現在、アップルがワールドワイドで展開しているiPhone 6の広告キャンペーン"iPhone 6で撮影"。Webサイトでは、iPhone 6のカメラで撮影された動画を紹介する「ワールドギャラリーのビデオ作品」が公開されている。マイナビニュースでは、その企画で紹介された映像作家・岩元康訓さんにお話を伺うことができた。

岩元康訓(いわもと やすのり)1982年7月25日生まれ。海に囲まれた街で育つ。カメラ好きの父の影響で写真や映像に興味を持ち、幼少期から朝日が昇る様子を微速度撮影するのを楽しみとしていた。2000年、活動拠点を東京に移し映画監督に師事。助監督として活動。2004年、映像監督、映像カメラマンとして活動を開始。主にネイチャー映像やライブ映像、音楽イベント映像などの様々な映像作品に監督として参加。2012年以降、東京・新木場の「ageHa」専属映像監督として契約。数多くのトップミュージシャンの来日公演映像を制作している。2014年、水中カメラマンの石川肇と自然映像プロジェクト「LAST FRONTIER」を始動。水中や野生動物、朝日、夕焼け、星空等の太古の昔から変わらない地球の美しさを追求する映像やTV番組制作に携わっている

ーー採用された作品についての背景を訊いてみた。海が見えるタイムラスプス映像が採用されているのだが、撮影はどこで行われたのだろう?

岩元 パプアニューギニアのソロモン海が見えるトゥフィという地域の岬から撮りました。朝日の撮影は一人で行いました。この時はiPhoneだけで作品を作ろうとパプアニューギニアに来ていて、その撮影のクルーも僕と水中カメラマンの石川肇さんの二人だけです。ぜひその作品も見ていただきたく思います。陸上は私、水中は石川さんが中心での撮影になってます。

ワールドギャラリーのビデオ作品」で紹介されている岩元さんの作品。ソロモン海に臨む岬からの撮影。朝日の美しさと雲の動きに魅了される一本だ

ーー場所はもう撮り慣れたところなのだろうか。

岩元 これまでパプアニューギニアの政府観光局から制作依頼を頂いてて、何度も現地で撮影を行ってます。かれこれ3年くらいになりますね。各地域を周って、自分で一番綺麗だと思ったところを選んでシューティングしています。

ーー機材に関しては、iPhone以外、何か特別なデバイスを使っているのだろうか?

iPhoneのCMで採用された作品に関しては、三脚のみです。外部のレンズも使っていません。

ーー前述の通り、岩元さんはタイムラプスでの撮影を行っているが、朝日の撮影は、露出をロックする機能を使っても、時間の経過とともに光量がどんどん上がり、やがて画面が真っ白になってしまう。かといって、自動設定にしておくと今度はフリッカー(ちらつき)が出てしまう。この問題はどうやって解決したのだろう。

岩元 オートでなく、明るさを固定するのはもちろんなのですが、ちょっとした工夫をしています。夜明け前に露出を固定するのはできないので、まず、暗い部屋の中に、昼と同じだけの光量の照明を用意します。この時はLEDを使いました。太陽と同じくらいの光量になるくらいまでの距離にiPhoneを近づけて、その状態でロックすると、朝日が登っても白トビしない映像を撮ることができるんです。

ーーこの辺りは、iPhone 6とiOS 8の組み合わせに拠るところが大きいように思える。iOS 8ではAE(自動露出)/AF(オートフォーカス)ロックに、独立して露出をコントロールする機能が加わった。

岩元 露出コントロール機能はすごく大きな意味がありますね。オートだけでなく、露出をコントロールできるのはとても大事で、露出をコントロールすることで表現の幅が広がりiPhoneのカメラの性能が発揮されるという面があると思います。

ーー撮影にはどんなアプリを使ったのか聞いてみると。

岩元 タイムラプスに関しては「Lapse It」というアプリと、iOS標準の「カメラ」アプリを併用しています。シャッタースピードを調整できるのか、ホワイトバランスが調整できるのかといったように、それぞれ操作できることが異なっているので、使い分けをしてますね。実際にテスト撮影してみて、こっちがいけるっていう判断を手探りでしています。撮影期間は一週間だったのですが、その間、毎日撮影して、ベストのテイクを選んでます。朝日と一緒に、夕日も撮ってますよ。今回は使用してないですが、他には「ProCam 2」というアプリをよく使ってます。これはマニュアルで触れる部分が多いので重宝しています。ただ、操作の簡便さという点でいうと、標準の「カメラ」アプリに勝るものはないと思ってます。一番簡単ってことは言うまでもないですけど、スローモーションの機能も優れています。少し前まで作品作りや番組制作ではスローモーション撮影用に専用のカメラを用意しなければならなかったんですが、そのカメラに合わせた水中用のハウジングも数が少なく、海に落ちてしまいそうな不安定な場所ではほとんど使えなかったんですね。それが、iPhoneではワンタッチで撮影できてハウジングもある。今撮りたいという瞬間は、それを逃すともう二度と訪れることはないんですよ、例えば、綺麗な鳥がいたとして、スローモーション専用カメラを回すとするじゃないですか、でもセッティングしてる間に飛び立って、もうそこにはいなかったりするわけです。iPhoneなら、今はスローモーションがいいとか、通常の撮影がいいという判断をして、一瞬で切り替えられます。

