マーケティング・プロセスを縦軸とすると、横軸になるのがマーケティング・アナリティクスである。本稿では、マーケティング・アナリティクスがビジネス・プロセスであることを明らかにしたうえで、マーケティング部門が「なぜ、マーケティング・アナリティクスに取り組むべきか」について説明する。

企業ITにおけるアナリティクスとは何か?

企業ITの分野でアナリティクスという言葉が使われ始めたのは、「ビジネス・インテリジェンス(以下、BI)」の発展形として「ビジネス・アナリティクス(以下、BA)」が登場したことに端を発する。BAは経営層や現場のマネージャーの意思決定を支援するためのものであり、BAと企業の競争優位は正の相関関係にあると言われている。これは、BAが継続的に繰り返し実施するビジネスプロセスであることと関係がある。

競争力の高い企業は、データや情報を分析し、そこから得られた知見に基づき、組織として取るべき具体的な行動を明確に定め、行動計画を実行に移し、実行の過程で結果得られた知見をさらに分析に生かすというライフサイクルのプロセスをうまく運用できている。

では、BAと伝統的なBIを活用した分析は何が異なるのか? BIが経営層に向けて経営指標の値を可視化と監視のためのレポーティング環境を提供するのに対し、BAはビジネスユーザー向けに意思決定とその後の行動に必要となるビジネスインサイト(洞察)を得るための環境を提供する。BIは、計画という長いビジネスプロセスにおける一部のフェーズにおいて有用な情報を提供するが、BAは企業活動におけるデータや情報の分析と活用のビジネスプロセスである点が異なる。

マーケティング・アナリティクスは何のために行うのか?

BAを必要とする場面は多岐にわたっており、マーケティング・アナリティクスはBAの適用範囲をマーケティング部門の業務に対象を絞ったビジネスプロセスである。BAの例にならうならば、マーケティング・アナリティクスとは、カスタマー・インサイト(洞察)を得て、製品やサービスのブランド価値を高めるための行動計画を策定し、モニタリングしながら実行することである。

マーケティング・アナリティクスを組織に定着させることで、企業は優れた意思決定能力に基づいて蓄積されたブランド価値を武器に、その競争優位を高めることができる。

では、競争優位の源泉となるカスタマー・インサイトはどのようなものなのだろうか。カスタマー・インサイトには明確な定義がなく、一般には「顧客の行動や態度の背景にある本音を理解すること」と認識されている。しかし、マーケティング担当者がいくら顧客の本音を理解したとしても、何らかの働きかけを講じて顧客の行動や態度に変化を促すことができなければ、得られた本音には意味がない。また、分析対象とする行動データも購買という結果のみに着目するのは不十分であり、顧客とブランドとのエンゲージメント・プロセスにおいて、マーケティング担当者が提示するオファーと関連する行動データを活用したいところであろう。

つまり、マーケティング・アナリティクスにおけるカスタマー・インサイトの活用は、単なる本音の理解にとどまるのではなく、マーケティング担当者の意思決定に必要な顧客の行動や態度に関する「兆候」を検知し、適切なアクションに関連付ける顧客とブランドに関する知識集合と一連のプロセスを指すのである。

マーケティング・アナリティクスとWebアナリティクスの違いは?

デジタル・マーケティングの分野において、アナリティクスと言うと、Google AnalyticsのようなWebアナリティクスを真っ先に連想する傾向も見られる。マーケティング・アナリティクスとWebアナリティクスの相違については、インバウンド・マーケティング・ソフトウェアを提供する米HubSpotのCMO、Mike Volpe氏の説明がわかりやすい。

Webアナリティクスは、ページのロード時間、ページビュー、サイト滞在時間などのWeb管理者が気にかける指標を測定する。一方、マーケティングアナリティクスは、訪問・流入、見込み顧客(リード)、売上、(Webサイト内外を問わず)どのような行動が見込み顧客(リード)から顧客への転換に影響したかといったビジネス指標を測定するものである。マーケティングアナリティクスにはWebサイトのデータのみならず、電子メール、ソーシャルメディア、店舗での出来事など、他のデータソースのデータも含む。また通常、マーケティング・アナリティクスが潜在顧客、見込み顧客(リード)、顧客といった事業活動の焦点となる人間中心であるのに対して、Webアナリティクスは定期的なレポートでページビューを重視する。

つまり、Webアナリティクスはマーケティング・アナリティクスの一部であり、マーケティング部門にはWebだけではなくソーシャルメディアや店舗など、あらゆるチャネルから得られるデータを合わせ、包括的に活動成果を評価することが求められる。

IBMやSASといった強力なBA製品を有する企業が、デジタル・マーケティング関連ソリューションにおいてアナリティクスを重視したプロセス効率化を狙うのは、ビジネスへの貢献度を定量的に測定し、適切な施策を展開するための包括的なマーケティングプラットフォームが求められていることの裏返しであると筆者は見ている。