2015年7月に米国カリフォルニア州San Franciscoで開催された米国真空学会(American Vacuum Society:AVS)北カリフォルニア支部(Northern California Chapter)のCMP利用者グループ会合(CMP Users Group Meeting)において、450mm大口径化推進国際コンソーシアムGlobal 450mm Consortium(G450C)の450mmファブ・オペレーション・ディレクターであるChristopher Borst氏(図1:ニューヨーク州立大学準副学長(Associate VP)・準教授(Associate professor)を兼務)が450mm CMP装置・プロセス評価に関して口頭で報告したが、その詳細資料が8月中旬に公開された。

図1 G450Cの450mmファブ・オペレ―ション・ディレクター(ニューヨーク州立大学College of Nanoscale Science and Engineering準副学長・準教授兼務)のChristopher Brost氏(出所:CNSE)

G450Cは、去る7月にSan Franciscoで開催された半導体製造装置・材料展示会SEMICON WESTで、450mm化検討プログラムの最新進捗を総括的に報告したが、個々のプロセスに関してはリソグラフィを除き、詳細な情報開示はなかった(別途450mm関連記事参照)

CMPについては、AVS学会内にCMP関係者(デバイス・装置・材料メーカーや大学・研究機関のCMP技術開発従事者が一堂に会するCMPユーザーズ・グループが結成され、定期的にミーティングを重ねているので、G450Cは今回この場を利用して、450mm CMPに関する情報を開示し関係者の理解と協力を求めたようだ。過去には、Electrochemical Society(ECS:米国電気化学会)主催の半導体洗浄技術国際会議で450mm洗浄装置評価結果の詳細を発表している。

2台の450mm CMP装置の初期評価結果は良好

G450Cによれば、同コンソーシアムの450mmクリーンルーム(ニューヨーク州Albany)には、最終的に2台のCMP装置(著者注:メーカー名は非公開だが、1台は荏原製作所製と思われる)が搬入されることになっており(図2)、それぞれの装置について、シリコン酸化膜、STI(素子分離のためのShallow Trench Isolation)、Cu配線、W配線の4種類のCMPプロセス評価を行うことになっている。その内の1台は、2015年6月に搬入・立ち上げが完了し、7月現在、最初の評価項目である酸化膜CMPのプロセス評価中である。その後STIおよびCuプロセス評価を行う予定である。2台目の装置は2015年第4四半期(10-12月)に納入される予定になっており、現在は、まだ装置メーカーのクリーンルームに設置されており、Cuプロセスのデモに使われている。W配線CMP評価は、2台の装置ともに2016年第2四半期(3~5月)にG450Cの450mmクリーンルーム内で始めることになるという。

図2 G450Cの450mmクリーンルーム内製造・計測装置配置図。CMP装置は図の左上のイオン注入装置の隣に1台設置され(オレンジ色)、その隣に2015年内にもう1台設置される(青色)。緑色の装置は昨年設置立ち上げ済み、オレンジ色は1015年前半設置立ち上げ中、水色は2015年後半搬入予定、灰色は2016年搬入予定、黒色は将来に備えた空きスペース。(出所G450 以下すべて)

2台の450mm CMP装置(装置番号「GTC01」および「GTC02」)それぞれについて酸化膜CMPおよびCu CMPプロセスにおける被膜除去レートおよびウェハ面内付不均一性(With-In Wafer Non-Uniformity:WIWNU)のデータを図3、図4示す。いずれもそれぞれのサプライヤ(装置メーカー)のクリーンルーム内で取得された初期データであり、G450Cのクリーンルームに納入前のデータである。納入後、G450Cとして独自に同じ評価を実施することになっている。酸化膜CMPのWIWNUは、4%(3σの値、外周除外領域は2mm)前後、Cu配線CMPのWIWNUは6%前後の値が得られている。「初期データとしては、素晴らしい結果で、450mm CMP装置に本質的な問題はないと判断している」(Borst氏)としている。

図3 450mm CMP装置(1号機)のサプライヤ―・サイトでのプロセス性能評価結果。酸化膜CMP (左)とCu CMP(右)の被膜除去率とウェハ面内不均一性(WIWNU)。EE(=Edge Exclusion) はシリコンウェハの外周除外領域

図4 450mm CMP装置(2号機)のサプライヤ・サイトでのプロセス性能評価結果

世界初のCu/low-kダマシン構造パターン形成ウェハを作製

図5に示すCu/low-kダマシンCMPプロセスを用いて、450mmウェハ上にBEOL配線構造(第1Cu配線層)を形成し、SEMICON WEST 2015の会場で、「世界初の450mm BEOL Cuダマシン構造パターン形成ウェハ」を展示した。

ここで用いたBEOLプロセスは、次のような構成になっている(図5参照)。

図5 試作に用いたCu/low-kダマシン・プロセスの模式図(上)とSEM写真(下)

  1. ILD積層およびパターニング:シリコン基板上にlow-k層間絶縁膜(Inter-Layer Dielectlic film:ILD)を積層堆積し、その上にハードマスクの役割を果たすTiN膜、 OPL(Organic Planarization Layer:有機平たん化膜)、SiARC(Silicon-containing Anti-Reflective Coating:シリコン含有反射防止膜)を順に堆積し、さらにその上にフォトレジスト膜をスピンコートする。
  2. MHMオープン:フォトレジストをパターニングして、それをマスクにしてTiN膜をエッチングしてパターン形成し、メタル・ハードマスク(MHM)を作製する。
  3. トレンチ・エッチング:パターン形成したMHMを用いてILD膜をエッチングしてトレンチを形成する。
  4. リニアおよびCu電気めっき:トレンチ内壁に薄いリニア膜を堆積してから、電気めっきでトレンチにCuを埋め込む。
  5. CMP:余剰のCuをCMP(化学機械研磨)で研磨して除去し、ウェハ表面を平たん化してCu/low-kダマシン構造を完成させる。

完成した450mm BEOLウェハを7月のSEMICON WESTで展示するため、大慌てで間に合わせたと見えて、図5中の一部の断面TEM(透過型電子顕微鏡)写真が間に合っておらず、空欄のままになっている。CMPはサプライヤ・サイトに設置されているGCT01装置を用い, パターニングはニコン熊谷製作所の液浸ArF露光装置でおこなった。AlbanyのG450Cクリーンルームに設置された450mmプロセス装置とサプライヤ・サイトに設置された装置間を行き来しつつ、完成させたという。

最近、450mmウェハの周辺除外領域(品質を保証しない領域)は、従来の2mm(外周から内側に向かって2mmのドーナツ状の領域)から1.5mmに変更され、ウェハ表面の有効面積を拡大することがSEMIスタンダードとして採用させることになった(450mm記事参照)。このため、CMPのウェハ面内均一性もこの範囲で保証しなければならなくなったので、今後のG450Cでのプロセス評価は、この点を考慮して行われることになっている。

図6 世界初の450mm Cu CMP処理されたBEOLパターン付きウェハ(右)とその拡大写真(左)