女性があこがれる唇といえば、石原さとみさんのような、ぽってりとしたぷるぷるの唇でしょう。たっぷりグロスを塗ってと、リップメイクをしている女子は少なくありません。当然、グロスを塗る前には口紅を塗りますよね。紅という言葉がつくように、口紅は真っ赤なものというのが一般的。ですが、どうして口紅といえば、真っ赤なのでしょうか。

赤い唇は若さの象徴

あらためて考えることはありませんが、口紅は当然ながら唇に塗りますよね。唇は、顔のなかでも非常に薄い粘膜の部分です。そのため唇の色というのは、ヘモグロビン(血色)とメラニン(日焼け)の量により影響を受けます。唇の表面近くには、毛細血管がたくさん存在していて、唇を赤く見せているんです。

そして、毛細血管の状態は加齢とともに変化し、くすんでいくことが知られています。つまり、赤い唇は若さの象徴なんです。

人は見た目で他人のことを判断しています。「人を見た目で判断してはいけない」とよくいわれるのは、それだけ見た目で判断していることの裏返し。たしかに、じっくりと関係を築いていかなければ、相手のことは理解できません。ですが、最初にどんなふうに相手に接していいかを間違えば、関係を築くことすらできないわけです。

それは、恋愛のように繁殖のパートナーを探すことでも同じ。さまざまな目で見てわかる情報を利用して、相手のことを知ろうとします。その意味で唇は、相手の年齢や健康状態を探る、重要な視覚情報なんです。

そのため、女性は赤い口紅で化粧をします。そして、男性も赤い唇の女性を好むんです。ときおり、ファッションとしてオレンジやホワイトの口紅が注目されることがあります。ですが、流行するまでもなく男性からも女性からも支持されないのは、それが不自然な色合いだから。時代によって、真っ赤口紅が流行したり、ナチュラルなペールピンクが流行したりしますが、それでもその色が赤色系統からはずれないのは、そんな理由が隠されているからです。

上唇と下唇の色をそろえると若く健康的な印象

ところで、『日本化粧品技術者会誌』に掲載された研究(「上唇と下唇の色の違いに着目した 新しいメイクアップ法」)によれば、人は年齢によらず下唇のほうが赤みは強いということがわかっています。ですが、上唇と下唇の色の差が印象に大きな影響をおよぼすこともわかっています。そのため、上唇と下唇の色をそろえると、自然で若く健康的な印象を与えられるんです。

また『電子情報通信学会技術研究報告』に掲載された別の研究(「化粧による顔の印象の変化について:合成による刺激統制の試み」)によれば、赤い口紅は「きれいな」「大人っぽい」という印象を、ピンクの口紅は「かわいい」「子どもっぽい」印象を与えるとされています。

つまり、口紅を塗るときには、そのことに注意して唇の赤みを抑えるか、赤色を強めるベースメイクをしておくと、より若く見せることが可能です。また、どういう印象を与えたいかに合わせて口紅の色を変えるといいでしょう。

※写真と本文は関係ありません

著者プロフィール

平松隆円
化粧心理学者 / 大学教員
1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理にも詳しい。現在は、生活の拠点をバンコクに移し、日本と往復しながら、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は『化粧にみる日本文化』『黒髪と美女の日本史』『邪推するよそおい』など。