イラストレーター・おはぎ氏

「私にとって描くことは、絵を見てくれる人とのコミュニケーションでもあるんです」

1993年生まれの若手イラストレーター、おはぎ氏。インタビュー会場に現れたのは、カンカン帽に紺のワンピース、ショートカットが似合うまさに「かわいい」という言葉がぴったりの女性だった。

10代の頃からWebでの活動を始め、「絵師」としてpixivやニコニコ動画で作品を発表。最近では小林幸子さんのCD「吉原ラメント」のイラストなどを手がけているほか、作曲家・ORYO氏とのユニット「FAULHEIT」ではイラスト、グラフィックデザイン、動画制作を担当している。

今回は、おはぎ氏がこれまでに生み出してきた「かわいい」イラストの数々やその制作手法、それを支えるツールとの関係性について、お話を伺った。

――最初に、絵を描き始めたきっかけを教えてください。

小さいころは、絵を描くということに特別な執着があったわけではなかったんですが、小学校4年生のころ、友達の中にお母さんがイラストレーターとして働いている子がいたんです。その友達のお家に遊びに行ったときに、お母さんがペンタブレットで絵を描いているのを見たのがきっかけになりました。

その時見た光景が衝撃的で、両親にねだってペンタブレットを買ってもらいました。確か、当時のワコムのエントリー機で、「FAVO」というペンタブレットでした。本気で絵を描き始めたのは、そこからですね。お絵かき掲示板に作品を投稿すると、見た人からのコメントが付くのが嬉しくて、本格的にインターネットで絵を公開し始めました。

おはぎ氏の作品

それから中学生になって、自分でホームページを作って、作品を公開するようになりました。同時に、Pixivやニコニコ動画にも投稿するようになって。いろんな人に自分の絵を見てもらって、コメントをもらうことは、もうコミュニケーションのひとつでしたね。「ここがこの絵の見どころ」と自分が思っているところに反応があると、すごく嬉しい。気がついたらネットを通じてお仕事の依頼もいただけるようになりました。

おはぎ氏がデザインした、DRAGON SKY(ドラゴンスカイ)オリジナルキャラの神楽 (c)2014,2015 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Developed by Poppin Games Japan Co., Ltd.

――最近手がけた仕事は?

スマートフォン用アプリ『DRAGON SKY(ドラゴンスカイ)(スクウェア・エニックス)のキャラクターデザインをさせていただいています。大枠の設定をいただいて、その中で自由にキャラクターを作り上げていきました。

なかでも、ニコニコ動画とのコラボキャンペーンで「おはぎオリジナルデザインの限定キャラ」を作らせていただいたのは貴重な経験でした。この企画のキャラクターは「好きなように描いていい」と言っていただいたのですが、そのキャラクターが前面にでる広告バナーを作ることになりました。この作品のほかにも、いろんなソーシャルゲームのバナーが並ぶ予定だったため、目に付く方がいいなと思ったので、強そうで派手で、かわいいラスボスっぽいキャラを意識して作りました。

――今回、ワコムのキャンペーン用に描き下ろされた少女のイラストについて、解説していただけますか?

リボン、宝石、花、そして大きな瞳がポイントです。自分の好きなものをぎゅーっと詰め込んだ作品にしようと思って描きました。

――描くのにかかった時間はどれくらいですか?

1枚の絵を描き上げるのに、8~10時間くらいかかりますね。といっても、一気に描くのではなく、ラフを描いたら一晩寝かせたり、完成に近づいてからも一度時間を置いたりします。

描いた瞬間は、テンションが上がってしまっていて客観的に見られなかったりするんですよね。時間を置いて見直すことで、ここちょっと違うな、とかバランスに違和感がある部分に気付けたりするので細切れに進めていくことが多いです。

ワコムの「Create more」キャンペーンのために描きおろされたイラスト

――かわいらしいイラストを多く生み出されているおはぎさんにとって、「かわいい」とは何ですか?

