直近のニュース記事をピックアップして、「家電的な意味で」もうちょい深掘りしながら楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めている当連載。今回の題材はこれだ。

筆者は現在、取材でアメリカにいる。先週はWWDCでサンフランシスコにおり、Apple Musicの発表を目の前で見ていた。また、LINE MUSICについては渡米前に詳細な取材を行い、他誌に記事を書いている。

今回は、これら「ストリーミング・ミュージック」がどのような状況にあるか、改めて整理し、サービスの内容について分析してみたい。

Apple Musicを発表する、アップルのティム・クックCEO。昨年秋のApple Watch発表以来の「One more thing」だった

LINE MUSIC。日本では6月11日からサービスを開始。学割なら300円から、という低価格がポイント

「持っていない曲も聴きたい」ニーズが拡大中

ストリーミング・ミュージックは、音楽をダウンロードせず、すべてストリーミングで楽しむもの。月額の固定料金であり、会員である限りは、サービスが提供する膨大な楽曲が聴き放題になる。これまでのダウンロード配信は、ディスクを購入する代わりにデータをダウンロードして「所有する」ものだったが、所有している音楽以外は再生できない。ストリーミング・ミュージックは楽曲を所有できない代わりに、巨大なライブラリーへの入場パスを手に入れるようなものである。

この種のサービスはすでに海外では定着しており、世界的に人気な「Spotify」と、アメリカを中心に人気の「Pandora」が有名なところだ。Spoifyについては先日、全世界でアクティブユーザー数が7,500万人、有料会員数が2,000万人を突破した、との発表があったところだ。

ストリーミングというと「音質が悪い」というイメージを持ちそうだが、現在主流のサービスはそうではない。最高音質設定の場合、Apple MusicがACC・256kbps、LINE MUSICがAAC・320kbpsで配信を行う。ダウンロード配信もおおむねこの値に近く(ハイレゾ配信を除く)、もはや両者に音質上の差は小さいと考えていい。

ストリーミング・ミュージックの最大の特徴は、音楽の聞き方が変わってしまう点だ。

これまで我々は、持っている音楽だけを聴いていた。気になる音楽があったら、買う必要があった。1980年代はFMラジオのエアチェック、1990年代以降はCDのレンタルという手段もあったが、それは「安価に楽しむための補助手段」とも言えた。1990年代末から2000年代になり、音楽の違法ダウンロードなどが問題視されることもあったが、結局、手軽なダウンロード販売が定着することで、ある程度の沈静化を見た。

だが、そうした状況がさらに大きく変わったのは、YouTubeやニコニコ動画によって、無料で音楽を楽しむ人々が増えてきたことだ。特に10代・20代までの若年層では、スマートフォンを使い、無料で音楽を楽しむ人が増えている。現在、携帯電話事業者にとっての「ヘビーなパケット利用者」は、固定回線の代わりに使って、データを大量にダウンロードする人々だけでなく、「スマホでYouTubeをジュークボックス代わりにする学生」も多くなっている。そのくらい、音楽の聴き方が変わっているのだ。

安価に楽しむ手段は、1980年代のカセットテープから現在のYouTubeに

YouTubeでは「無料で音楽が聴ける」だけではない。「自分が持っていない音楽が聴ける」ことが、これまでとの大きな違いだ。友人・知人から教えられたり、どこかで見聞きしたりした音楽を、買わずに何度も聴けるという点で、YouTubeは優れた音楽プラットフォームだ。

だが、音楽関係者はそれを良くは思っていない。「海賊版」という話ではない。今はプロモーションのために公式にアップロードされた曲も増えているので、聴くことは問題ではない。問題視されているのは、広告がベースになった収益体系では、音楽出版社やアーティストへの還元額が増えにくく、収益に結びつきづらい、という点だ。

だからこそ、「無料で聴き放題」がすでにある現状でも、別の「聴き放題プラットフォーム」を準備する必要が出てくる。それが、ストリーミング・ミュージックなのである。