米Qualcommは2日、台湾・台北市で開催中のComputex 2015ででプレスイベントを開催。同社製品と他社製品の比較や、中国Allwinnerとの提携、802.11ac対応の新チップを発表した。

Sanpdragon 810と他社製品のパフォーマンス比較

Qualcomm Technologies 担当副社長のTim McDonough氏

プレスイベントの最初に登壇したのは、Qualcomm Technologies(Qualcommの技術開発企業)マーケティング担当副社長のTim McDonough氏。同氏は、Qualcommのスマートフォン用チップセットSanpdragon 810(X10 LTE内蔵)と他社製品の比較を行った。ただし、具体的なメーカー名は明かさずに、A社、B社、C社としてそれぞれ中国、米国、韓国の企業であるとした。

比較は、モデムとアプリケーションプロセッサのカタログスペックで行なわれており、このうち、B社を除く、A社とC社に関しては、ベンチマークやカメラによる撮影性能など実機での比較も行なわれた。

2015年のSanpdragonラインアップ。最上位の810から210まである

比較対象となったQualcommの製品と他3社のスペック比較

各社のモデム機能とSanpdragon 810(X10 LTE内蔵)の比較

中国企業A社とSanpdragon 810のアプリケーションプロセッサの比較。GL Benchmarkとなっているのは、現在GFXBenchと呼ばれるているグラフィックスのベンチマーク。Manhattanはそのベンチマーク項目のひとつ。数値が大きいほうが性能が高い

韓国企業C社とSanpdragon 810のアプリケーションプロセッサの比較

Qualcommは、過去にプロセッサの発熱量を他社と比較するため、スマートフォンの上にチョコレートなどを乗せて溶けるかどうかを見せるというデモを行なったことはあった。そのときも具体的な企業名は公開していなかった。

しかし、今回は企業名は出していないといってもスペックなどを調べれば、どこの製品であるかがわかる程度にまで情報が公開されており、かなり強烈な比較となっていた。

短時間に多数の撮影を行なって合成を行なうHDR撮影では、CPU性能などにより、動きの速い部分が消えてしまうゴースティングが発生する

センサーで向きや方角を検出しながら画像を処理するパノラマ合成でもプロセッサ性能などによっては計算誤差により継ぎ目が出てしまう

中国Allwinnerとの提携で新興市場を攻める

また、同氏は、中国でAllwinner Technologyとの提携を発表した。AllwinnerもQualcommと同じく、ARMベースのアプリケーションプロセッサを製造しているファブレスの半導体メーカー。いわば競合メーカーである。

低価格な新興国向けのスマートフォンなどは、中国などの半導体メーカーが、メインボードのリファレンス設計だけでなく、筐体設計、液晶部品などスマートフォン全体の設計情報、製造方法などに関する情報を含む総合的な「ソリューション」を提供する。

これにより過去に携帯電話を作ったことがある程度の技術力を持った製造メーカーであれば、スマートフォンの製造に乗り出すことができる。これはかつてIntelなどが行った方法と同じだ。

新興国向けのスマートフォンやタブレットに採用されているSoCは、このようにして採用が決まっていく。先進国ではスマートフォンやタブレットの成長は鈍化しているが、新興国では依然として高い成長率があり、新興国を狙うことで、半導体メーカーも大きく成長できるわけだ。

これに対して、Qualcommなどのハイエンド指向の半導体メーカーは、新興国向けの競争に取り残されつつある。それは、中国の製造企業との関係が薄く、また、中国などの半導体メーカーのような総合ソリューションを提供していないからだ。

今回のAllwinnerとの提携は、Qualcommが本格的に新興国企業をターゲットにしたことを意味する。ゼロから立ち上げるよりも、すでに関係の深い企業と提携することで、短時間で中国の製造メーカーへのアプローチが可能になる。

実は、この手法を使うのはQualcommがはじめてではない。すでにIntelは、2014年に中国の半導体メーカーを買収、2015年にも、Rockchipとの提携を発表し、この分野に対して攻勢をかけている。

160MHzに対応した802.11acチップを発表

さて、2番目に登壇したのは、Qualcom Atheros 副社長でプロダクトマネジメントのIrvind Ghai氏。同氏は、新しい無線LANチップQCA9984とQCA9994を発表した。同チップは、MIMO技術を使い、複数のクライアントと同時通信を可能にするMU-MIMOを採用しており、複数の機器がある場合でも、機器1台が利用できるバンド幅を確保でき、通信効率が高い。

SU-MIMO(左)とMU-MIMO(右)の比較。SU-MIMOでは最大バンド幅を使って1台と通信、相手を順次切り替えていく。これに対してMU-MIMOでは、バンド幅を分割して同時通信を行なう

Atherosの無線LAN製品MU EFXを採用する製品

発表した2つのチップのうち、「QCA9984」は家庭向け無線ルーターなどを想定したもので、一方の「QCA9994」は企業向けアクセスポイントを想定したものだ。どちらも802.11ac対応のMU|EFXとよばれるシリーズに属するチップとなる。

今回発表されたQCA9984とQCA9994

802.11acで最大4ストリームの同時通信が可能で、同時に4クライアントがバンド幅80MHzを使って並列に通信できる。また、複数のストリームを束ねて高速な通信を可能にすることもできる。また、2ストリーム(160MHz)の場合、非連続のチャンネルを使うことも可能になり、無線LANが過密な場所でも高いスループットを達成しやすいという。

QCA9984の通信パターン。MU-MIMOだけでなくSU-MIMOでの通信も可能。相手の通信性能により同時通信できる台数がかわる

他社の無線LANチップとの比較。左がAtherosのもの。右側の製品と比べて画面下に表示されているグラフが高い位置を保っている

最後に登場したPeter Carson氏(Qualcomm Technologiesのマーケティング担当シニアディレクター)は、発表済みであるUEカテゴリー10となるLTEモデムを紹介した。また、すでに多くの事業者がカテゴリ6でサービスを行なっており、カテゴリー9がすでにテストや開発段階にあるとした。

紹介されたカテゴリー10モデムX12LTE