久々に「音楽が軸足」のiPod touchに

「Apple Music」の登場により、iPod touchの存在感が増す

が、今年は違う。アップルはストリーミング・ミュージック・サービスである「Apple Music」を軸に、音楽ビジネスの再構築を行う。過去のiPodは「オフラインで音楽を聞くもの」だが、Apple Musicを軸にするなら「オンラインで常に使い続けることもできる機器」、すなわちスマートフォン的なものが必要になる。iPod touchは「ストリーミング時代の音楽プレイヤー」としての存在になるというわけだ。

現在、多くの人が音楽をスマートフォンで聴いている。以前に比べれば専用機の必要性が低下しているのは間違いない。一方、スマートフォンは電話・ネットに関するライフラインとしての価値が高く、音楽などのエンターテインメント要素は切り分けたい、というニーズもある。

iPod touchであれば、そのニーズに対応するにはぴったりだ。アップルは2014年に「低価格スマートフォン路線」からは一歩退く判断をしている。低価格iPhoneとiPod touchの共食いを気にする必要もなくなった。

ならば、より音楽市場に向けたチューニングでiPod touchを出そう、という発想も頷ける。大量の音楽を貯めこむ人のために128GBモデルが用意され、コスト的に厳しい割にニーズが薄いストラップは削除された。アップルは例年、音楽系製品のリニューアルを秋に行っていたのだが、今回はApple Musicとの関係を強調する必要もあり、夏の発表になっている。

現在、音楽シーンではストリーミングやアプリベースでの配信に軸足が移りつつあり、単品の音楽プレイヤーでは立ちいかなくなりつつある。ハイレゾに対応するにしても、アプリなどがあればより簡単になる。そういう存在の受け口としても、iPod touchは重要だ。

Androidにおいても、同じようなものがあればそれなりに市場はできると思う。だが、スマートフォンそのものが低価格化していること、音楽などの「サービス連携」を考慮できる企業が限られていることなどから、AndroidでiPod touchのような存在を作るところは稀だ。国内で目立つのはソニーのウォークマンくらいだろうか。

アップルとしては、音楽プレイヤー市場をテコに、AndroidユーザーにもiOS機器を買ってもらいたい、と思っているようだ。そういう存在として、iPod touchはかなり戦略的な意味合いのある製品、と言えそうだ。

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