企業の代表や芸能人が謝罪会見をする様子がテレビなどで報道されることがあるが、こういう会見を見ていると「こんなひどい謝罪ならいっそのことしないほうがいいんじゃないかな……」という印象をよく受ける。もちろん中には「誠意が伝わるいい謝罪」もあるのだろうけど、数としてはお粗末なもののほうが圧倒的に多い。

男の謝罪研究会『はじめての男の謝罪マニュアル』(男の謝罪研究会/秀和システム/2015年6月/1600円+税)

なぜこんなにも謝罪がヘタな人が多いのだろうか。理由は色々あるだろうけど、そのひとつには「そもそも謝罪の仕方なんて教わったことがない」というのが挙げられるかもしれない。謝罪の仕方はもちろん学校では教わらないし、会社の新人研修でも教えられた記憶はあまりない(新人研修で重点的に教わるのはそもそも謝罪の前段階、つまり謝罪をしなくて済むような仕事をする方法だ)。それゆえ、謝罪のやり方はみんな経験を基礎に自己流で身に付けることになる。才能がある人は自己流でも誠意が伝わる謝罪の技術を身に付けることができるだろうけど、普通の人にそれは無理だ。経験と勘のみに頼って自己流で謝罪をすると、多くの場合それは「下手な謝罪」になってしまい、時には相手をさらに怒らせてしまったりもする。

謝罪もひとつのスキルなのだから、ある程度教科書的なマニュアルを読んで先人の失敗や成功から学んだほうが上手にできるようになるのは当然だ。今回紹介する『はじめての男の謝罪マニュアル』(男の謝罪研究会/秀和システム/2015年6月/1600円+税)は、その用途にまさにピッタリの一冊である。謝罪についての本は以前もこの書評で取り上げたことがあるが、本書の内容はよりスタンダードで癖のないものになっている。掲載されているシチュエーションの数も多く、いざ謝らなければならない状況に追い込まれた時にはきっと重宝することだろう。

まずは謝罪の理由とゴールを決める

「謝らなければならない」という状況に追い込まれると、頭を下げて謝罪するという行為だけに意識が行ってしまうことがある。「とにかく謝ってしまってこの状況を終わらせよう」と思いたくなる気持ちはとてもよくわかるが、そういう時こそ冷静に状況分析をしなければならない。行き当たりばったりな謝罪は最悪の場合事態を悪化させるおそれがある。謝罪には入念な準備が必要なのだ。

まず最初にすべきことは、謝罪の理由をよく考えることだ。「それで謝っているつもりか?」と相手に言われてしまうのは、多くの場合謝罪の理由が謝る側の中で十分詰め切られていないことに起因する。「とりあえず頭を下げておこう」という投げやりな態度は、そのまま相手に伝わってしまう。どんなに時間がない時でも、謝罪しなければならない事態を招いた「要因」と「今後の対応」についてはよく考えていく必要がある。

また、ゴールを設定することも大切である。今後の対応を協議する際に、「今回の謝罪でどこまで目指すか」で当日の行動は変化する。適切なゴール設定をした上で、事前によくシミュレーションをすることは謝罪を成功させるために欠かせない。「まあなんとかなるだろう」という考えは、多くの場合なんとかならないから考えるべきことは事前によく考えていかなければならない。

定石を頭に入れておけば慌てないで済む

もしかしたら、謝罪をする際に本書のような「マニュアル」に頼るのは誠意がないと感じる人がいるかもしれないが、それは間違いである。本書はたしかに謝罪のマニュアルであり、シチュエーション別に様々な対処法が書かれているが、これらはあくまで一般論にすぎない。謝罪の理由や再発防止策については、目の前にある具体的な事案を元に自分自身で考えなければいけないことに変わりはない。

そもそも謝罪はその性質上、特に頭を使わなくてもマニュアルに則って行動すればそれで済むというものではない。それでも本書が有効なのは、定石を頭に入れておくことで本番で慌ててしまうリスクを最小限にできる点にある。マニュアルで済むものはマニュアルで済ませ、本当に頭を使わなければならない部分に脳のリソースをうまく集中させることができれば、きっと相手に誠意を伝えることができるだろう。そのためにぜひ本書をうまく活用してほしい。

謝罪が必要なのはビジネスシーンだけではない

ところで、あたりまえだが謝罪が必要になるのはビジネスシーンだけではない。友人や家族、あるいは見知らぬ誰かに謝ることが求められることは実際少なくない。本書が面白いのは、こういったビジネスシーン以外での謝罪についてもある程度の文量を割いているところだ。近所づきあいにおける謝罪や飲食店の店員への謝罪、ネット上での謝罪など、これだけ謝罪シチュエーションを集めればそう遠くない未来に必ずどこかで使いどころが出てくるだろう。そんな時にスマートに謝ることができるよう、ぜひ一度本書に目を通してみてほしい。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。