恋愛において、自分と似た人を好きになるという説と自分とは似ていない人を好きになるという説があります。これって、言っていることが正反対ですよね。果たして、どちらが正しいのでしょうか。

「類似説」と「相補説」とは

人が誰かに惹かれる、誰かのことを好きになるというのは、心理学における対人魅力の研究で検討されてきました。たしかに、自分と似た人を好きになるという説と、自分とは似ていない人を好きになるという説の両方があります。前者を「類似説」、後者を「相補説」と呼んでいます。実は、研究者の間でもさまざまな議論があり、どちらが正しいかははっきりしていません。

例えば、自分と性格や態度、嗜好(思考)が似ている人は、一緒に居て楽ですよね。デートで夕飯なにを食べようか考えるとき、嗜好が違うと決めるだけで一苦労です。しかし嗜好が一緒だと、相手が食べたいものが自分と一緒なのですぐ決まります。人間は、けっこう面倒なことを避けたがる生き物なので、自然と自分と似ている人に魅力を感じてしまうのかもしれません。

その一方で、自分がもっていないものを持つ人に魅力を感じるのも事実。背が低い人は高い人を、スポーツが苦手な人はスポーツが得意の人に惹かれるというのはよくある話です。人の好意は複雑で、そのときどきの状況によって、どちらかの要因が強く働くとしか言えないのかもしれません。ですが、その秘密を握っているかもしれないお話をご紹介しましょう。

社交的だと「類似説」で内向的な性格だと「相補説」が働く?

わたしたちが生きる社会には、社会から見て望ましい性格や特徴というのが存在します。例えば、明るい性格、社交的な性格というのは、社会から見て望ましい性格ですよね。実は、いくつかの研究のなかで、社会的に望ましい特徴については類似説が、そうではない場合については相補説が作用するとも言われているんです。

つまり、明るく社交的という性格をもっている場合、同じ性格をもっている人に惹かれます。つまり類似説が働くわけです。ですが、内向的な性格の人は社交的な性格の人に惹かれます。つまり、相補説が働くわけです。相手や自分のもつ特徴によって、相補説か類似説かが決まってくるといえます。ですが、それも二者択一というわけではなく、それぞれの特徴でまた変わってきます。また、社会手にな望ましさというのは時代や文化、社会が変われば当然変わってきます。

人の心理というのは、とても複雑なものです。心理の研究をしていても、わからないことだらけです。でも複雑だからこそ、人は魅力的なんでしょうね。

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著者プロフィール

平松隆円
化粧心理学者 / 大学教員
1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理にも詳しい。現在は、生活の拠点をバンコクに移し、日本と往復しながら、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は『化粧にみる日本文化』『黒髪と美女の日本史』『邪推するよそおい』など。