企業がSNSやメディアを活用する時、各社それぞれがさまざまなポリシーで運用している。その中でもローソンは、Twitter、Facebook、LINEなど、約20にも及ぶSNSを運用している。Twitterでは約79万、LINEでは1700万を超えるフォロワーを抱えるローソンのSNS運用について話を聞いた。

ローソンでは、TwitterやFacebook、LINEを中心に、MobageやVine、SNAPEEなど、画像や動画のSNSから女性向けの写真SNSまで、幅広いサービスを利用している。基本的には、新商品がリリースされると、それを紹介する投稿を行っており、「話題を最大化できるタイミングで投稿できるようにしている」(白井氏)という。

もともと同社がSNSを利用するようになったきっかけは、2010年に新浪 剛史社長(当時)からのSNSを強化するようにという指示だった。これを受けて、2カ月間の準備期間を経て、2010年4月からTwitter利用を開始し、その後Facebookなどに順次拡大し、現在の20メディアを利用するにいたった。

ローソン マーケティング統括本部 デジタルコミニュケーションプロジェクトリーダー 白井 明子氏

これだけ多くのSNSを利用しているが、当初は使い分けができていなかったそうだ。それが、現在はSNSに応じて使い分けをするようになっている。例えばFacebookでは商品紹介がメインで、「尖ったようなことはせず、エンターテインメント的なものは流さないようにしている」し、Twitterは「エンターテインメント感度が高い人が多いので、そういうものを流したりもする」のだという。

Twitterは、ユーザーのタイムラインが比較的流れていきやすいので、投稿数が多くても拒否反応は薄いが、逆にFacebookは、企業アカウントからの投稿が多いと逆効果になるため、「投稿は1日1~2回に絞っている」と白井氏。

Twitterは新商品やその時々のおすすめ商品なども投稿するが、Facebookはその時のメインの商材を1日1回程度の投稿に抑えるのだそうだ。LINEの場合は、配信回数に応じた利用料金となるため、さらに厳選して「勝ち残った商品だけ」を紹介しているという。

コンビニエンスストア業界では新商品の数が多いため、すべての新商品を紹介できるわけではないが、SNS、特にFacebookやLINEを見れば、その時の同社の一番のおすすめ商品が分かりやすいようだ。

投稿数だけでなく、内容にも変化を付けている。商品画像に関しては、投稿を直接見なくても、タイムライン上で商品がキチンを把握できるように、それぞれのSNSに合わせたサイズにもこだわっていると白井氏。

ローソンのWebサイトに掲載されているソーシャルメディアアカウント一覧。中には知らないメディアもあることだろう

しかも「TwitterやFacebookはよく仕様を変更する」ため、そのたびに画像サイズを変更しているそうだ。Twitterには140文字という制限もあるため、商品のコピーもTwitter用に独自に作り、文字数が納まるようにしている。

商品画像は、広報用の画像をそのまま使うのではなく、商品の特性に応じて新たに撮影も行う。SNSで拡散されやすいことを意識した写真にしているということで、例えば背景に飲み物を写し込ませて、「自分が食べている感じをイメージしやすい写真」を工夫しているという。

商品に応じて、Vineでの6秒動画が受けそうなら、商品がぐるぐる回るといった動画を作成するし、YouTubeで女性向けのスイーツのコンテンツも作成するなど、商品やターゲットにあわせた活用を心がけているようだ。

また、投稿時間も工夫しており、基本的には11時付近を狙って投稿しているという。これは昼休み時間にスマートフォンを見る人が多いからで、特にLINEはこれに強く、11時~11時30分頃に投稿している。

もう1つの特徴が、ローソンのSNS全体で利用されているキャラクターの存在。

「ローソンでアルバイトをしている女子大生」という設定で「ローソンクルー♪あきこちゃん」というキャラクターで統一。ローソンは、店舗の「95%以上がオーナーの運営しているもの」であり、アルバイトというキャラクターに愛着を持ってもらえると考えての採用だったという。

ちなみに、このあきこちゃんは都内有名大学に通う20歳の女性。とある理系大学に通う就職活動中のお兄ちゃんがいるという設定になっており、このお兄ちゃんもブロマガなどで登場している。2人ともサザエさん方式でいつまで経っても年は取らない設定だそうだ。

このキャラクター画像は、イラスト投稿サイトpixivにおいてコンテストを実施して募集したもので、当時珍しい手法だったために話題にもなっていた。

ただ、あきこちゃんは、SNS上ではあまりキャラを出さないポリシーになっている。白井氏はいわゆる「中の人」が変わってキャラクターがぶれることを避ける意味でも、返信はしないなどのポリシーにのっとった運用をしているという。

例えば、突発的に個人の判断で呟く、ということもない。リアルタイム投稿はしておらず、ほぼツールによるタイマー投稿を実施している。とはいえ、イレギュラーな投稿も可能で、例えば「台風の日に、コロッケを紹介したこともあった」と白井氏。また、テレビアニメ「天空の城ラピュタ」で「バルス」とツイートする"祭り"にも参加したそうだ。

大学生のあきこちゃん。とある有名大学に通ってるそうだが、言われてみれば、確かにそんな気もする

基本的なポリシーは、「全社的な連携に繋げる」ことだという。SNSは商品を拡散するためのツールであり、広報が発したリリースを広め、商品がきちんと店頭に並び、販促もついて、そして客が見せに訪れる、という全体の連動が必要だと白井氏は言う。

「ソーシャルだけではダメなんです」と白井氏。広報がしかけると社会的なムーブメントを作り出せるが、ソーシャルはそれを最大化し、タイミングを最適化するための「拡散屋さん」だと指摘する。当初、広告部に属していたSNSのチームも、広告のことだけでなく、全社的な動きに連携するという意識に変わってきたという。

ネットで人気になりそうな商品を選んでのアピールも重要で、「鉄板はからあげクン」。コラボレーション関係も人気で、特にアニメと連動したものは人気になるという。ほかには、手羽先の「世界の山ちゃん」とコラボレーションした商品は「過去最高に売れた」そうだ。

ローソンではTVCMも継続して提供しているが、「売れる商品は、ネットとテレビの両方でうまくいったもの」と白井氏。ネットだけでは情報が流れるスピードが速く、適切なタイミングでのアピールが重要だという認識を示す。

さて、ローソンといえばGoogleの位置情報ゲーム「Ingress」のポータルとしても知られた存在だが、これも白井氏のチームが運営している。まだ日本であまり普及していない段階でGoogleから声をかけられ、採用を決めた経緯があるが、現時点では、「想像以上の人がローソンに来てハックしている」。

白井氏のチームのIngress担当者は、担当して以来ゲームにはまってしまい、すでにレベルは16。Ingressに関しては担当者が一手に引き受けているそうだ。ローソン社内でも、50代の散歩好きの社員がIngressをしている例があるらしい。

もともと、ローソン社内で「健康アプリを作る」という案があったそうで、「それよりもよっぽどIngressの方が健康アプリ」であり、Ingress担当者もこれで痩せることに成功したという。白井氏も、Ingressによって散歩が増え、ローソンに寄る機会も増えるのではないかと期待する。

いわゆる"ガチ勢"が社内にいるローソン。レベル16は相当やりこまなければ到達できない"頂点"だ

Ingressを含めて、ローソンのSNSは、広報が発信するニュースをユーザーの元に落とし込み、店舗への誘導を図ることを心がけている。SNSを全くやっていなかったことに比べると、情報を広げることができなかったため、白井氏はSNSの効果を実感していると話している。