【レポート】

増収増益のすかいらーく、その背後にはビッグデータの活用があった

ガストやジョナサン、バーミヤンなどの外食チェーンを傘下に置き、日本全国に約3,000店舗を展開する すかいらーくグループ(以下、すかいらーく)。そのマーケティング部門は2013年秋、マーケティングROIの可視化に乗り出した。

すかいらーくグループ公式Webサイト

この目的の下、同部門は、Amazon Web Services(AWS)上のデータ・ウェアハウス(PostgreSQLベースのカラム型データベース)となる「Redshift」を採用。同環境に、グループ国内全店のPOSデータを投入した。

POSデータの規模は年間約10億件。それを5年分――つまり、約50億件のデータを――Redshiftに投入したのである。また、同社では、レシート情報もデータ・ウェアハウスに取り込み、レシート番号カットで、売れた商品と売上げを把握できるようにもした。これにより、単に、商品ごと、地域ごと、店舗ごとの売上げだけではなく、「どの商品とどの商品がセットで良く売れているのか」や「顧客単価」「顧客収益」が細かく割り出せるようになった。

こうしたデータ・ウェアハウス環境を用い、TVCMや新聞の折り込みチラシなど媒体ごとの広告効果(ROI)を精緻に分析。それに基づき、資源投入をTVCMから新聞の折り込みチラシ広告へと一部シフトさせたこともある。ROIの見える化による販促費の最適化は、売上拡大の中での「広告費の削減」に大きく寄与し、2014年上半期において、前年同期から40億円の売上アップを果たす一方で、3億円の広告費削減を成し遂げている。

リニューアルを行った人気商品の発売記念キャンペーンの際には、その低価格さを強く打ち出した結果、客単価が大きく落ち込むという事態に見舞われた。そこで、商品の作り手側が最も思い入れの強い、最高グレードの商品をきちんと訴求する戦略に変更。この結果、テスト時に比較して数千万円の収益アップにつながったようだ。これも、客単価がすぐに把握できるシステム活用の1つの成果といえる。

2014年4~5月期に実施したメニュー戦略 提供 : すかいらーくグループ「2014年度通期決算説明会資料」

2014年度に実施したプロモーション最適化の概要 提供 : すかいらーくグループ「2014年度通期決算説明会資料」

さらに、同社はかねてから、いわゆる「ケータイクーポン会員」の仕組みを回し、携帯電話を通じて会員に割引クーポンを配布してきた。そうした施策の効果を測るうえでも、顧客単価や収益などが分析できるデータ・ウェアハウスは有効に機能している。

技術の進化でビジネスのスキルが分析に活きる

マーケティングROI分析の効果と実績を評価したすかいらーくは、マーケティング本部内に「インサイト戦略グループ」と呼ばれるデータ分析専門のチームを立ち上げる決断を下した。このチームのミッションには、マーケティングROIの「科学的な分析」のみならず、「業績管理」のフィールドへと広がっていった。

インサイト戦略グループは、いわゆる「データ・サイエンティスト」が中心を成す組織だ。こう言うと、統計解析のプロの集まりと思われるかもしれないが、実はそうではない。もちろん社外から来たデータ・マーケティングのプロもいるが、多くが、店舗の現場で経験を積んできたビジネス・パーソン。なかには、チームに入るまで、「Excel」にすら触れたことのなかったスタッフもいるという。

そのチームが、マーケティングROIを分析し、仮説・検証の中で必要な施策を提示したり、業績上、どのような問題が起きているのかを、地域別・時間帯別などの売上げの可視化によって分析したりしているわけだ。

すかいらーく マーケティング本部インサイト戦略グループコンシューマー インサイトチームリーダー 瀬良豊氏

「数年前のITインフラやソフトウェア・ツールだったら、ビジネス現場の担当者がいきなり、マーケティング分析をしろと言われても、とても対応できなかったでしょう」と、すかいらーくのマーケティング本部インサイト戦略グループコンシューマー インサイトチームリーダー、瀬良豊氏は語る。

「しかし現在は、クラウドの働きで、必要なITリソース・ソフトウェアが、特別な技術スキルがなくても入手できます。Redshiftにしても、インデックスをどう張るか、どのようにパーティションを切るか考えることなく、膨大な生データを分析する基盤が作れます。加えて、我々が使っている分析ツールは、統計の知識やExcelのピボットテーブルを駆使せずとも、ビジネスの視点で、さまざまな角度からデータを参照したり、分析することが可能なのです」(瀬良氏)


