妊娠中は赤ちゃんへの影響を考えて、なるべく薬の服用は控えたいですよね。でも妊娠中だって、風邪にかかってしまう可能性はあります。その場合、受診するのは何科なのか、薬は飲まない方がいいのかなど、疑問に思うことも多いのではないでしょうか。妊娠中に万が一風邪にかかってしまったときに慌てないよう、対処法を知っておきましょう。

まずは予防のための対策を

風邪にかからないためにも、妊娠中には普段以上に健康的で規則正しい生活をするのが基本。できる限り7~8時間程度の睡眠時間をキープし、朝・昼・晩の食事をきちんと食べ、適度な運動をして元気に過ごせるようにしましょう。その上で、外から帰ったときは必ずうがいと手洗いをすることを習慣づけて。風邪のウイルスは、感染者の咳やくしゃみから飛沫(ひまつ)感染するので、大勢の人が集まる場所に行くときや感染症が流行っている時期には、マスクをつけるようにしましょう。また、冬はもちろん、夏場でも冷え対策は万全に。こうした対策は、インフルエンザなど、風邪同様に飛沫感染するほかの病気を予防するためにも有効です。

妊娠中の風邪は、産婦人科を受診

それでも風邪にかかってしまった場合、少し咳が出る程度のごく軽い症状であれば、ゆっくり休んで様子を見てもかまいません。しかし発熱や、薬の必要性を感じるほどつらい症状があるなら、産婦人科を受診することをおすすめします。風邪自体が赤ちゃんに感染することはありませんが、重い咳や熱は子宮の収縮を引き起こす可能性がありますし、時にはトキソプラズマのような赤ちゃんにも感染する風邪以外の病気にかかっている場合もあるからです。

インフルエンザの場合は、妊婦がかかると重症化しやすいので抗ウイルス薬を服用することが勧められますが、これは妊娠中に飲んでも安全な薬です。そのほか産婦人科で出される薬も、症状はもちろん、赤ちゃんへの影響や妊娠週数を考慮して適切に処方されたものなので安心です。自己判断で市販薬に頼るのは避けましょう。

妊娠初期の風疹は、赤ちゃんに感染するリスクが!

風邪以外で、特に心配なのが風疹のリスク。風疹は、免疫のない女性が妊娠中期に感染すると、胎盤を通して胎児に感染し、先天性風疹症候群を患って生まれてくる可能性があるからです。その症状には、白内障、難聴、心臓の構造異常などが挙げられ、2つ以上を伴うことも。一番の予防法は、妊娠前に抗体検査を受け、十分な抗体がない場合はワクチン接種を受けることです(この場合、ワクチン接種後2カ月間は避妊が必要)。

ただし風疹ワクチンは、妊娠中に接種することができません。そのため、妊娠初期の抗体検査の結果、抗体が不十分な場合にはうがいや手洗いを徹底し、人ごみを避けるといった対策が特に重要です。またパートナーにも抗体検査を受けてもらい、抗体が不十分であればワクチン接種を受けてもらうと安心でしょう。ちなみに、風疹の抗体は時間の経過とともに低くなるので、過去に風疹に感染したことがある場合や、すでにワクチンを接種している場合でも、抗体が不十分な場合があります。そのため産婦人科では、妊娠初期には妊婦全員が抗体検査を受けるのが一般的です。

普段は「寝ていれば治る」と風邪を軽視しがちな人が多いかもしれませんが、妊娠中は些細なトラブルから赤ちゃんに影響が及ぶ場合もあるので、できる限り感染を避け、感染した場合も早めに治すよう心がけましょう。また、風疹については、自分自身が感染しないだけでなくほかの妊婦さんに感染させないためにも、女性も男性もできれば独身のうちから予防接種を受けるようにしてください。

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善方裕美 医師

日本産婦人科学会専門医、日本女性医学会専門医
1993年高知医科大学を卒業。神奈川県横浜市港北区小机にて「よしかた産婦人科・副院長」を務める。また、横浜市立大学産婦人科にて、女性健康外来、成人病予防外来も担当。自身も3人の子どもを持つ現役のワーキング・ママでもある。

主な著書・監修書籍
『マタニティ&ベビーピラティス―ママになってもエクササイズ!(小学館)』
『だって更年期なんだもーん―なんだ、そうだったの?この不調(主婦の友社)』
『0~6歳 はじめての女の子の育児(ナツメ社)』など