デジタルサイネージとは、ディスプレイやプロジェクタなどに情報を表示する媒体のことだ。街頭ビジョンや交通広告のみならず、駅構内や大型商業施設、スーパーやコンビニエンスストアの店頭・店内の電子POPなど、活用されているところをよく目にする。

デジタルサイネージの普及が進んでいる理由は何だろう。「設置場所や時間にあわせてコンテンツが自在に変えられること」や「音楽・動画などを利用した豊かな表現が可能なこと」「デジタルサイネージシステム自体がコストダウンしたこと」「手軽に配信用のコンテンツを作成・管理できる環境が構築されつつあること」などが考えられる。

オリンピックイヤーに向け、デジタルサイネージの普及が進む

さらに、デジタルサイネージ普及の追い風になっているのが、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックの存在ではないか。

デジタルサイネージは、当然のことながら、広告媒体としてのみならず災害対策や訪日外国人向けの情報伝達手段としても期待されている。たとえば交通機関の乗り換え案内を表示するなど、官民一体となって普及を加速させることも可能だ。デジタルサイネージ市場の調査報告を見ても、オリンピックイヤーに向け、市場規模を拡大していくと予想する結果が多く見受けられる。

しかし、デジタルサイネージ市場がさらなる成長を遂げるためには課題もある。

デジタルサイネージへの広告配信に特化したマイクロアドデジタルサイネージ 代表取締役 CEO 穴原誠一郎氏は、「デジタルサイネージを利用する広告主は、潤沢な広告費を持つ大手企業ばかり。中堅・中小規模企業の広告主はあまりいません。そのため、広告主の数はインターネット広告と比べて10%にも満たない。これでは市場の裾野を広げることはできません」と話す。

マイクロアドデジタルサイネージ 代表取締役 CEO 穴原誠一郎氏

理由は明確だ。大手企業は、既に広告素材を持っていて、そのデータを適切に管理してきた。そのため、デジタルサイネージの利用に関しても大きな障壁はなく、新しい広告媒体としてすぐに利用することができる。一方、中堅・中小規模企業は、そういったコンテンツを持っておらず、配信ノウハウも持ち合わせていない。こういったことが、デジタルサイネージを利用する障壁となっているのだ。

実はこの状況は、一昔前のインターネット広告(ディスプレイ広告)と酷似している。当時も、中堅・中小規模企業の参入には障壁があり、当初は大手企業だけが広告主となっていた。しかし、参入障壁を1つ1つ丁寧に取り除くことにより、中堅・中小規模企業もインターネット広告を始めるようになった。

デジタルサイネージに関しても同様に、参入障壁を丁寧に取り除いていけば、多くの中堅・中小規模企業が利用できるようになるはず。そうなれば、市場の裾野は大きく広がるだろう。

「アドネットワーク」の仕組みをデジタルサイネージに適用

その取り組みの先陣を切ったのが、マイクロアドデジタルサイネージ。インターネット広告でよく見る「インプレッションごとの課金モデル」を適用することで、デジタルサイネージに「アドネットワーク」の仕組みを持ち込んだ。

同社は、ロケーションオーナーが持つデジタルサイネージと広告主をつなぐため、デジタルサイネージアドネットワーク「MONOLITHS (モノリス)」を提供する。同サービスにより、街頭ビジョンや各種施設内のディスプレイ、電子POPといったデジタルサイネージのネットワーク化に成功し、単一のインタフェースによるコンテンツの一元管理と、さまざまなデジタルサイネージへの広告配信を実現した。

マイクロアドデジタルサイネージのビジネスモデル イメージ (提供 : 同社公式Webサイトより)

これにより、広告主は、コンテンツを表示する日時やエリア、ロケーションの指定はもちろんのこと、紫外線指数情報や熱中症指数情報などの各種指数と広告表示を連動すれば、これまで以上に適切なタイミングでターゲットユーザーへリーチすることが可能に。同ネットワークに属するデジタルサイネージを使えば、固定されたスペースに留まらず、広い商圏の中に広告をちりばめて、広告効果を高めることもできるようになった。

近い将来、効果測定なども可能に

さて、広告を利用する際に欠かせないのが、費用対効果の算出だ。インターネット広告では既にその手法は確立されているが、デジタルサイネージはどのような状況なのだろうか。

穴原氏は、「デジタルサイネージはその仕組み上、複数人に広告を表示します。その中で費用対効果の計測や広告効果を高めるためには、モバイル端末との連携が必要。現状では、その可能性を探っているところです」と説明する。つまり、モバイル端末と連携することでターゲットを絞り込むことができ、インターネット広告のノウハウも適用できるようになるというわけだ。

マイクロアドデジタルサイネージでは、デジタルサイネージとモバイルとの連携を見据え、iBeaconなど新しい技術をつかった実証実験なども進めている。「技術的なパーツはそろいつつある」と穴原氏は証言する。これらの技術革新が進めば、デジタルサイネージを利用する企業はますます増えるだろう。

最後に、穴原氏にデジタルサイネージの未来について聞いてみた。すると、「ニュースや映像などのコンテンツについても、デジタルサイネージに配信できる仕組みができあがりつつある」という。つまり、広告だけでなく、多くのコンテンツを放映するメディアになるというのだ。まるで、昭和の時代に多くの人が熱狂した街頭テレビのようだ。そこには、若干のノスタルジーと、新しいビジネスの可能性がある。デジタルサイネージがテレビやインターネットに変わる新しいメディアになる日も近いのかもしれない。