆に来店客から寄せられた生の声をネットショップの品揃えやページ作りに活かすなど、マーケティングの面でもそれぞれの特長が役立っているという。

オンラインから始めたからこそ活かせる、双方の価値

オンライン・オフラインを自由に行き来できる動線をつくり、目的来店客に絞り、マッチングを図った品物を揃える。これらの施策の基盤には、ネットから起業した小澤氏ならではの視点がある。

「ネットで事業を始めたことが良かったのだと思います。最初にまとまった資金が必要になっていたら経営は厳しかったと思いますし、家具店はとかくオーナーの趣味に偏りがちです。コストを抑えながら効果的な実店舗づくりや、お客様の情報・好みをチェックして活かせるのは、ネットで始めたゆえの気付きでした」(小澤氏)

現在同社では、家具の販売に留まらず、設計・デザイン事業や企業のブランディングなども手掛けている。注文された品をただ納品する業者の立場ではなく、自ら物事を決められる立場になることでビジネスチャンスが広がるのだと、小澤氏は言う。

「クリエイターとして確固たる立場を構築することが、ある意味ビジネスをしていく上でも有利になります。家具は好きだし軸になっていますが、家具屋さんであり続けるのではなく、今はもっと広げていきたいと思っています」(小澤氏)

企業の強さは、売り上げ規模よりも影響力と知名度だと語る小澤氏。厳しい環境の中で影響力ある存在になるには、戦略的なブランディングが必要だ。オンライン・オフラインをシームレスに活用するヒントは、その広いビジョンにあるのかもしれない。

明日、2015年8月28日(金)にタイにてオープンとなる「NEO KOURAKUEN」。同店舗は、リグナが店舗空間設計デザイン及び総合プロデュースを行った