同氏が言及した「分析ツール」の1つは、「Tableau」だ。インサイト戦略グループでは、業績管理の業務にTableauを活用しており、その働きによって、日々の分析・リポート作成処理が(Excelを利用していた)従来に比して格段に簡単になり、また、飛躍的にスピードアップしているようだ。

「Tableau Desktop」製品画面 イメージ

さて、これまで、企業内のデータ・サイエンティストの要件についてはさまざまな議論がされてきたが、「会社の業務・事業に関する知識・スキル・経験が最も重要」との見解が大勢を占めつつある。というのも、ビジネスの経験値や知識がなければ、「データの裏側にある "なぜ" 」が的確に想起できないからだ。

例えば、ある店舗の売上げが落ちていることが判明したとしても、現場カンがなければ、その要因を「これではないか」と想像できず、仮説が立てられない。仮説が立てられなければ、適切なデータ分析も進められないことになる。

「私たちは、いい分析には、いい仮説が必要で、いい仮説には、現場の経験が大切だと確信しています。また、データ・サイエンティストは、正しい方向を示すのと併せて、他の組織・現場を巻き込んで、分析を実際の "アクション" へとつなげる能力も備えていなければなりません。そのためにも現場の経験は必須ですし、現場の経験がなければ、現場がとても対応できないような施策を提示してしまうおそれもある。ですから、私たちのチームは、現場の出身者を中心に構成しているんです」(瀬良氏)

そして、現場の経験をフルに生かしたデータ・サイエンスを可能にしているのが、進化したITであり、Redshiftであり、Tableauであるということだ。

躍進する「ガストアプリ」、効果はケータイクーポンの90倍

2015年5月時点で、すかいらーくのインサイト戦略グループでは、マーケティング施策の一環として、スマートフォン向けのアプリケーション(スマホアプリ)「ガストアプリ」を運用する。その狙いは、顧客の来店回数を高めることだ。

すかいらーくのインサイト戦略グループが運用するスマホ向けアプリケーション「ガストアプリ」イメージ

同社のグループ全店のユニーク来店者数は、年間で7,000万人に達し、3年間のユニーク数になると1億人規模にも及ぶ。となれば、新規顧客の開拓をねらった施策よりも、既存個客の来店頻度を高める施策のほうが費用対効果は高くなる。

この考え方に沿った施策として、同社は、グループ国内全店を対象にしたケータイクーポン会員の仕組みを回してきた。だが、若い世代を中心にケータイからスマホへの移行が急激に進んでいる。しかも、スマホアプリの場合、メール送付のユーザー・パーミッション(ユーザー同意)も、ケータイを通じた会員サービスなどに工夫の余地も大きく、ユーザーのメール開封率もやり方によっては大きく伸ばせるといった特性もある。そうしたスマホアプリの利点が、ガストアプリのリリースへとつながったわけだ。

ガストアプリを用いたプロモーション戦略 提供 : すかいらーくグループ「2014年度通期決算説明会資料」

巧みな「アプリ・マーケティング」もあり、ガストアプリは、急速にそのユーザー数を増大させ、ローンチから7カ月が経過した2015年4月時点で、すでに300万人が同アプリをダウンロードしている。

すかいらーくのケータイクーポン会員も1,000万人に達しているが、こちらはグループ約3,000店舗を対象に8年をかけて積み上げたものだ。ガストアプリは、その半数の店舗を対象に7カ月で300万ユーザーを獲得しており、会員獲得スピードはケータイクーポン・サービスの10倍近くになる。

また、ガストアプリのメール開封率もケータイクーポンの3倍で、メール送付パーミッションの承認率も2~3倍におよび、それらを掛け合わせるとガストアプリは、ケータイクーポンの90倍の効果を発揮している計算になる。

インサイト戦略グループでは今後、機械学習のテクノロジーを利用し、アプリを通じたOne to Oneマーケティングをより洗練させていくという。具体的には、機械学習のソフトウェアを用いて、「どの顧客に、いつ、どのようなクーポンを送るのが最も効果的か」を判断し、「ほしい人だけに、ほしいクーポン・情報を、適切なタイミングで届け、来店の確率を高めていく」というわけだ。

すでに、すかいらーくでは、顧客ごとの来店確率を算定し、確率上位の顧客にクーポンを送付するという施策を試験的に展開したが、それによってコンバージョンレートが通常の3倍になることが確認できたという。こうした結果を踏まえ、今後も機械学習技術によるマーケティングのインテリジェント化を推し進めていく構えだ。

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