電気信号や電源を通し、機械的な接続を行うコネクタ。民生用、産業用を問わず、あらゆる電子機器に搭載されている。その電子機器の小型化、薄型化、多機能化に伴い、コネクタもまた進化を重ねてきた。そしてついに0.5㎜ピッチながらフローティング量がXY方向±0.5mmの可動量を有し、多極、高速伝送に対応するというフローティングコネクタ(次世代コネクション)が登場した。しかし、そもそもなぜフローティングコネクタが必要なのか?

フローティングコネクタが負荷を吸収

例えば車だ。走るコンピューターともいわれるように、半導体をはじめとする膨大な電子部品を積んでいる。しかし、いくら部品が増えてもカーナビの収納スペースは限られている。そして車載機器の高性能、多機能化にともないコネクタも小型、多極化が必要になる。さらには大量のデータを処理するためには転送スピードの高速化への対応も必要だ。

XY方向±0.5mmのフローティング量により、こんなに可動することが可能になる

フローティングコネクタとは、基板間の接続において多少のコネクタの実装ズレが生じても嵌合できる自由度の高いコネクタのことで、従来までの単に嵌合を行う「リジッドタイプ」とは一線を画すものとなっている。そのメリットは負荷を吸収できる点にある。

基板間をコネクタで接続する場合、一般にそれらをネジ止めするケースが多い。ネジはすべて同じ方向に締めるので、そのトルクのモーメントがねじれの力として基板に働き、リジッドではコネクタを基板に実装するコンタクトテール部に負荷がかかり、コネクタのコンタクトテール部と半田付部において金属疲労で内部にクラックが入るリスクがある。これがノイズや誤動作の原因となってしまう。フローティングコネクタでは、コネクタのバネ部が可動する事によってその負荷を吸収できるのだ。また、コネクタの2個使いや複数枚の基板を使用した組立構造上誤差がある場合でもコネクタのフローティング量の範囲内で嵌合できるため、不良率を減らせるというわけだ。

進化したフローティングコネクタDTシリーズ

「フローティングコネクタそのものは以前からありましたが、ピッチ(極と極の間隔)が2.5mmや2mmと大きいコネクタでした。時代と共に1.5㎜、1.0㎜、そして0.8㎜、0.635㎜へと狭ピッチ化されて来ました。当社は9年前に『DYシリーズ』0.5mmのフローティングコネクタを開発し、フローティングコネクタの市場に参入しました。当時市場に出回っていたフローティングコネクタはフローティング量が0.15mmや0.25mmなど少ないもので、ほとんとがフローティング機能を実感できるものではありませんでした。

DYシリーズは0.5㎜ピッチながらXY方向±0.5mmの可動を実現する本格的なフローティングコネクタであったことから、その性能、品質においては今でも顧客から高く評価を頂いております。そして今回新しくリリースした『0.5㎜ピッチ・DTシリーズ』では、フローティングの量はXY方向±0.5mm のまま、高速伝送と240極までの多極化に対応していおります」(楠田氏)

9年間に渡り信頼を集める「DYシリーズ」(左)と高速伝送を実現した「DTシリーズ」(右)

と語るのはケル株式会社の楠田信行氏だ。1962年に創業した同社は、主に産業用のコネクタを開発、製造、販売している。同社が提供するコネクタはさまざまな電子機器に使われており、業務用のビデオカメラ、一眼レフデジタルカメラや、店舗などに設置される監視カメラ、そして複合機、カーナビ、PBX・基地局などの通信機器、パチンコやパチスロなどの遊技機器、さらには車輛機器や電力設備などのインフラにまで幅広く採用されている。

ケル株式会社 営業本部 営業業務部 部長 楠田信行氏

「『DTシリーズ』では、さらに『三次元接続』に対応していることも大きな特長の一つとなっています」(楠田氏)

三次元接続とは、水平、垂直、スタックの3種類の接続方法。設計の自由度を高めることができる。これが可能なフローティングコネクタが「DTシリーズ」だ。 また、今回大きく強化された伝送性能においては、高速シリアル伝送であるSATA3.0の要求項目をすべて満たしている。フローティングの構造を有しながら良好な高速伝送を実現するのは難しい。同社は10年以上前より高速伝送についての研究に取り組んで来ており、画像処理やメモリ周辺の高速なデータ伝送が求められる機器や市場での経験・ノウハウと技術が「DTシリーズ」にも惜しみなく投入されている。

自由な設計を可能にする「三次元接続」。左から水平、スタック、垂直の接続イメージ

細部にわたって高い技術力が惜しみなく注がれた

また、狭ピッチ、多極のフローティングコネクタを実現しているのは、ケルの開発力と技術力だ。同社ではプレス、めっき、成形と部品加工の部門があり一貫生産体制が出来るノウハウがあり、同社の強みとなっている。例えば、めっきの場合、高価な金をいかに均一に無駄なくめっきするかがノウハウである。またコンタクト形状へのこだわりもある。 コネクタの接点となるコンタクトは断面形状を円弧にすることで、異物の侵入を防ぐ形状としている。操作性においては、銅材料のロール面を使って多極であっても柔らかい挿入性を実現している。フローテイングコンタクトの形状、多極化への対応ができるのも、部品1つ1つの高い加工精度、組立精度のなせる技だ。

異物の侵入を防ぐ円弧状の接点形状

楠田氏によると、目下のところは「DTシリーズ」の認知を広めることに注力するという。既に販売している「DYシリーズ」は、車載機器に留まらず、発売以来の9年間に渡り様々な顧客、業界で採用されており、大きな信頼と実績を築いて来た。 今回、次世代コネクタとして開発した「DTシリーズ」も、既にフローティングコネクタが導入されている顧客、業界のみならず、これまでフローティングコネクタを採用していなかった顧客、業界にも広がって行く可能性、ポテンシャルは非常に高い。 楠田氏は「今後のボードtoボードコネクタはフローティングコネクタが業界スタンダードになる可能性があり、世界で戦える『DTシリーズ』を息の長い商品にしていきたい」と力を込めた。

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フローティングコネクタ「DTシリーズ」(ケル株式会社)