8月1日付でデルの新社長に就任した平手智行氏。7月24日の社長交代記者会見では、現状のデルの課題や事業戦略は語られなかったので、インタビューを通してこの点を改めて聞いた。

なお、平手氏は1987年に日本IBMに入社後、アジア太平洋地区経営企画、米IBM本社の戦略部門を経て、2006年には執行役員と米国IBMバイスプレジデントに就任。2011年12月末日付で同社を退任し、米ベライゾン エリアバイスプレジデント、ベライゾンジャパン社長に就任している。そして、今年の7月1日に副社長としてデルに入社し、8月1日から代表取締役社長を務めている。

代表取締役社長 平手智行氏

--平手社長がデルに入社されてから1カ月半ほどが経ちましたが、この間にどのようなことをやられてきましたか?

7月は、まず社員のリーダーに会い、お客様に受け入れられているのか、お客様が抱えている課題は何かを聞きました。その後、米国本社で幹部に会い、世界における戦略、アジア・日本に何を期待をしているのかを確認してきました。また、APJ(Asia Pacific and Japan :アジア太平洋地域)の幹部にも会い、APJのビジネスの状況や課題などを確認しています。8月はお客様にお会いし、お客様の声を聞くことに終始しています。

--米国本社の幹部から、社長になるあたって求められた課題(成果)はありましたか?

デルとしてやりたいことは、お客様への提供価値を高めることです。たとえば、製品を1つの提供するのと、2つ提供すること、あるいはインテグレートして提供して方法としないで提供する方法があり、これらはお客様によって異なってきます。こういったものを業種やセグメントごとにできる体制を整えることが、お客様への提供価値向上につながっていくと思います。

デルがサービス&ソフトウェアのM&Aを始めて8年になりますが、買収してもまだ、日本で提供できていないものがあります。また、ソリューションを持っていることと、活用できることは違いますので、これらを順次活用段階にしていく必要があります。これは、APJ全体にいえることです。

--平手社長は以前IBMにおられましたが、IBMとデルで何か違いを感じましたか?

どちらも元気で闊達ということはいえると思います。また、お客様に価値を届けたいという思考をもっていることも共通だと思いますが、IBMはITの中でもアプリケーションレイヤーに中心を置いて、デルはどちらかといえば、インフラよりであるといえます。ただ、どちらのほうが良いということは、いえないと思います。

--7月の社長就任会見では、インフラに注力していく旨のことをおっしゃっていましたが、具体的にはどのようなことですか?

日本のお客様は早い段階からカスマイズされたIT環境を作ってきたという経緯がありますので、島ごとにサーバやOSが異なり、水平方向での統合に対して課題を抱えている企業が多いと思います。最近はクラウドへの移行も始まり、オンプレミス(レガシーシステム)とのハイブリッドが注目されていますが、実際には、ダブルスタンダードになってしまっていると思います。本来は順次管理コストが減り、新規事業に投資できる金額が増えていかなければなりませんが、現在は一時的にダブルスタンダードになっているため、管理コストが逆に増えているケースがあると思います。こういった部分でオンプレミスとクラウドとのデータ連携をとり、機動力を高めるようなインフラやセキュリティを提供していくことが必要だと思います。アプリの部分については、パートナーさんと一緒にやっていきたいと思います。

--社長会見でおっしゃっていた「業務に役立つソリューション」とは、どのようなものでしょうか?

同じ業務の結果を安く、早くやるのもイノベーションですが、これはコスト削減による効果であって新たな利益を生み出してわけではありません。こういった方法では一時的に利益を出せたとしても、衰退していきます。やはり、新しいイノベーションのユースケースを作れるようなインフラをつくることが必要だと思います。現在のインフラの制約を解き放つことによって、新たなイノベーションを起こせるようなインフラを作るべきだと思います。

--現在の日本のIT市場をどう思われますか?

今の大手企業は、売上の4割が海外によるものです。そのため、世界のIT環境をバラバラにしていると、ヘトロな環境になり、管理に対するコストがかかり、新たな事業に投資することができません。こういった経営者のジレンマを解決するのが、今のITメーカーがやるべきことだと思います。

グローバリゼーションの中で、日本の企業はもっと標準化に取り組むべきです。ただ、それはグローバルスタンダードにしろということではなく、世界間で統一すべきだということで、日本のやり方で統一してもいいと思います。

デルもワールドワイドで共通のインフラ、シングルサイオンで利用できる環境を構築することで、運用コストを半分にしています。このように圧縮すべきところは圧縮し、投資を行うべきところに費用をかけるというメリハリが日本の企業に求められていると思います。

--自身の経験でデルで活かせる点は何だと思いますか?

デルはM&Aによっていい品揃えになってきましたが、プロダクトの1個や2個でお客様の課題は解決できません。そのため、パートナーさんと組んで、1つのソリューションに仕立て、イノベーションの価値を高めることが必要だと思います。このあたりは、IBMでの経験が活かせる部分だと思います。

--社長になって、社員に対してどんなメッセージを送りましたか?

今の時代は、1つのチームで問題が解決できるわけではありません。チーム間でコミュニケーションをしっかりとって、チームワークで、ONE DELLでやっていこうといいました。それにはゴールを明確にする必要があると思いますが、ゴールは社内からあげるのではなく、お客様の声をしっかり聞いて決めていく必要があるとい思います。

--今後、デルでやっていこうと思っていることは何ですか?

パートナーとアライアンスをもっとやるべきだと思いますし、改善すべき点はまだまだやあると思います。また、デルは中堅から大規模のお客様が中心になっていますが、もっと両方に幅が広がっていってもいいと思いますので、それに向けたサービスメニューを整えていこうと思っています。