出産前に胎児について調べる方法はいくつかあります

産婦人科を受診して、超音波検査で子宮内に胎のう(胎児を包む袋状のもの)を認められた日から、妊婦としての日々が始まります。妊娠中は、子供の将来に思いをはせ、超音波検査のときに自分たちに似ている部分を探してみたりするもの。それと同時に、無事に生まれてくるかどうか、赤ちゃんに何か異常がないだろうか、と出産する日まで不安もあります。

現在、日本では出産前に胎児について調べる方法がいくつかあり、その検査をまとめて「出生前診断」と呼んでいます。

出生前診断の種類

出生前診断は、検査の内容によって「非確定的検査」と「確定的検査」の2つに分けられます。非確定的検査は、胎児の病気の可能性を推定するもので、母体への侵襲が少ないことが特徴です。種類には、「超音波検査」「母体血清マーカー検査(クアトロ検査)」「新型出生前検査」があります。

一方、病気を正確に診断するために行われる確定的検査は、「羊水検査」「絨(じゅう)毛検査」の2種類があり、母体に針を刺すので侵襲的な内容となります。

母体への侵襲が少ない「非確定的検査」

まず、非確定的検査のそれぞれの特徴についてお話しします。

超音波検査

通常の妊婦健診で行う検査です。妊娠初期に胎児の首の後ろにある皮下のむくみ(NT)の厚さが一定以上あった場合、染色体異常や心疾患の異常の可能性が高くなるといわれています。妊娠11週0日から13週6日のときに厚みについては判定します。厚みがあるからといって必ずしも異常があるとは限らず、あくまでも補助的な診断です。

母体血清マーカー検査(クアトロ検査)

母体の血液中に含まれている成分を測定する検査で、以前より行われています。「αフェトプロテイン」「ヒト絨毛性ゴナドトロピン」「エストリオール」「インヒビンA」の4種類の成分を調べ、日本人の基準値や妊娠週数、家族歴、インスリン依存性の糖尿病の有無、そして母体の年齢をもとに、その人固有の確率を算出します。その確率がカットオフ値(検査で陰性と陽性を分ける値)より高いか低いかで陰性、陽性という判断も出てきます。この検査で評価可能な病気は、21トリソミー症候群(ダウン症候群)、18トリソミー症候群、神経管閉鎖障害の3つです。

新型出生前検査

正式名称は「無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)」といいます。母体の血液からDNA成分を分析し、対象となる染色体疾患が胎児にあるかどうかを推定する検査で、妊娠10週以降で受けることができます。現在のところ対象となる染色体疾患は限られていて、21トリソミー症候群(ダウン症候群)、18トリソミー症候群、13トリソミー症候群の3疾患になります。

新型出生前検査の「陽性」と「陰性」が示すこと

日本における新型出生前検査は、検査を受けられる場所や対象者が限られているのが現状です。日本では2013年4月より、日本医学会より認定された施設で臨床研究という形で実施され、検査前後に遺伝カウンセリングを行うことが必須とされています。また、研究結果などは、臨床研究施設による共同研究組織「NIPTコンソーシアム」より報告されています。

この検査が大きく取り上げられたのは、検査感度の99%という値にありました。超音波検査が64~70%、母体血清マーカー検査(クアトロ検査)が81%であることと比較すると、非常に確実性が高いように思われたのです。しかし検査感度とは、実際に異常がある方の中で検査で異常と出ている方の割合であって、陽性的中率(検査で陽性と判定された方の中で実際に異常がある率)とは異なるので、注意しましょう。

ただ、新型出生前検査で「陰性」と判定されれば、胎児がその染色体疾患ではない可能性(陰性的中率)は99.9%といわれています。一方の陽性的中率は、年齢や疾患によってばらつきがありますが、21トリソミー症候群(ダウン症候群)で50~98%程度。21トリソミー症候群より出生頻度が低い他2つの疾患は、これより確率が下がります。ただし「陽性」とは、あくまで対象となる染色体疾患の可能性が高いことを示しているにすぎません。確実に診断するには、次にあげる確定的検査で調べる必要があります。

確定的検査とは?

確定的検査は、それぞれ次のような内容となります。

羊水検査

超音波で胎児や胎盤の位置を確認しながら、お腹に針を刺して羊水を吸引し(羊水せん刺)、その中に含まれる胎児由来の細胞を培養して染色体の数を調べます。妊娠15~18週の間に検査が可能です。

絨毛検査

羊水検査と同じく超音波で観察しながら、胎盤を構成する絨毛組織を採取して染色体を調べる検査。お腹から針を刺す方法(経腹法)と、膣から針を入れる方法(経腟法)があります。妊娠10週以降から14週までの羊水検査より早い時期に受けることができます。

妊娠を続行するべきか否か、問われる倫理的問題

NIPTコンソーシアムの報告によると、2013年4月の検査開始時から2015年3月までの間で、新型出生前検査を受けた人は1万8,337人。そのうち陽性が確定した297人のうち約75%が人工妊娠中絶を選択したといいます。

出産前に胎児の染色体疾患が判明したら、妊娠を続行するべきか否か――。新型出生前検査は、よく倫理的問題をテーマに論じられることがあります。

だからこそ、検査前の遺伝カウンセリングでは、検査の説明は大前提として、対象となる染色体疾患への正しい知識と、望まない結果だったときの影響を十分に伝えることが求められます。また、検査で陽性だった場合は、特に精神面のケアが重要になってきます。夫婦が次の決断へ納得して進めるよう、できる限り専門家が寄り添える環境が整えられるとよいでしょう。もちろん、検査の対象となる病気と付き合いながら生きている方やその家族の方へのサポートも、社会全体で考えていかなければなりません。

妊娠や出産、育児など、どれを1つ取ってみても不安や悩みは尽きないものです。正解がないからこそ、周りはどうなのか、一般的にはどうなのかを気にしてしまうこともあるでしょう。でも十人十色、夫婦それぞれのカタチがあるのが当然だと思います。新型出生前検査を含む出生前診断は、知ることと知らないこと、それぞれにリスクを伴います。夫婦間で十分話し合うことはもちろん、専門家によく相談をして、検査を受けるかどうかについて検討することが大切です。

※画像は本文と関係ありません

記事監修: 疋田裕美(ひきだ・ひろみ)

日本産婦人科学会認定医、母体保護法指定医

九州大学医学部卒業後、九州大学付属病院、板橋中央総合病院での勤務を経て水口病院産婦人科に勤務。150名以上の女性医師(医科・歯科)が参加するEn女医会の会長も務め、ボランティア活動などを通じて、女性として医師としての社会貢献を目指した活動に従事する。