岩元さんが起ちあげた映像制作会社「IWAMOTO FILM STUDIO」のWebサイト。こちらでも多くの美麗映像が紹介されている

ーー機動力もiPhoneの長所のひとつである。

岩元 感覚で思ったことがそのままカメラに反映できるのは非常に大きいです。スローモーション用の機材もタイムラプス用の機材も、普段からすぐに撮れるよう、使い方には習熟している人でも、用意する、数秒、あるいは数十秒の間に、一番大事なものを逃してしまうということはよくあったので、ワンタッチで切り替えができるというのは衝撃でした。操作が簡単で機動力がある、その上、綺麗となれば、使わない理由がないですよね。海外の撮影では持込める機材の重量やクルーの人数に制限があったりします。現地で機材を調達するのも難しかったり、重い機材を運ぶためのクルーの人件費も莫大なものになったりしますが、iPhone一台で、これらの問題がクリアになるんですよ。他にも小さく機動力の強いカメラはありますが、僕は選ぶなら絶対にiPhoneです。なぜなら、iPhoneは操作画面が大きく、現在の状態も一目で分かります。なので、操作を間違うことがない。何より、アプリが豊富という強みがあります。カメラの機能が優れているというのは大前提として、例えば今回のようにタイムラプスで朝日を撮る場合、どの方角から太陽が昇るのかもアプリで調べておける。明後日の方向にカメラを向けてしまうという失敗がこれでなくなりますよね。雲の動きや天候も分かる。こんなにたくさんの機能がついているビデオカメラって、他にはないですから。

ーー何時ごろからiPhoneで作品を撮ろうと思ったのだろう? 最初に買ったiPhoneは何か聞いてみた。

岩元 初めて使ったのはiPhone 4Sです。買った時からカメラの機能は優れているって認識で、iPhoneでの作品撮りも構想してました。ですが、その時点ではタイムラプスもスローモーションも使えなかったので、導入はしてませんでした。でも、進化の方が早くて、実際に使うまであっという間でしたね。240fpsのスローモーションはTVの制作現場でもよく使われるのですが、みんなが見ているスロー映像を誰もがワンタッチで撮れる時代っていうのはすごいことなんじゃないかと思います。この機能が搭載された時は、すぐに作品撮りたいって衝動に駆られましたね(笑)。

ーー欲しい機能としては、やはり防水機能だそうだ。近いうちにiPhoneを搭載できるドローンが出てくるだろうと岩元さんは予想しているが、それを飛び越えて、iPhone自体が空を飛んでくれたらいいのにと夢も語ってくれた。Apple Watchとビデオカメラの連携にも期待しているとも。どうやら遠隔操作にご執心らしい。

インタビュー冒頭の「見ていただきたい」という作品がこの3分強の映像。生命の躍動や壮大な自然の魅力に満ち溢れる内容だ。陸上は岩元氏、水中は石川肇氏により全てiPhone6で撮影されている

ーーまた、普段持ち歩いているだけで、制作のモチベーションが上がるとのこと。携行することで、常に映像作家でいられるということも意味している。

岩元 日常の風景も、時間軸を変えて見ることができるようになるんですよ。一秒を10秒で見たり、1分を1秒で見たりすことができるようになる。現実の世界のこれまで知らなかった魅力に気づかされるんですよね。隠された感情なんかも露わになったりとか。とにかく楽しいですよね。この小さなデバイスの中にタイムラプスもスローモーションも撮れるカメラが入っているなんて、以前は想像できなかったですけど、専用機を使ってた人なら誰でも飛びつくでしょうね。作品を作る上での壁も取り払われると思います。いいアイディアを持っている人がいたとしても、それを具現化させるのが容易ではなかったんですよ。高い機材を借りたり、撮影部、照明部、録音部と、多くの人が関わってようやく形になるっていうところがありました。でも、これで埋もれたアイディアが世に出るチャンスが次々に生まれてくるのではないでしょうか。従来にはなかった表現や、新しい次元の見方も出てくると楽しみにしてます。僕自身、その中で良い作品を作っていけたらと。発表する場についてもYouTubeやVimeoなどがあり、環境は整っていますし。対象物を見て、こう撮りたいと思った方向にiPhoneがついてきてくれるというのは驚異ですよね。大きな機材を使ってきた人たちの努力やノウハウも無駄にならないとも考えていて、自分自身、今回の作品は過去の経験を踏まえて取り組んだ面があるんです。アナログでやった頃の知識や技術をiPhoneの中でしっかり反映できますね。使ったことのない人は簡単さや映像の美しさに驚くのでしょうが、プロフェッショナルな人たちもそういった知識や技術が活かされるというところに驚くのではないでしょうか。誰が使っても同じということではないですよね、反対に使う人によってまるで違ったものになる。その人その人の「思い」が乗り移ったものが撮れるというのがiPhoneなんだと思います。「思い」を写真や映像に取り込むのって難しいんですけど、本当に千差万別なものになるんですよ。それと撮った人の気持ちにも入りやすいですね。映像の向こうにiPhoneを持った人を簡単に想像できるっていうのがあると。それがあるから「思い」を乗せやすいのかなとも思いますね。

ーーなるほど、ある個人の発想や表現したいことをそのまま伝えられるというわけだ。コミュニケーションツールとしてのiPhoneの面目躍如といったところか。最後にこれからやってみたいことを伺ってみた。

岩元 地球上のすべての美しい場所に行きたいです。考えうる限り、ほとんどの環境にiPhoneが適応してくれるので、これまで撮影が難しかった地域でも、さあ行こうで、行けてしまうので。オーロラや雪原、深海ももちろん、空撮もしたいですね。そういう意味ではiPhoneで夢がかなり広がったのではないかと思います。