そうですね、自分が「かわいい」と思った人や物、表情から作画へのインスピレーションを感じることが多いです。

作品の中の女の子のようなフリフリした格好は、好きですけれど、自分には似合わないので、実際着ることはないです(笑)。なので、これはすっごくかわいいな、こんな服を着てみたいなだとか、そんな憧れを絵として表現することが、わたしの「かわいい」の楽しみ方のような気がしています。

――具体的に「かわいい」と感じるモノゴトについて、どんなものがありますか?

今回描き下ろさせていただいたイラストにも含まれている、花とか宝石とかリボンとか、そういったキラキラした「かわいい」ものが、子どもの頃から大好きで、新聞の宝石の広告なんかを切り抜いて集めて持っていたりもしました。

また、アイドルが大好きで、コンサートにもよく行きます。アイドルの写真をただじっと見ているだけでも楽しくて(笑)。ああ、まつ毛が長いな、とか、目力がすごくてかわいいな、とか。

大好きなアイドルグループ ℃-ute・矢島舞美さんをイメージして描いたイラスト

――ペンタブレットとの関わりについて、詳しくお聞きしていきたいです。現在、どの機種をお使いですか?

今はIntuos Proを使っています。それまでは、Intuos 4のsmallサイズを、表面がツルツルになるまで使い込んでいました。長らくひとつの機種を使い続けてきたせいか、今のIntuos Proに新調したときは、描き心地がとても紙と近い感じがして感動しました。

――ファンクションキーにはどんなコマンドを割り当てていますか?

特別凝った使いかたをしているわけではありませんが、透明色の切り替え、そしてundo(元に戻す)とredo(やり直し)を設定して頻繁に使っています。髪の毛を描く際は一筆でさっと引くのですが、気に入った線が描けるまで何度もやり直して作画するのでundoは必須ですね。

あと、ワイヤレスで使えるのはやはり便利ですね。いつもの姿勢に疲れたら、膝に乗せて使ったりもできるので、自由度も高いです。そうした使い方をすると、必然的にキーボードが遠くなるので、手元のファンクションキーが使いやすいのも気に入っています。

作画中の画面

作画中のおはぎ氏

――ペンの替え芯にも種類がいろいろありますが、主に何を使っていますか?

替え芯は、もともとついている標準芯と、ハードフェルト芯を使い分けています。筆圧は比較的強いほうですね。新作を描き始めるときは、ハードフェルト芯の新品をおろして使ったりしています。気分を上げたいときにはオススメです!

――最後に、イラストレーターを目指す人に向けたアドバイスをひとことお願いします。

まず、イラストレーターという仕事は、私にとって「これ以外、自分には考えられない」と思えるものです。

単に絵がうまくなりたいのであれば、ひたすら練習をすればいいと思うんですが、もし、イラストレーターになって仕事をしたいのであれば、自分自身をプロデュースするということも忘れないでほしいと思います。

例えば、自分の絵の方向性とか、世の中の流行など、自分が何を描くべきかをはっきりさせていくことが、すごく大切だなと感じます。やみくもに描いていても「これでいいのかな」ってモヤモヤしてきちゃったり、壁にぶつかったりすることが多いと思うんですが、根底にある「自身のプロデュース」をしっかり見極め、進めていってほしいです。

そう語るおはぎ氏も「自分が本当に描きたいものは何なのか」に悩んでいた時期があり、そこでひたすら自分の好きな「かわいい」ものを追求し、好きな構図で楽しく描くことにしたという。

「自分が楽しく描ける絵だからこそ見る人を惹きつけ、そこにコミュニケーションが生まれると思うんです」と、はにかみながら語ってくれたのが印象的だった。

ワコムキャンペーンサイト「Create more」では、メールアドレスの登録でおはぎ氏の「かわいい」をちりばめたイラストテクニックを体感できるコンテンツ、eBookがダウンロードできる。レイヤー構造を一覧できるPSDファイルを入手できるほか、限りなく実践に近いテクニックも公開しているので、イラストを描いている、あるいはこれから描きたいと思う人は、ぜひ参考にしてほしい。

なお、8月1日には、おはぎ氏自身が登壇し、見る人の心を引き寄せるイラストを制作する工程や、作品づくりに役立つテクニックを公開するセミナーも実施。直接クリエイティブに関する質問を投げかけることもできるそうなので、こちらもチェックしてみてほしい。