仏CEA-Leti(Commissariat a l'energie atomique et aux energie Alternatives-Laboratoire d'electronique des technologies de l'informatio:原子力および代替エネルギー庁付属電子情報技術研究所)とオーストリアの半導体装置メーカーであるEV Group(EVG)は、共同で「INSPIRE」と呼ばれるナノインプリント・リソグラフィ(Nano-Imprint Lithography:NIL)の新たなプログラムを開始したと発表した。

これにより半導体分野でナノパターニング技術の優位性を実証するとともに、半導体以外のアプリケーションにも普及拡大を狙う。LetiとEVGは一緒になってNILを用いたプロセス開発を行い、フォトニクス(図1)、プラズモニクス(金属などにおける電荷の集団運動であるプラズモンと光を組み合わせて利用する、いわばエレクトロニクスとフォトニクスを結びつけた新技術分野)、照明、太陽光発電、ウェハレベル・オプティクス、バイオテクノロジーなどへ用途を拡大し、NIL技術を用いると従来の露光技術を用いるよりも低コストでパターニングできることを実証する。

図2 ナノインプリント・リソグラフィでパターン形成した回折光学素子 (出所:EVG Webサイト)

LetiとEVGは、NILを新たなアプリケーションへの適用を考えている産業パートナーに対してフィ―ジビリティスタディ(実現可能性検討)段階から、EVGプラットフォームでの最初の試作段階、さらには自社内での量産に至るまで、共同できめ細かくサポートする。このようにして新製品製造におけるNIL採用の参入障壁を低くすることを意図している。

EVGは先頃、量産対応のナノインプリント・リソグラフィ装置「HERCULES」(図2)を発表した。また、INSPIREプログラムの活動は、2014年12月にEVGが社内に設置したNIL開発センタ-の活動を補完する役割を担っている。

図2 EVGの量産対応ナノインプリント・リソグラフィ装置「HERCULES」(出所:EVG Webサイト)

EVGの技術開発およびIP担当ディレクターであるMarkus Wimplinger氏は、"EVGは10年以上にわたりNIL技術を地道に研究開発を行って、成熟段階へと引き上げることができた。いくつかの応用分野では、従来露光技術を用いるよりはるかにコスト面で優位である。今回Letiと協業出来ることはNILの普及拡大を促進する上で大変価値がある」と語っている。

一方、Letiのシリコン技術部門のパターン形成プログラム担当マネージャのLaurent Pain氏は、「LetiとEVGは、いままでも新技術を顧客が満足するようなコストで実用化する検討を長年にわたって一緒にやってきた。顧客がこの柔軟性ある強力なナノパターニング技術を使って幅広い応用分野で新製品を生み出しやすくするための新たな仕組みをINSPIREプログラムを通して創出するつもりだ」と語っている。

ナノインプリント・リソグラフィの特長

なお、ナノインプリントとは、樹脂をモールド(原版)と基板で挟み込み、原版を基板に押し当てることでナノメートルオーダーのパターンを転写する微細加工技術のことである。 ナノインプリント工程は、塗布→プレス→転写→離型の4つのステップで構成され、いわば版画のような単純なプロセスでナノサイズのパターン形成が行える。

ナノインプリント・リソグラフィは、紫外線硬化樹脂をシリコン基板に滴下し、透明の型を押し当てて、紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂を硬化させた後、型をはがすことで微細パターンを形成する。

装置が簡易で、低コスト、高スループットで微細パターン形成を行えることで注目されている。従来の光リソグラフィを用いた縮小転写ではなく、型を用いた等倍転写であるため、小さなゴミの影響を受けやすい欠点がある。版画と同様に、複数の型を用いる場合には、型がずれないように微調整する機構が必要である。

日本では、キヤノンが、米Molecular Imprintsを買収して半導体微細パターン形成へ適用する量産機を開発中であり、東芝やその研究パートナーである韓国SKHynixが3次元NANDフラッシュメモリへの適用に興味を示している。