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「隠居」と言うと、仕事を退職して悠々自適に暮らしているお年寄りを想像するのが一般的だろう。ところが、都内在住の大原扁理(へんり)さんは、20代の頃から「隠居生活」を送っている。最低限の稼ぎでのんびりと暮らす究極のライフワークバランスを実現した大原さん。その暮らし方を教えてもらった。
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隠居歴は5年、今すぐにでもできる

――隠居生活について、教えてください

私は20代で隠居生活に突入しまして、都内でかれこれ5年ほど、悠々自適に暮らしております。隠居生活って、貯金を何十年も蓄えて、老後になってからじゃないとできないのでは? とか、親が金持ちだからそんな生活ができるんだろう、という声が聞こえてきそうです。でも実際やってみたら、そんなことはありませんでした。

私は大学も出ていないし、FXとかネットで手っ取り早く稼ぐ才能もないし、そこらへんにフツーによくいる一般人です。それで隠居できているとは、ますます意味がわからないかもしれませんが、これがタネも仕掛けもないのです。

――隠居生活ってお金がないと出来ないのでは?

いえ、アーリーリタイアして豪華客船で世界一周、みたいな景気のいいセレブ生活ならお金持ちじゃないとできないでしょうが、とくにこだわらなければ低所得者層の私にもできるものです。

隠居生活は老後でなくてもできる?

隠居という生き方

――そもそも隠居とはどのような暮らしですか?

広辞苑を引いてみると、「職をやめるなど世間から身を引いて気ままに暮らすこと」と書いてあります。うすぼんやりした定義ですね。これが隠居! と決まっているわけではなさそうです。乱暴にいえば、「自分次第でいくらでも隠居になれる」ということかもしれません。

以前、江戸文化研究者の田中優子先生が、「江戸時代の隠居は、仕事を完全に捨てることはせず、ゆるく社会と関わっていた」というようなことを仰っているのを聞きました。そこで私も、適度に社会から離れて、ひまつぶし程度に働くことにしました。現在は、週に2日だけ働いて、あとは気ままに好きなことだけをしています。

――隠居を始めたきっかけは?

上京してからしばらくは、都心に住んでアルバイトで生計を立てていました。ところが都心は家賃が高すぎて生活に余裕がなく、ストレスでじんましんが出てしまったことが…。

そのときつくづく思ったのは、「べつに贅沢してるわけでもないのに(むしろものすごく節約していたのに)、こんなになるまで働かなきゃいけないのって、ほんとは私がおかしいんじゃなくて社会のほうがおかしいんじゃないの?」ということでした。でも、実際の隠居生活へのきっかけは、もっと小さな、日常的な変化と選択の積み重ねだったように思います。

――日常的な変化、と言いますと…?

振り返ってみると、まずは心境の変化が先にありました。

・こんなに家賃が高い都心に、なんでわざわざ住まなきゃいけないんだろう
・選ばなければ仕事は他にもあるのに、なんでこの仕事をしてるんだろう
・ほとんど使ってないのに、なんで携帯を持ってるんだろう

当たり前だと受け入れていることを、とにかく疑ったり、自分に問いかけてみると、べつにこうでないといけないってことはないな、と思えて、肩の荷が吹っ飛びました。

――「当たり前」を捉え直したんですね

そうと決まったら、具体的に行動に移してみよう! と思いましたが、いかんせん私は小心者で一気に動くとなんか怖いので、じりじりと確実に条件を整えていきました。具体的には、

・23区外の安いアパートがないか、いつも不動産情報を気にしてみる
・携帯電話を解約したら、何か困ることがあるか、シミュレーションしてみる
・殺人的に忙しい仕事を辞めたいので、ちょっとずつ別のアルバイトに移行

というようなことです。やがて条件が揃ったな、と思ったとき、さっさと多摩地区に引越し、携帯も解約してしまいました。家賃は一気に都心の半額以下に。おかげであくせく働かなくてもよくなりました。以来、ずっと週休5日の快適生活を送っています。

――隠居生活の生活費などはどうしているのでしょうか?

週に2日だけ、介護の仕事を入れています。月に7~8万円収入がありますから、それ以下で生活するようにしています。ここには家賃や水道光熱費、食費、税金、交際費などすべて入ります

日々のスケジュール

週休5日という羨ましすぎる快適生活を送る大原さん。毎日はどのように過ごしているのだろうか。

――1日のスケジュールを教えて下さい

隠居とひと口に言っても、実際何をしているの? と思われるでしょう。隠居の私には、予定も遊びのお誘いもほとんどありませんので、スケジュールは基本的に白紙です。そのときどきでやりたいことをゆるゆるやっていると、一日は過ぎてゆきます。と、これで終わっても色気のない話ですから、よくある一日のスケジュールを公開しますと…。

6:00 起床
6:30 ラジオ体操
7:00 朝食
7:30 自由時間
11:30 昼食
12:00 自由時間
17:00 夕食
17:30 自由時間
22:00 就寝

自分でもつくづく、あんまり参考にならないスケジュールだなあと思います。ご覧のとおり、ほとんど自由時間なものですから…。とはいえ、自由時間にすることは、なんとなくあります!

――どのようなことをしているんですか?

掃除、洗濯、散歩、読書、料理、長風呂、メールチェック、食材の買出し、公園で日向ぼっこ、食べられる野草を摘みに行く、などなど。このなかから、やりたいと思えばやるし、やりたくないときはやりません。誰にも怒られないけど、ほめてもくれない。隠居ですから仕方ありません。

――食べられる野草…!

最近(6月上旬)では、桑がそこいらじゅうに生えているので、摘んできて桑茶をつくりました。材料費はもちろん0円です。ネットで調べたら、桑茶が1500円ぐらいで売っていました。桑茶は便秘の改善や、糖尿病の予防にもなる健康食品。飲んでみるとまろやかで甘くて、今日もほんのり幸せです。

私は現在、東京多摩地区に住んでいますが、よく探してみると、食べられる野草ってそのへんにたくさん生えてます。見分け方や調理法などは、拙著『20代で隠居』に詳らかになっていますので、興味のある方は手に取ってみてください。

――ありがとうございました!


大原扁理(おおはらへんり)
愛知県生まれ。東京都在住、高校卒業後、3年間ひきこり、海外一人旅を得て、現在隠居5年目。著書に『20代で隠居 週休5日の快適生活』(K&Bパブリッシャーズ)がある。ツイッターブログ