開発に参加できるWindows Insider Program

MicrosoftはWindows 10リリースに至るまで、「Windows Insider Program」(以下、WIP)を実施してきた。プレビュービルドで発生した問題や機能に対する意見を収集し、Windows 10の開発に大きく役立てているのは、同プログラム参加者やプレビュービルドの変化を見てきた方なら理解できるだろう。

WIPの目的を語るうえで欠かせないのが「Windows as a Service」というキーワードだ。Windows 8.x以前のように数年に一回進化するプロセスを改め、Windows 10は常に更新・進化するOSとなることを意味する。だが、必ずしも変化を求めるユーザーばかりではないため、MicrosoftはCB(Current Branch)やCBB(Current Branch for Business)といったアップデート提供モデルを生み出した。

アップデート提供モデルの一つ「CB」。年に2~3回のアップデートを予定しているが、その上に存在するのがWindows Insider Preview Branch(WIPB)だ

そこで重要になるのがCBよりも前に位置する「WIPB(Windows Insider Preview Branch)」である。Windows 10に新機能やセキュリティホールを塞ぐ更新プログラムを適用し、安定性やユーザー評価を得るためのモデルだ。

例えば、Linuxディストリビューションの一つ「Debian GNU/Linux」は、安定版(stable)以外にもテスト版(testing)、不安定版(unstable)と3つのリリースを用意している。テスト版は次期安定版に取り入れる予定のパッケージを含むもの。不安定版は大規模な変更やライブラリレベルのアップデートが行われる。Debian Projectは不安定版を「プログラム開発者や、多少の危険を厭わない方向け」と説明している。

Windows 10 Insider Previewは、Debian GNU/Linuxのテスト版に相当するものと言える。一方、Microsoft社員数万人がテスターとなるベータテストは、Debian GNU/Linuxの不安定版に該当する。ベータテストは米国本社以外にも、日本マイクロソフトを含む各国でも行わているという。

WIPBにプレビュービルドを配布する前にMicrosoft社内でもテストが行われる。そのため、不安定なビルドがいきなり降ってくるという評価は不適切だ

WIPBはCBやCBBの基礎となるため、WIPはWindows 10リリース後も続く。例えば、今後数カ月のうちに音声パーソナルアシスタント「Cortana(コルタナ)」の日本語版がいち早くWIPBで使用可能になる。このようにWIPでは常に最新のWindows 10を使用できるが、いいことばかりではないのも事実だ。

WIPのサイトにアクセスし、MicrosoftアカウントでサインインするとWIP再参加を感謝するメッセージが現れる

「Windows Blogs」に掲載された日本語版Cortanaのスクリーンショット。英語版のデモンストレーションを見る限り筆者は期待している

WIPBは必ずしも安定性を担保しないため、何らかのトラブルが発生した際は、自身で解決できる能力が必要となる。また、意図せぬトラブルやアプリケーションやデバイスとの互換性問題が発生しないとも限らないため、常用PCへのインストールもお薦めできない。

だが、WIPに参加するメリットとデメリットは表裏一体だ。誤解を恐れずに述べれば、Windowsに限らず、バグのないプログラムは世に存在せず、完全な堅牢性を得ることは基本的に難しい。見方を変えればWIPに参加することで、自身が"Windows 10の開発に参加できる"ことを最大のメリットと考えていいだろう。

Windows Insider Programに参加する

すでにWindows 10に移行したユーザーがWIPに参加するのは簡単だ。「設定」の「更新とセキュリティ\Windows Update」の<詳細オプション>を開き、「Insiderビルドの入手」の<開始する>ボタンをクリックするだけでよい。

<詳細オプション>を開いて、<開始する>ボタンをクリックする

このようなウィザードを進めていけば、WIPに参加できる

再起動後に<詳細オプション>を開くと、WIPBのリングを選択できる。ドロップダウンリストから「Fast」「Slow」のいずれかを選択すればよい

また、サブマシンにWIPBを新規インストールする場合は、「Windows 10のダウンロード」からMedia Creation Toolをダウンロードし、インストール用のUSBメモリーやISOファイルを作成する。OSの新規インストール手順などは拙著記事をご覧いただきたい。

なお、執筆時点ではWIPBは製品版と何ら変わりはないが、WIPの説明によれば2015年9月15日より次のビルドへアップグレードする通知が送られるという。つまり同日からWIPBが始まり、新機能が試せるという具合だ。

ちなみにMicrosoftはその間遊んでいる訳ではない。関係者によればWindows 10はもちろんWindows 10 Mobileの開発を続けている。日本でもフィードバックの整理やMS-IMEに加わった「クラウド候補」のチューニングを行っているそうだ。

WIPへの参加をためらうユーザーが気になるのはプライバシー情報の保護についてだろう。この点に関してMicrosoftは収集情報を明確にしており、こちらのページで内容を確認できる。かいつまんで紹介すると、接続したデバイスやインストールしたアプリケーション、ファイルを開く際に使用したアプリケーションや所要時間などを収集するという(後編へ続く)。

阿久津良和(Cactus)