KDDIは7月14日、インキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」の第8期デモデイを開催した。

第8期では、第7期よりパートナープログラムとして、大手企業がメンターやパートナーとなって参加チームの支援を行ってきたが、今回新たにクレディセゾンと日立製作所を加え、全15社でスタートアップの支援を行った。

また、第8期とは直接関係性はないものの、地方のスタートアップ支援団体との連携を図っており、大阪市が運営する大阪イノベーションハブがその第一弾として参画した。5月にハブで行われたピッチイベントで審査委員に選ばれたチームがでもデイに参加しており、都心だけではない地方も巻き込んだスタートアップイベントとなった。

シンデレラシューズが頂点に

デモデイで発表を行ったサービスは以下の5組。

サービス名 メンター企業 サービスコンセプト
シンデレラシューズ 三井不動産 靴擦れしない"私だけの運命の一足"をECで
LYNCUE(リンキュー) 日立製作所 日常生活に自然と入り込むコミュニケーションデバイス
Oshareca(オシャレカ) クレディセゾン 美容師と顧客をつなぐサロン専用コミュニケーションプラットフォーム
Bee Sensing 凸版印刷 養蜂業にIoTを導入する"新時代農業"を目指す
PU(旧PICK UP!) テレビ朝日 DIYハウツー動画

詳しい各チームの詳しい内容については参加チーム発表時の記事を参照いただきたい。当日の会場で選ばれるオーディエンス賞には「シンデレラシューズ」が輝いた。プレゼンテーションもさることながら、代表者の女性が語る「合わない靴から女性を解放したい」という思いと、ECサイト運営のビジネスモデルの内容が見事にマッチしていた。実は、オーディエンス賞だけでなく、最優秀賞も受賞しており、「独自性」「市場性」「完成度」の3点が選定理由になったのだという。

ほかにもIoTデバイスやスマートアグリなど、今"バズワード"となっている要素が散りばめられた第8期だったが、個人的には「Bee Sensing」にスポットを当てたい。Bee Sensingは、その名の通りに蜂をセンスする(読み取る)スマートアグリの一種(正確にはアグリ=農業ではないが)で、広島県で実際に養蜂業を営むチームが開発した。

養蜂業の国内市場は180億円規模だが、大部分は国外からの輸入の売り上げとなっており、国内業者は安価な輸入品に太刀打ちしづらい部分があるのだという。理由は蜂の管理の手間で、「重労働かつ繊細」な作業が必要な点とのこと。養蜂家が1カ所で管理できる量は、3万匹が棲んでいる箱が22箱。3万匹という数字と22箱という数字のアンバランスさがその事実を物語っているといえるだろう。

デモデイにあわせ、巣箱を持参したBee Sensing

国内産の養蜂は品質が良く、かつ新鮮なものが多いようだが、その一方で労働コスト、生産コストという"重荷"も存在する。そこで、箱の状態チェックをセンサー機器に任せることで、労働力不足の代わりにしようというわけだ。ここを置き換えることができれば、より多くの箱を管理できるようになり、また、生産コストの低減にも繋がる。こうした一次産業のICT化は、日本の生産性向上にもっと寄与できる、その一例を見たように感じた。

地方創生はスタートアップから?

Bee Sensingは、もうひとつのキーワードが存在する。それは「広島県」だ。実は∞ Labo、この8期より地方連携という取り組みを行っており、次期の9期にはまさに広島県も連携の取り組みに参加する。

デモデイでは、先駆けて連携している大阪のイノベーションハブの選抜チームが、8期生と同じようにプレゼンテーションを行っており、勝るとも劣らない完成度の高さを見せつけた。詳しい内容は以前の記事に譲るが、Cofameなどは、シリコンバレーでも活動するなど、もはや日本から飛び出しているスタートアップの"優等生"とも言える存在だ。

ただし、その記事でも触れているように、∞ Labo長を務めるKDDIの江幡氏は、地方連携の主眼を"地方の課題解決"に据え置いている。もちろん、世界に飛び出すスタートアップが悪いわけではないが、そうした"身近な課題解決"こそ、いわゆる"地方創生"のヒントに繋がるというわけだ。

新たに石巻市と広島県、福岡県と連携する9期の取り組みでは、より"地域密着型"なスタートアップ企業と、∞ Laboに参加する既存の大企業との結びつき、ビジネスマッチングを進めていくようだ。

Googleが新たに参加へ

9期については、パートナー連合の一員に、新たに「グーグル」と「住友不動産」「三菱UFJニコス」の3社が参加する。住友不動産と三菱UFJニコスについては、同業他社がすでにパートナー連合へ参加しているが、業種が重なりつつも参加する点は、スタートアップベンチャーとの"出会い"を求めていきたいという姿勢がうかがえる。金融とICTの組み合わせの「Fintech」という言葉が広がりつつあるが、三菱UFJニコスの参加については、特にそこを狙ったものではなく、あくまで「同社が持つアセットを提供する」とのことだった。

一方で今回目を引いたのが「グーグル」だ。もはや説明不要の存在であるグーグルだが、9期より参加する同社はグーグル側から∞ Laboに参加したいとの意向があったようだ。2011年よりベンチャー支援プログラムとして始まった∞ Laboだが、その存在があまり目新しいものとはなくなりつつある。その一方で、定期的な発表の場が設けられている点、継続してKDDIがコミットするという存在は安定感が出てきたのも事実だろう。

そこにグーグルという存在が入ってくることで、新たに世界への道が見えてくるかもしれない。まだグーグルがどのようなアセットを提供するのか、グローバルへの道が開けるのかについて詳細は不明だが、初の「世界的なOTTの参加」(KDDI バリュー事業本部 新規ビジネス推進本部長 雨宮 俊武氏)が新風を吹き込むことに違いはないだろう。

また、9期よりIoTに関連した「ハードウェアプログラム」も新設する。8期の経験を活かした新たなプログラムで、これまで3カ月にとどまっていたプログラムを6カ月に延長する。理由は、8期でIoTデバイスのメンターを行ったパートナー連合の日立製作所から「ハードウェアを立ち上げるには期間が短すぎる」と"お叱り"を受けた反省を活かしてのもののようだ